医師や看護師は何に満足したか
ボストン小児病院で「Alexa」が活躍、ハンズフリー操作や、治療手順の検索に貢献
ボストン小児病院では、音声認識技術を臨床現場で利用した3つのパイロットスタディーを実施し、一定の成果が得られたという。現場で使われたのは「Echo Dot」をはじめとするさまざまなAmazonデバイスだった。
一般家庭に普及してきた音声認識技術は、医療業界でも臨床現場で使われるようになってきた。
ボストン小児病院(Children's Hospital Boston)は、3つのパイロットスタディーで音声認識技術の試験運用に成功した。これらの研究は、ICU(集中治療室)を含む院内のさまざまな環境で臨床医と看護師がスマートスピーカーを使うというものだ。
この3つのパイロットスタディーでは、下記の3つの用途で音声認識技術を使った。
- ICUチームに誰が参加したかの記録
- 臓器移植の確認事項や手術のチェックリストの確認
- 手順の質問
「これらのパイロットスタディーはわれわれに、臨床現場における音声認識技術の可能性を示してくれた」と、ボストン小児病院のイノベーションおよびデジタルヘルス推進担当のパートナーシップマネジャーを務めるデビン・ナダー氏は語る。同氏は将来、医療現場向けパイロットスタディーで音声認識技術の新しいバージョンを試す計画だ。
臨床現場で音声認識技術を利用する
ボストン小児病院は3つのパイロットスタディー全てで「Alexa」プラットフォームを採用したが、環境に応じてさまざまなAmazonデバイスを使用した。ICUでは、臨床医は「Echo Dot」を使った。
このパイロットスタディーでは、臨床医はスマートスピーカーを使って音声を認識させ、誰が治療チームに参加したかを患者ごとに記録したり、ポリシーやガイドラインを質問したりすることができた。「ポリシーやガイドラインは長文のため、われわれは、Echo Dotにそれらを読み上げさせるのではなく、モバイルアプリを組み合わせて使うことにした」と、ナダー氏は説明する。
「例えば、『大量輸血プロトコール(治療計画、治療手順のこと)を見せて』と言うと、スマートフォンにそれが届いて、目を通すことができる」(ナダー氏)
ICUの壁には質問リストを掲示し、臨床医や看護師が、スマートスピーカーにどのような質問ができるか分かるようになっていた。例えば「今の主任看護師は誰?」「第5室の呼吸療法士は誰?」といった質問が可能だった。ICUのパイロットスタディーでは、スマートスピーカーとのやりとりの70%程度が、「臨床医が求めていた通りのものだった」とナダー氏は語る。
移植臓器の確認プロセスや手術のチェックリストのパイロットスタディーでは、「Amazon Echo」デバイスが多くの場面で使われたが、「医師の希望によってデバイスはよく変わった」とナダー氏は説明する。最初は「Echo Show」が用意されることが多かった。これは情報を表示するディスプレイ付きのデバイスだ。
ナダー氏は、Echo Showについて「多くの点で画期的だった」と語る。スピーカーをコンピュータ画面やスマートフォンと接続して、情報を引き出す必要がないからだ。
移植臓器の確認プロセスの中で音声認識技術を使うことは、臨床医にとって、ハンズフリーで臓器確認やチェックリスト確認ができるというメリットがあった。音声認識技術を使わない場合、臨床医はコンピュータに情報を打ち込んでこれらを確認しなければならなかった。
「人々が項目を1つ1つ声に出してチェックリストを確認するのを、Alexaのスキルが録音するようになっていた」(ナダー氏)
ナダー氏によると、手術チェックリストのパイロットスタディーは、手術チームのメンバーが手順のチェックリスト達成を支援するように設計されていた。
AmazonデバイスはHIPAA法(米国における医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令)に準拠していなかったため、一部のAlexaスキルは「創造的な解決策」を必要とした。だが、ボストン小児病院の研究開発チームは、数年前からAmazonプラットフォーム用のスキルを開発しており、患者のプライバシーを保護しながら、医療環境に合わせて独自スキルを構築したという。
音声認識技術パイロットスタディーの教訓
ボストン小児病院のパイロットスタディーでの経験は、「『何を質問でき、何を質問できないか』が分かるように、臨床医と看護師に音声認識技術の使い方を教える重要性を示している」と、ナダー氏は振り返る。さらに同氏は、「注意しなければならないのは、医療従事者が出来の悪い音声認識技術を使って、時間を浪費しないようにすることだ」と付け加える。
バンダービルト大学で生物医学情報学助教授(医学博士)のヤー・クマークリスタル氏も同じ意見だ。同氏は、同大学医療センターのEHR(電子医療記録)音声アシスタント「V-EVA」の主席研究者でもある。
「こうした技術で重要なのは、最初から良好に機能する必要があるということだ。さもないと、人々は不満を持ち、その技術の導入という構想自体に見切りを付けてしまう」と、クマークリスタル氏は説明する。
「われわれが採用している音声認識技術に関する原則は、『質問して答えを得るのが、検索と比べて簡単でなければならない』というものだ」(クマークリスタル氏)
ナダー氏は「音声認識技術の導入を成功させるには、信頼できるコンテンツを用意することも重要だ」と語る。ナダー氏は、「音声アシスタントについては、『漠然とした不安』を持つ向きもある。だが、情報ソースがボストン小児病院であることを知っていれば、臨床医はその情報を信頼する」と説明する。さらにナダー氏は、ICUのパイロットスタディーは、院内データベースと密接に統合されていたと付け加える。
「1人1人に『スマートスピーカーを使うことで、あなたはこうした音声スキルの開発に貢献している。それは開発者の負担を軽くすることにもつながっている。とてもありがたい』と伝えることは、研究に積極的に参加してもらうのに非常に効果的だ」(ナダー氏)
音声認識技術の医療への応用とそのメリット
「パイロットスタディーが成功した一番の理由は、ユーザーの発案から始まったからだ」とナダー氏は語る。臨床医の方から「ハンズフリーになるので、音声認識技術を使いたい」とアイデアを持ち掛けてきたという。ハンズフリーになれば、細菌感染の減少に役立ち、緊急状況で時間を節約できる。手袋を外してコンピュータで情報を検索せずに済むからだ。
「さまざまなチームがこのことでわれわれのところにやって来て、『便利になるので、システムを作ってほしい』という要望が寄せられた。われわれは臨床チームに背中を押してもらった」(ナダー氏)
音声認識技術には、手ごろなコストで利用できるというメリットもあると、ナダー氏は語る。Alexaは100ドル程度、Echo Dotは50ドル程度だ。さらに、柔軟で使いやすい開発プラットフォームにより、重要な情報に魅力的なメディアですぐにアクセスできるハンズフリーインタフェースを作成できるという。
「ボストン小児病院は拡張を進めており、数年後に新しい臨床棟を建設する計画だ。そこでは、できるだけ未来を見越したものを取りそろえてほしい。そうした中で音声認識技術は非常に強力な存在感を発揮するだろう」(ナダー氏)
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