量子コンピューティングに一歩前進
クラウド経由でアクセス可能な量子コンピュータセンターをIBMが開設
量子コンピュータをクラウド経由で利用できる量子計算センターが開設された。IBMの目的や既に始まっているプロジェクトを紹介する。
IBMが、商業利用や研究活動を目的とした量子計算センターを米ニューヨークに開設した。同センターは、商用ユースケースの調査・研究のために、クラウド経由でアクセス可能なハードウェアとオープンソースソフトウェアを提供する。
同センターには20量子ビットのシステムが5台ある。IBMによると、1カ月以内にこのシステムを14台に拡張する予定で、その中には53量子ビットの量子コンピュータも含まれるという。この新しい量子コンピュータは、業界で初めて外部からアクセスできるようになった単一かつ最大の汎用(はんよう)近似量子コンピューティングシステムだというのがIBMの見解だ。
IBMは量子コンピューティングプログラムを用意して、新しい量子アプリケーションの開発を促している。同社によると、このプログラムによって80近くの商業顧客、学術機関、研究機関との密接なパートナーシップをサポートするという。
量子コンピューティングプログラムは、実際のビジネスユースケース向けに量子コンピューティングアルゴリズムを研究、開発することが目指だ。IBMによると、量子コンピューティングの進化は、新薬剤や新素材のような未来の科学的発見、サプライチェーン最適化の大幅な改善、財務データをモデル化して投資を改善する新しい方法などへの扉を開く可能性があるという。
IBMがこのプログラムを通じて取り組んでいる量子プロジェクトには、オプション価格の設定に関するJP Morganとの協業がある。この取り組みでは、ゲート方式の量子コンピュータで金融オプションとそのオプションのポートフォリオの価格を設定する方法論の構築が行われている。
IBMによると、古典的なモンテカルロ法よりも量子コンピューティングシステムの方がはるかに高速だという。「これまでのコンピュータは数百万のサンプルが必要だった。だが今回の方法論ならば、わずか数千のサンプルで同じ結果を得ることができる。これにより、金融アナリストはオプション価格の設定とリスク分析をほぼリアルタイムで行えるようになる可能性がある」というのが同社の見解だ。この実装は、オープンソースになっており、Qiskit(訳注)で利用できる。
訳注:オープンソースの量子コンピューティングソフトウェア開発フレームワーク。
IBMはまた、三菱ケミカルおよび慶應義塾大学と共同で、リチウム空気電池(訳注)におけるリチウムと酸素の反応メカニズムの初期段階をシミュレーションしている。
訳注:リチウムと空気中の酸素の化学反応によって生じるエネルギーを取り出す電池で、現時点では実用化されていない。
arXiv(論文保存・公開サイト)で入手できる「Computational Investigations of the Lithium Superoxide Dimer Rearrangement on Noisy Quantum Devices(https://arxiv.org/abs/1906.10675)」(ノイズの多い量子素子でのリチウム超酸化物二量体転位の計算による解析)が、量子コンピュータでリチウム酸化反応全体をモデル化する最初のステップだ。IBMは、この相互作用がモバイル端末や自動車のバッテリーの効率向上につながる可能性があるとしている。
IBM Researchの所長を務めるダリオ・ギル氏は次のように述べる。「当社は量子コンピューティングを数万人のユーザーに提供することを目的に、2016年に初めて量子コンピュータをクラウドに導入した。それ以来、当社のグローバルな勢いは途方もなく増している」
「この情熱的なコミュニティーの唯一の目標は、現在の古典的な方法だけでは実現できない問題を最終的に解決できる強力な量子システムを作成し、『Quantum advantage』と呼ばれるものを達成することだ。より多くのIBM量子システムを利用可能にすることで、この目標を達成できると考えている」
専門家は、量子コンピューティングの実用化は数年先になると考えている。だが、多くの組織は量子コンピューティング技術の実験をやめてはいない。テクノロジーリーダーは、量子コンピューティングが競争力を高めると信じている。
2017年にドイツのハノーバーで開催された「CeBIT」では、Volkswagen Groupが、以前はプログラム不可能だった革新的なアプリケーションを開発することを目指して量子コンピューティングをどのように計画しているかを講演している。
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