労働現場にAI技術が普及することで、従業員は仕事が楽になると思うどころか、ストレスを溜めメンタルの不調さえ感じる場合がある――。そうした動きがある調査から見えてきた。従業員は何に不満を感じているのか。
業務効率化や課題の解決を目的に、さまざまな業界の労働現場でAI(人工知能)技術の活用が広がりつつある。一方でAI技術の台頭は、労働現場で働くフロントラインワーカー(現場従業員)の士気を下げるだけではなく、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼす可能性があると指摘する専門家がいる。そうした影響を特に受けやすい業界があることも見えてきた。どのような悪影響が、どの業界に及ぶ恐れがあるのか。調査結果に沿って整理する。
2024年4月、米国科学技術機関の統合団体である全米科学アカデミー(National Academy of Sciences)はウェビナー「AI for the Rest of Us: How Equitable Is the Future of Work for Front-Line Workers?」を公開した。同ウェビナーのパネリストは、医療や建設、食品販売といった業界の現場で働く現場従業員の方が、オフィスワーカーよりもAI技術に不安を抱えている可能性があると説明する。
パネリストの一人、米国心理学会(APA)の応用心理学研究室でアソシエイトディレクターを務めるベス・シュワルツ氏は、「肉体労働や定型業務に依存する業界ほど、AI技術を使った業務の自動化による影響を受けやすい」と指摘する。そうした業界では、業務の自動化が進むことによって、高いスキルを持つ現場従業員と持たない現場従業員の分断が進み、両者の間で所得格差が生まれやすい。「行き場を失った現場従業員は、自分のスキルや経験に合った業務を見つけるのに苦労する傾向にある」ともシュワルツ氏は話す。
シュワルツ氏は労働環境とメンタルヘルスに関するAPAの年次調査レポートを基に、「AI技術によって自分の業務がなくなる」ことを恐れたり、燃え尽き症候群に陥ったりする現場従業員の動向を紹介する。同レポートのタイトルは「2023 Work in America」。2023年4月、APAの委託で調査会社The Harris Pollがオンラインで調査し、米国の成人労働者2515人が回答した。
AI技術がフロントラインワーカーにメリットをもたらすと主張する企業もある。小売大手のWalmartでエグゼクティブバイスプレジデント兼最高人事責任者(CPO)を務めるドナ・モリス氏は2023年8月、ビジネス向けSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)「LinkedIn」で月次ニュースレターを公開した。その中でモリス氏は、AI技術の活用と従業員の活躍を両立させるための同社の考えを以下のように説明している。
ウェビナーのパネリストでセントラルフロリダ大学(University of Central Florida)の心理学教授を務めるミンディ・ショス氏は、AI技術の労働現場への導入は「デスキリング」につながる恐れがあると指摘する。デスキリングは、技術が導入されることで、熟練した現場従業員のスキルや専門性が低下する現象を指す。
後編も引き続き、現場従業員のストレスとAI技術の台頭に対する専門家の意見を紹介する。
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