SAPは同社ERPをクラウドへ移行する方針を掲げているが、ユーザー組織からの反発は後を絶たない。クラウド移行の妨げとなるのはどのようなことなのか。SAPユーザー会の見解をまとめた。
SAPはERP(統合基幹業務システム)の製品戦略において、ユーザー組織にクラウド移行を促している。だが、さまざまな理由でクラウド移行に踏み切れない組織もある。ネックとなるのは何なのか。欧州のSAPユーザー会が指摘する問題点を踏まえ、SAPのクラウド戦略とユーザー組織のニーズの「ギャップ」を浮き彫りにする。
SAPのオンプレミス型ERP「SAP ERP Central Component」(以下、ECC)は2027年に保守サポートが終了する。それまでにユーザー組織は、ERPをクラウドサービスへ移行するか、SAP製品以外の新しいERPを導入するかを選択しなければならない。
ドイツ語圏のSAPユーザー会「Deutschsprachige SAP Anwendergruppe」(DSAG)は2023年まではクラウド移行に対して難色を示していた。SAPのERPの最新機能を利用するにはクラウドへの移行が不可欠だと受け止め、同年にはSAPに抗議した。しかし2024年に「多くの業界やユースケースにおいてクラウド移行は正しい方向性だ」(DSAG理事会議長のイェンス・フンガーシャウゼン氏)と立場を変えた。
DSAGはクラウド移行に前向きな姿勢を示すようにはなったものの、依然として幾つかの課題が残っていると考えている。その解決のために、DSAG はSAPに対し以下のことを要求している。
英国とアイルランドSAPユーザー会「UK & Ireland SAP User Group」(UKISUG)は、クラウド(S/4HANA)への移行に賛同している。UKISUGによると、加盟企業の約3分の1がすでにS/4HANAに移行済みで、残りの3分の2が移行を計画している。しかしUKISUGはSAPに対し、クラウド移行のリスクとメリットについての明確な説明を求めている。
「S/4HANAへの移行は、『するかしないか』ではなく『いつするのか』の問題になっている」とUKISUG会長のコナー・リオーダン氏は述べる。「多くのユーザー組織にとって重要なことは、クラウド移行によってビジネスがどうよくなるかを正確に把握することだ」(同氏)
ERPの業界アナリストも、SAPがクラウド移行の支援策を強化することが重要だと指摘している。ITコンサルティングを手掛けるEnterprise Applications Consultingのジョシュア・グリーンバウム氏によると、ECCのユーザー組織はS/4HANAへの移行の重要性を認識しているが、移行のタイミングやスケジュールが課題になっている。
リオーダン氏によれば、大規模でビジネス構造が複雑なユーザー組織にとってクラウド移行は重大なリスクを伴う。移行作業の費用も課題だという。ECCの保守サポートが2027年まで続くので、他の重要なプロジェクトを優先するユーザー組織もあると考えられるが、その場合、ECCのクラウド移行に必要な資金が確保しにくくなる恐れがあると同氏は指摘する。「今すぐ移行計画に着手し、2026年までに完了を目指すべきだ」(リオーダン氏)
UKISUGは特にAI技術へのアクセス方法について、SAPに明確な回答を求めている。リオーダン氏は、「SAPのクラウドサービスを通じてアクセスができるかどうかや、代替手段があるかどうかが重要だ」と述べる。SAPのAI技術には、ビジネスを支援する生成AI機能「Joule」がある。UKISUGはJouleについて、使い方やできることについて、SAPからもっと説明する必要があると指摘する。
後編は、SAPのAI戦略を解説する。
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