2022年に破産手続きを経験した鉱業会社が、「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」を中心としたDXを進めている。紙と鉛筆での業務が当たり前だった組織は、なぜわずか2年でAI技術の業務活用にまで至ったのか。
金属・鉱業サービスを手掛けるPhoenix Services(Phoenix Globalとして事業展開)は、旧式システムの刷新、手作業プロセスのデジタル化、AI(人工知能)技術の活用を推進するシステムの構築を目的として、SAPのクラウドサービス型ERP(基幹業務システム)「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」を導入した。同社がシステム刷新に踏み切った背景と、その効果を紹介する。
Phoenix Servicesは鉄鋼製造業向けに幅広い専門サービスを提供する企業だ。事業規模の拡大に伴って、それまで使用していたERPベンダーSage製のERPが機能しなくなっていたため、その刷新が急務となっていた。紙とペンに頼る業務プロセスが残っており、これらのデジタル化も喫緊の課題だった。そこでPhoenix Servicesは、クラウドサービス型ERPへの移行を支援するサービス群「GROW with SAP」を採用し、SAP S/4HANA Cloud Public Editionの導入に踏み切ったのだ。
Phoenix Servicesは2022年に破産手続きを経験し、その後、新たな事業をスタートした企業だ。同社の最高情報・技術責任者(CITO)であるジェフ・スエレントロップ氏は、会社の再出発を機に、全てのシステムとプロセスの刷新を決断したと語る。
「この2年で、われわれは社内システムやそれを支える技術を根本から見直し、業務に革命を起こしている。紙が当たり前だった組織を、業務やデータ同士が連携した、ペーパーレスな姿へ変革しているところだ」(スエレントロップ氏)
アプリケーション面では、機能が陳腐化していたSageのERPと、財務システムベンダーOneStream Softwareの財務システムが刷新の対象となった。
Phoenix ServicesがSAP S/4HANA Cloud Public Editionを軸とするデジタルトランスフォーメーション(DX)にかじを切ったのは2023年のことだ。そのタイミングでGROW with SAPを契約し、同年中に導入を開始した。2024年半ばに米国拠点での導入を皮切りに、順次グローバル拠点に広げており、旧来のERPと財務システムは2025年後半から2026年初頭にかけて廃止する計画だ。
新しい基幹システムとなるSAP S/4HANA Cloud Public Editionは、Phoenix Servicesの財務とサプライチェーン管理のプロセスを担う。その他、保守業務には資産管理ツール「SAP Enterprise Asset Management」、購買には購買・調達ツール「SAP Ariba」、財務計画には分析ツール「SAP Analytics Cloud」といった専門アプリケーション群も導入済みだ。
スエレントロップ氏は、初期段階の設計と実装に8カ月を要したこの計画が、非常に挑戦的なものだったことを認める。「当初は構築期間を6カ月と見込んでいたが、破産手続きなどの事情が伴って本番稼働を遅らせる必要があり、結果的に8カ月を要した」と同氏は話す。
プロジェクトの成功を支えた要因は2つある。1つ目は、SAPのシステム群のカスタマイズを最小限に抑えられたことだ。Phoenix Servicesはまず達成すべき成果を定義し、業務プロセスをシステムの標準機能に適合させる「Fit-to-Standard」の手法を徹底した。「この手法で技術およびプロセス面の課題を一掃し、一気にベストプラクティスへ移行できた。本格的なカスタマイズは、全体の5%未満に抑えている」とスエレントロップ氏は説明する。
2つ目は、システムインテグレーター(SIer)であるSyntaxの存在だ。このシステム刷新プロジェクトで、Phoenix ServicesはSAPおよびOracleの製品導入とマネージドサービスを専門とするSyntaxと協業した。スエレントロップ氏は、「このような大規模変革では、SIerこそが最も重要な成功要因だと考える」と主張する。
選定過程で他のSIerとも面談したが、Syntaxが金属、鉱業分野で豊富な実績を持っていたことが決め手になった。「Syntaxはわれわれの業界に精通し、素早い開発サイクルの導入にも前向きだった。われわれの野心的な計画と、継続的改善を求める姿勢に応えてくれたのだ」。業界への深い知見と、厳しい計画に順応できる適応力が他社にはない強みだったとスエレントロップ氏は振り返る。全システムの展開完了後も、Phoenix Servicesは引き続きマネージドサービスをSyntaxに委託する計画だ。
スエレントロップ氏は、SAP S/4HANA Cloud Public Editionを中心にした新たな業務システムが、AI技術の能力を最大限に引き出すと大きな期待を寄せている。2025年5月時点で、Phoenix ServicesはSAPとSyntaxが提供するAIツールの評価を進めている段階だ。既に保守部門と安全管理部門で2つのAIモデルを導入済みであり、「今後は用途を整理して、SAPやSyntaxの技術と組み合わせた次のAIモデル導入計画を具体化していく」と同氏は展望を示す。
AI技術活用の先駆けとなったのが、重機の「予防保全」(設備の故障、稼働停止を予測して事前に保守点検をすること)だ。Phoenix Services独自のAIモデルをSAP S/4HANA Cloud Public Editionと連携させることで、重機のダウンタイム(停止時間)削減と稼働率向上を実現した。部品調達にかかる期間も3日近く短縮でき、「より先を見越した対処が可能になった」とスエレントロップ氏は効果を語る。
Phoenix Servicesは、重機の故障や稼働停止を予測し、最適な保守計画を立案するAIモデルの構築に取り組んでいる。これが実現すれば、数百万ドル規模のコスト削減につながる見込みだ。同社の製鉄所は24時間稼働しており、高価な重機が故障やメンテナンスなどで稼働できない時間(遊休時間)が課題になっている。AIモデルの活用でこの無駄をなくし、稼働率をさらに高めることにスエレントロップ氏は期待を寄せる。
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