用途が広がるクラウドオブザーバビリティツール【後編】
“単なるインフラ監視”を超えたクラウドオブザーバビリティツールの使い方の事例
クラウドオブザーバビリティツールは、システム監視の枠を超えて業務・財務領域での活用が進んでいる。オブザーバビリティツールを使い、ユーザー体験の向上やコスト削減を実現した事例を紹介する。
オブザーバビリティ(可観測性)ツールはメトリクス(システムのパフォーマンスに関するデータ)やログ(イベントの記録)、トレース(アプリケーションを通過するリクエストの経路)などのデータを使用することで、自社のシステムの状態を可視化する。クラウドインフラの監視に利用するクラウドオブザーバビリティツールは分析対象となるデータの種類が増えたことで、今や基本的なシステム監視だけではなく、業務改善や技術的負債の解消といった事業に関わる領域での活用が進みつつある。
本稿は企業がクラウドオブザーバビリティツールの新しい機能を利用して、問題解決やコスト削減、レジリエンス(障害発生時の回復力)向上にどのように取り組んでいるかを示す、幾つかの事例を紹介する。
自治体の住民向けポータルサイトでアクセス集中時の障害を解消
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連載:クラウドオブザーバビリティツールの最新動向
インフラのオブザーバビリティを高める
IT調査分析企業Everest Groupのプラクティスディレクターを務めるタイタス・M氏は、米国のある州政府機関のケーススタディーを実施した。その州の住民向けサービスのポータルサイトでは、税務申告期限前のアクセス集中時に、断続的に503エラー(Webサーバに負荷が掛かり、ユーザーからのリクエストを一時的に処理できなくなっている状態)が発生していた。
クラウドオブザーバビリティツールで合成プローブ(モニタリング用に送信されるテストトラフィック)とユーザーモニタリングのデータを分析したところ、コンテナオーケストレーター「Kubernetes」で構築したITインフラが、サービスレベル契約(SLA)の閾値を超えていることが分かった。Kubernetesのトレースを分析したところ、容量が小さすぎるAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)やPod(ポッド:コンテナを管理する最小単位)が特定された。ITチームがAPIのPodのレプリカ(複製)数を2倍に増やしたところ、エラー率は97%低下したという。
eコマース企業の決済エラー問題の解消
コンサルティング企業UST Globalのクラウドアドバイザリー部門グローバル責任者を務めるリック・クラーク氏は、あるeコマース(EC:電子商取引)企業のシステム設計を支援した。その企業では、フラッシュセール(短期間限定の大幅割引セール)中に決済エラーが断続的に発生していたが、従来のシステム監視では根本原因を特定できなかった。そこでHoneycombの同名オブザーバビリティツールを導入した。これにより、特定の条件がそろった場合にのみ、問題が発生することを突き止めた。
具体的な要因は、トラフィックが集中する時間帯に特定の地理的地域の顧客が、特定の決済方法を使用していたことだった。トレースデータを複数の次元で同時に分析した結果、サードパーティーの決済APIが、特定リージョン(地域データセンター群)のエンドポイントで、異なるタイムアウト動作を行うことが判明した。修正策として、サーキットブレーカー(システム障害が発生した場合にサービス間の通信を遮断する仕組み)の導入と、これらの特定条件におけるタイムアウト値の調整が行われた。
APIの設定ミスによるレイテンシの急増
ビジネスコンサルティング会社Protivitiでマネージングディレクター兼グローバルクラウドプラクティスリーダーを務めるランディ・アームクネヒト氏は、株式ポートフォリオのダッシュボードで、レイテンシ(遅延時間)の急増に直面していたある金融サービス企業を支援した。オブザーバビリティツールの分散トレーシング(複数のシステムを経由するリクエストの処理状況を、一連の処理として追跡する技術)とリアルタイムメトリクス(システムやサービスの状態をリアルタイムで数値化して監視する指標)を用いて、誤設定によってリクエストを制限していたAPIゲートウェイを特定した。問題の特定後、変更を実運用しているインフラに反映させてから数分以内に、パフォーマンスが回復したという。
クラウドのコスト超過の抑制
アームクネヒト氏が支援した別の顧客は、オブザーバビリティツールを利用して、クラウドサービスの過剰利用を特定しようとしていた。その結果、忘れられた試験的なプロジェクトの待機状態にあるリソースを発見した。このケースでは、クラウドコストに関連するテレメトリーデータを収集して分析することで、コスト削減効果を高めるための情報を得られた。ITチームはそれを参考にしてアプリケーションをクラウドインフラに再配置し、クラウドコストを30%削減したと同氏は説明する。
この例は、オブザーバビリティツールがビジネスチームによる業務改善や、財務チームによる意思決定の改善を支援していることを示している。「事業目標を達成するために、FinOps(クラウドサービスの利用とコスト削減を目的とした管理手法)とコンプライアンス、ビジネスKPI(重要業績評価指標)を組み合わせた、カスタマイズされたオブザーバビリティ手法への需要も増えている。オブザーバビリティは単なる技術的な必需品ではなく、戦略的にビジネスを支える基盤となっている」(アームクネヒト氏)
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