“AI人材の獲得”を巡るベンダーの思惑
Google、IBMなどが「約1億人のリスキリング」を掲げる団体結成 その本当の狙い
AI技術の普及で生じた雇用喪失に対抗するため、CiscoやGoogleをはじめとしたIT大手9社がコンソーシアムを設立した。その内容は労働者のスキルアップに寄与するものだが、専門家は課題を指摘する。
2024年4月、Cisco SystemsやGoogle、IBM、MicrosoftをはじめとするIT企業大手9社が「AI-Enabled Information and Communication Technology (ICT) Workforce Consortium」というコンソーシアムを設立した。AI(人工知能)技術の普及で労働者の雇用が失われる動きを受けて、労働者のスキルアップやリスキリングを支援することを目的に掲げている。一方でコンソーシアムの施策がどのように機能するか、誰に利益をもたらすかといった観点から、専門家は疑問を呈する。このコンソーシアムの狙いはどこにあるのか。
「約1億人のリスキリング」の本当の狙い
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コンソーシアムには半導体ベンダーIntel、コンサルティング会社Accenture、ERP(統合基幹業務システム)ベンダーのSAPといった企業が参加している。人事(HR)に特化した企業として参加しているのは、人材関連企業リクルートの子会社で、オンライン求人情報サイト「Indeed」を運営するIndeed.comや、人材の発掘や育成のためのAIサービスを提供するEightfold AIだ。
コンソーシアムは労働者のスキル向上やトレーニング施策を掲げ、「世界各国で働く9500万人の労働者に今後10年間でポジティブな影響を及ぼす」ことを目標としている。
ジョージタウン大学マックコートスクール(Georgetown University McCourt School of Public Policy)のハリー・ホルツァー教授は「コンソーシアムが掲げる目標が高い」と指摘する。「時間の変化や技術の発展に伴い、仕事に求められるスキルや条件は変化する。どの仕事にどのようなスキルが今後必要となるのか、それをどのように把握するのか。どのような労働者が職業訓練を受けられるのか。スキルや経験を持たない労働者も職業訓練の機会を得ることができるのかが疑問だ」(ホルツァー氏)
コンソーシアム結成に込められた目的
コンソーシアム立ち上げの情報はベルギーのルーヴェンで発表された。調査会社Gartnerのアナリストであるエミリー・ローズ・マクレー氏は、欧州連合(EU)の代表部を持つブリュッセルに程近い場所にコンソーシアムを設置したことは、EUに対して同組織の施策をアピールする意味合いがあると推測する。
AI技術に関してマクレー氏は「EUは労働力の話題に対する関心が高く、AI規制に向けた行動を起こす可能性が高い」と指摘する。この指摘の通り、2024年3月にEUの欧州議会は、社会にリスクをもたらす可能性があるAI技術の開発を規制する「Artificial Intelligence Act」(AI Act)を採択した。EU理事会は同年5月にAI Actの最終案を承認した。
「ただしEUへのアピールを成功させてAI規制の影響を抑えるには、コンソーシアムに参加している企業間で具体的にどのように協力し合うのか、明確にする必要がある」マクレー氏はこう説明する。
参加企業が提示する施策は個別に目標を設定しており、施策同士の関連性が薄い場合もある。各社が発表している目標や施策は以下の通りだ。
- Cisco
- 2032年までに2500万人がサイバーセキュリティとデジタルスキルを習得できるようにする。
- SAP
- 2025年までに世界各国の200万人のスキルアップを計画している。
- Google
- 欧州全域の人々を対象に、AI活用のトレーニングとスキル向上を支援するために2500万ユーロの資金提供を計画している。
「各企業が発表した施策は、現時点では各企業同士がどのように協力を進めていくかというよりも、労働者のスキルアップやリスキリングを実施すること自体が目的になっている」マクレー氏はこう指摘する。
企業が一から生成AIのアプリケーションを構築するには莫大(ばくだい)なコストと時間がかかる。マクレー氏は、コンソーシアムの狙いはIT業界とその顧客からのスキルに対する需要に応えることだと推測する。企業はAI技術の進歩によって雇用を失った労働者に生成AIアプリケーションの開発スキルを身に付けさせることで、人材育成や人材確保に掛かるコストや時間を削減したいと考えているのだ。
Eightfold AIのグローバル公共部門・応用AI担当バイスプレジデントを務めるダン・ホプキンス氏はコンソーシアムの目標を、AI技術がIT分野の人間の雇用に及ぼす潜在的な影響を評価することだと述べる。「そのためには、特定の役職に必要なスキルと、そのスキルが今後どのように変化していくのかについての分析が必要だ」(ホプキンス氏)
コンソーシアムが利用するのが、Eightfold AIが提供する「タレントインテリジェンスプラットフォーム」だ。タレントインテリジェンスは、人材(タレント)のスキルや実務経験といったデータを収集したり分析したりすることで、意思決定をするための知見(インテリジェンス)を得ることだ。「タレントインテリジェンスプラットフォームはAIを活用して、労働市場を取り巻くニーズの急速な変化を動的に分析する。どのようなスキルが発展し、どのスキルが求められなくなるのか、新たにニーズが高まるスキルは何かといった観点から洞察を提供する」とホプキンス氏は述べる。
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