月単位の移行期間を数週間に短縮
320日を数週間に VMware移行の「無理ゲー」をAWSが攻略した方法
VMware製品で構築したシステムをクラウドサービスに移行する上では、膨大な設定変更や動作テストといった負担が発生する。「Amazon EVS」は、これらの障壁をどう排除し、安全かつ確実な移行を実現するのか。
企業のクラウド移行において、既存のシステムをそのまま移す手法は、時間と費用を抑える有効な選択肢だ。しかし、実際の移行作業では、ネットワーク設定の変更や担当者の再教育など、目に見えない手間が重くのしかかる。特にデータセンターの契約更新やハードウェアの保守切れが迫る中で移行のスピードが求められる場合、これらの負担は致命的な遅れにつながりかねない。
Amazon Web Services(AWS)社が提供する「Amazon Elastic VMware Service」(Amazon EVS)は、こうした課題を解決するクラウドインフラだ。AWSに構築された顧客専用の仮想ネットワークである「Amazon VPC」内で、VMwareのプライベートクラウド構築製品群「VMware Cloud Foundation」(VCF)を稼働させることができる。実際に、米国の巨大医療機関であるNYU Langone Healthは、Amazon EVSを活用し、通常なら平均320日かかるクラウド移行プロセスを、わずか数週間にまで短縮することに成功した。
なぜこれほどの短期間で、確実なシステム移行が可能なのか。その答えは、移行手順の根本的な簡略化にある。
移行を「無理ゲー」化させない方法
併せて読みたいお薦め記事
VMware製品からの移行をどう進めるか
失敗しない移行を実現する最大の鍵は、既存のプロセスや技術、スキルを一切変えずにクラウドサービスに移行する手順を確立できる点にある。システム移行に伴い、IT担当者の再教育や運用手順書の書き換えが発生すれば、現場の負担は計り知れず、ミスの温床となる。VMware製品に関する知見をそのまま生かせるAmazon EVSは、こうした人為的リスクを排除するのに適した手段だ。
Amazon EVSは、仮想化されたシステム構成ではなく、他社の影響を受けない物理サーバをそのまま専有できるAWSのベアメタルインフラ(i4iメタルインスタンス)で標準のVCFソフトウェアを直接実行する。これによって、オンプレミスシステムで利用していた管理ツールをそのままAWSで利用できる。
特筆すべきは、オンプレミスシステムからクラウドサービスへ、自社と同じネットワーク空間をそのまま広げる「レイヤー2(L2)ネットワークの拡張」を組み込んだ移行手順だ。通常、クラウドサービスにシステムを移行する際は、仮想マシン(VM)のIPアドレスを変更し、それに伴う膨大な動作テストを実行する必要がある。Amazon EVSは、VMwareが提供する専用のシステム移行ツール「HCX」を用いてL2ネットワークを拡張するため、IPアドレスを変更することなくVMを移動できる。これが、アプリケーション開発チームやテスト担当者の作業負担を劇的に減らし、移行期間の短縮に直結した。
管理権限の在り方も従来のマネージド型クラウドVMwareサービスとは異なる。Amazon EVSはデフォルトで顧客管理型の仕組みを採っており、ユーザー企業はオンプレミスシステムと同様の完全な管理者権限を持つことができる。オンプレミスで構築していた厳格なセキュリティポリシーをクラウドサービスにそのまま適用し、異常検出時の自動対処といった仕組みを、クラウドサービスで継続して稼働させることができる。自社のAmazon VPC内で稼働するため、リレーショナルデータベースやオブジェクトストレージといった他のAWS機能との連携も容易だ。
費用対効果と拡張性の面でも明確なメリットが見られる。Amazon EVSはVM単位ではなく、サーバの物理機器(ノード)単位での時間課金モデルを採用している。NYU Langone Healthは、最小構成である4ノードの小規模なクラスタからパイロット運用を開始した。システム移行が進むにつれて必要なノードをオンデマンドで追加していくアプローチによって、高額な初期投資を抑え、運用経費による自由度の高い支払いへと移行している。また、既存のVCFライセンスを持ち込めることも、投資保護の観点から評価された。
ストレージ容量の拡張性に関しても、実用的な手段が用意されている。計算能力は十分だがデータ容量だけを増やしたい場合、ノードごと追加して無駄なコンピューティング費用をかける必要はない。外部のファイルストレージサービスと連携させて、標準的なネットワーク通信規格であるNFSやiSCSI経由でデータストアを追加可能だ。NYU Langone Healthも、オンプレミスシステムで利用していたストレージベンダーのシステムを維持したまま移行を完了させている。
東京を含む世界中の主要なリージョンで利用可能な点も、グローバル展開を見据える企業には追い風となる。2025年12月には提供リージョンが大幅に拡大され、追加された各リージョンでは全てのアベイラビリティーゾーン(AZ)を任意に選択してデプロイすることが可能となった。同時点では単一のAZへのデプロイ(シングルAZ構成)となっているが、NYU Langone Healthも今後の期待として複数のデータセンター群にまたがって障害に備える「マルチAZ構成」を挙げており、サービスは今後も進化していく見込みだ。大規模なインフラ刷新やデータセンターの閉鎖を控える企業にとって、Amazon EVSは安全かつ確実なシステム移行を迅速化する強力な選択肢となる。
本稿は、AWS社が2025年12月3日に公開した動画「AWS re:Invent 2025 - A complete guide to Amazon EVS: Unlock AWS scale for VMware workloads (MAM201)」を基に作成しました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
“攻撃者優位”なサイバーセキュリティ、全ての「穴」をふさぐ方法とは? -
製品資料
実際に悪用される脆弱性は4%前後 優先的に対処すべき脆弱性を把握するには? -
製品資料
HubSpotの機能を拡張する法人データ活用法 -
製品資料
面倒で非生産的な「名寄せ」作業 高精度&高効率に実施するには? -
製品資料
名刺管理には「その先」がある 成果のでない営業活動から脱却する秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
ISMSの“コンサル丸投げ”が招く数千万円の無駄 NTTドコモビジネスの脱出劇
-
2
Netflixのバックエンドは「ほぼJava」 3000超のアプリを支える開発基盤の裏側
-
3
「Microsoft 365」が乗っ取られる 跡形もなくMFAを破る手口
-
4
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
5
IT製品の導入に関するアンケート「サーバ&ストレージ」編
-
6
IT業界で相次ぐ人員削減の“隠された理由”
-
7
ライオンが挑む「守りのIT」脱却:Google Cloudで加速させるデータ駆動型経営
-
8
ストレージへの高い投資対効果を目指す「ETERNUS DX S2」シリーズ
-
9
【専門家に聞く】シャドーAIや過剰共有のリスクを防ぎ、安全に生成AIを活用するポイントとは?
-
10
月額91.3万円のAIエンジニア システムアーキテクト級に並んだ単価の中身
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
2
財務・会計はAI活用でどう変わる? 調査で見えた変革の道筋
-
3
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
-
4
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
「結局、一部の人しか使わない」 AI活用が業務に定着しない根本的な理由
-
7
コスト分析で見る「デバイス復旧」の代償 損失額から導きだされた投資戦略とは
-
8
Macの安全神話は崩壊? 最新の脅威動向から見えた攻撃のトレンドと有効な対策
-
9
ゼロトラストにおける「IDaaSの課題」と補完すべき重要機能とは?
-
10
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー