「IT部門に文句を言う人」をあえてトップに
技術畑出身だけが正解か? 「コードを書けないCIO」が組織を救う
「IT部門のトップは技術に精通していなければならない」という常識は過去のものになりつつある。技術畑出身ではない「異色のCIO」たちが語る、技術偏重に陥らないためのリーダーシップ論とは。
「技術のことが分かっていない上司の下では働きたくない」――。現場のエンジニアから、このような不満が聞こえてくることはしばしばある。ところが経営の視点から見れば、「技術に詳し過ぎるリーダー」こそがボトルネックとなり、リスクになる場合すらある。
最高情報責任者(CIO)へのキャリアパスに、万人に共通する「正解ルート」は存在しない。かつてCIOと言えばコンピュータサイエンスを修め、インフラや開発の現場で実績を積んだ「技術のスペシャリスト」が就くポストだった。しかしその潮目は変わりつつある。サプライチェーン管理やマーケティングといった異なるバックグラウンドでの実務経験を武器に、「ITの素人」がIT組織のトップとしてビジネス成果を創出するようになってきているのだ。
彼らは技術的な空白をどう埋め、なぜたたき上げのエンジニア以上にビジネスに貢献し得るのか。本稿は4人のIT幹部に聞いた「型破りなキャリアパス」を取り上げ、これからのIT部門に必要な「技術と経営の融合」の実態を探る。
ITの問題は思い切って「詳しい人」に任せる
IoT(モノのインターネット)技術で産業現場のデータを可視化するSamsaraのCIO、スティーブン・フランケッティ氏は、ソフトウェアエンジニアからたたき上げた「従来型」のリーダーだ。コンピュータサイエンスを学び、ソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートさせ、プロジェクトマネジメントなどの業務を経て昇進してきた。その一方で同氏は、営業運営やサプライチェーン分析といった「事業の現場」で経験を積んだ人材が、CIOに起用されるケースも珍しくないと語る。
フランケッティ氏は、事業部門の現場出身リーダーの強みを次のように分析する。「例彼らは技術的な視点よりも、業務運営の視点で物事を捉える。技術的な専門性や詳細な判断は社内のエキスパートの知見を信頼し、彼らに任せることでチームを機能させているのだ」
「ITへの不満」こそが原動力
データ管理ツールベンダーInformaticaのCIOであるグレーム・トンプソン氏のキャリアは、まさに「現場出身」の典型だ。キャリアの最初の15年間はサプライチェーン分野に従事しており、IT部門に不満を持つ「事業部門の人間」だったのだ。
転機は、当時の上司である最高財務責任者(CFO)から「それほどIT部門に不満があるなら、君がIT部門を指揮して、その溝を埋めてみろ」と迫られたことだった。単に文句を言う側から、限られた予算を管理し、自ら責任を持って成果を出す側に回れという「挑戦状」をCFOから突き付けられた形だ
トンプソン氏の大学での専攻は経済学とマーケティングで、コンピュータサイエンスではない。背中を押したのは、ITツールを扱うことのハードルが下がっている現状だった。「ITの専門家ではない私の義母でさえ『ChatGPT』を使える時代だ。現場担当者はITツールの扱い方を知っている。ITリーダーの役割は、ビジネスが何を達成すべきかを見極め、利用可能なツールや技術をどう活用して目標を達成するかを見極めることにある」と同氏は語る。
スペシャリストか、ジェネラリストか
ITツールの保守サービスを手掛けるRimini StreetのグローバルCIO、ジョー・ロカンドロ氏は、経済学とマーケティングの学位を持ち、ビジネスでの経歴を積んでIT領域に入った人物だ。同氏は、技術職である最高技術責任者(CTO)や最高情報セキュリティ責任者(CISO)といった「スペシャリスト」と、CIOのような「ジェネラリスト」を明確に区別すべきだと説く。
「スペシャリストは、自分がジェネラリストにもなれると考えがちだが、そう簡単にはいかない。ITリーダーを目指すなら、早い段階で自分の『最大の武器』を見極める必要がある。技術の深さを極めるのか、広範な視野を持つジェネラリストになるのか、道を選択しなければならない」(ロカンドロ氏)
ロカンドロ氏は、ITがビジネスの根幹を成すようになった現代において、ビジネス領域出身者がCIOになるハードルは高まっているとも指摘する。かつてのようにビジネス領域の知識だけでITを学ぶのは容易ではなくなっている。後任の育成では、システムアーキテクチャや開発、セキュリティなど多様な要素を経験させ、可能な限りITに関する知見の幅を広げることが不可欠になっているという。
極めた専門性を「あえて手放す」勇気
サプライチェーンのサステナビリティー(持続可能性)評価データを扱うWorldlyのCTOであるジョン・アームストロング氏は、IT領域のトップとして逆説的なリーダーシップ論を展開する。同氏はCTOになることを望んでキャリアを積んだわけではない。専門性を極めた先に待っていたのは、現場のプレイヤーから「任せるリーダー」への転換だったという。
「型破りなCTOになる秘訣(ひけつ)は、深い知識を持つ専門家になった後、その専門性をあえて手放すことだ。自分が中心的なプレイヤーであることをやめ、自分個人の能力を超えて組織が自走する仕組みを作ることこそが重要なのだ」(アームストロング氏)
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