リンダ・ヒル氏のマネジメント論
「集合天才」を支えて環境を整える、それがイノベーションリーダーの役割だ
ハーバードビジネススクール教授のリンダ・ヒル氏は、イノベーションリーダーの役割とはステージセッター(環境整備者)であり、チームが天才性を発揮できるように支えることを自身の役割として認識することが必要だと説く。
「事業の成功はイノベーションを継続的に起こすことにかかっているからこそ、リーダーシップに関する従来の考え方はもはや通用しない」とリンダ・ヒル氏は言う。同氏はハーバードビジネススクールの経営管理論担当ウォレス・ブレッド・ドーナム記念講座教授であり、書籍『Collective Genius: The Art and Practice of Leading Innovation』の共同著者である。
ヒル氏は、当時のリーダーシップ研究分野の草分けであり、自身のメンターでもあるジョン・ポッター氏やウォーレン・ベニス氏などの学者を例に挙げ、彼らがリーダーシップをどのように定義していたかを引き合いに出した。彼らにとって、リーダーシップは概して、ビジョンを持ち、そのビジョンを伝え、そのビジョンを他の人に実現してもらう能力のことを指している。「変化を先導するにはこのようなトップダウン型の手法は効果的だが、イノベーションを先導する場合は別だ」と、ここ十年間世界中のイノベーションリーダーを研究してきたヒル氏は主張する。
ヒル氏は、PTC(Parametric Technology Corporation)主催の年次カンファレンス「LiveWorx 2018」の基調講演で次のように語り、イノベーションを先導することに関してITプロフェッショナルに助言を提供した。「イノベーションリーダーは自身の主な役割について、ビジョンを持つことではなく、他人が進んでイノベーションを進めていけるような状況を作り出すクリエイターだと見なしている」
言い換えればイノベーションリーダーになるに当たって、「この方向に進んでいく」と前面に立って皆に言う必要性は必ずしもない、ということをヒル氏は示している。代わりに「ステージセッター」になる、つまり実際に動いてもらう人に共通の目標を示し、それをもとに動けるようにするのだ。
「イノベーションを起こしたい、何か新しいことに取り組みたいと考えているなら、個人の能力や情熱を解き放つ必要がある」とヒル氏は言う。
しかし、イノベーションリーダーがそれら個人のイノベーションのひらめきを取り入れたいならば、チーム内の異なる考え方や能力、情熱全てをまとめ上げて集合のニーズを実際に満たす方法を模索する必要がある。これはリーダーが直面する数多くの試練の1つだ。「解き放ち、まとめることができるかが試されている」とヒル氏は言う。
余地を与える
イノベーションを引き起こす時は無理やり促すよりも、正しい方向にそっと押してやったほうがよい、とヒル氏は語る。
「イノベーションを起こせと命令することはできない」とヒル氏は言う。「形式的な権限を持っていても、他の人が実際にイノベーションを起こすかどうかということとは関係ない。彼らが自ら進んで、気持ちの面でも頭で考えた上でも、骨の折れる仕事をするように導く必要がある」
イノベーションを成功させる最後の鍵は、これらの業務を行う人が「リーダーに従って未来へ進みたいのではなく、リーダーと共に未来を作りたい」と考えているのだと理解することにある、とヒル氏は言う。イノベーションリーダーは共創が起こり得る空間を作る必要がある。リーダーのビジョンが終点ではなく開始点となるような空間をだ。
「スティーブ・ジョブズ氏は、イノベーションは1人の天才によって生み出されるものではなく、集合天才(collective genius)によって起こるものだということを理解していた」とヒル氏は言う。「イノベーションはチームスポーツである。(ジョブズ氏のような成功を収めたイノベーションリーダーは)イノベーションを起こせるようになりたいなら、コミュニティーに溶け込む必要があると本気で考えていた」(ヒル氏)
ヒル氏は、彼女の友人であり研究対象でもあるビル・コフラン氏(Googleの元エンジニアリング部門担当シニアバイスプレジデント)から幾つかの興味深い助言があったことを伝えてくれた。イノベーションを実際に行う人が指示を求めて尋ねてきた時、コフラン氏がイノベーションリーダーに与えた助言は「はっきりした答えを明示しないこと」だった。
「イノベーションを行う人は神経質になり、落ち込んで、イライラしてあなたのところにやって来て指示を仰ぐだろう」とヒル氏は言う。「しかし最初に指示を与えてしまうと、それで終わってしまう。あなたに頼りすぎてあなたに職務をゆだねてしまい、必要となる共同作業ができない」
イノベーションリーダーの仕事は「価値創造者」というだけでなく、「ゲームチェンジャー」になる方法を肩書にかかわらず組織全員にコーチングすることだ、とヒル氏は説く。価値創造者とは、パフォーマンスの格差を認識しこれを埋める方法を知っている人だ。パフォーマンスの格差とは、自社が現在位置するところと、これから目標とするところの間にあるギャップのことだ。ゲームチェンジャーとは、「機会の格差」を認識し埋める方法を知っている人だ。「機会の格差」とは、自社が現在あるところとこれから進み得るところの間にあるギャップのことだ。
実際にイノベーションリーダーが人材を手放したくないなら「機会の格差に取り組むチャンスを彼らに提供する必要がある」とヒル氏は言う。通常それは、その人材を最先端のプロジェクトに従事させることを意味する。イノベーションリーダーがこれをしなかった場合、その人材は新しいものを生み出すために必要な専門知識を学べず、その結果、自分の市場価値が上げられないため、離職してしまう可能性が高い。
イノベーションリーダーは、ビジョンを持たないわけにはいかないようだ。新しいものを生み出す環境や人材が喜々としてイノベーションを起こす環境を構築するためには、リーダーは技術とイノベーションに関して明確な「考え方」を持つ必要がある、とヒル氏は述べる。「考え方を持っていなければ、誰もあなたとともにイノベーションを起こしたいとは思わない」
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