“現場主導”が失敗を防ぐ
現場の業務実態と乖離するDX 太陽生命とIBMが導き出した「AIと人の融合」
DXの取り組みにおいて、新しいシステムが現場の業務実態と乖離してしまうケースが後を絶たない。泥臭い業務の棚卸しを実施した太陽生命は、過重な査定業務をどう効率化したのか。完全自動化を目指さない背景とは。
金融や保険業界においてもデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じた業務効率化が急務となっている。特に、少子高齢化に伴う慢性的な人手不足を背景に、限られた人材をいかに付加価値の高い業務へシフトさせるかが各社の共通課題だ。
生命保険の給付金支払いプロセスにおいて、顧客から提出された診断書などの請求情報と契約内容を照らし合わせて支払額を決定する査定業務は、極めて高い正確性が求められる。太陽生命保険は年間約50万件に上る請求を受けており、正確な支払いを期すために複数の担当者による多重チェック体制を敷いてきたが、その作業負荷の大きさが課題となっていた。
こうした課題を根本から解決するため、太陽生命保険は日本IBMと共同で、生成AIなどの先端技術を活用した新たな給付金支払査定システムを開発し、2027年1月から順次運用を開始する。
新システムの導入によって、約60人が在籍する査定担当者の業務時間を従来比で4割程度削減できると試算している。これによって創出された時間は、顧客対応や高度な判断が求められる業務など、人が本来担うべき付加価値の高い業務に振り向けることが可能になる。同時に、顧客への給付金支払いの迅速性と確実性の向上も実現する。
単純なツールの導入にとどまらず、太陽生命保険は現場主導で「AIと人との融合」をどのようにシステムとして実装したのか。
700件以上の査定ルールを泥臭く棚卸しすることから始まるDX
DXの取り組みにおいて、新しいシステムや手段の導入が先行し、現場の業務実態と乖離(かいり)してしまうケースは少なくない。今回の太陽生命保険のプロジェクトは、IT部門への一任ではなく、実際に査定業務を担当する現場の職員が中心となって推進された点に大きな特徴がある。
新たな仕組みを導入するにあたり、太陽生命保険はまず既存の業務プロセスを徹底的に洗い出し、約720件の査定ルールを可視化した。「どの業務を、どのような技術や仕組みを用いて自動化すべきか」を現場の視点から分析し、効率化に向けた施策の検討と計画立案を実施した。この“泥臭い業務の棚卸し”作業が、後述するハイブリッドな技術適用の確固たる基礎になっている。
技術的なアプローチとしては、全ての業務を一律にAIツールに任せるのではなく、業務の特性に応じて「ルールエンジン」と「生成AI」を適材適所で使い分ける構成を採用している。
明確な基準で判断が可能な定型的な査定判断や不備点検については、ルールエンジン「IBM Operational Decision Manager」を適用する。これによって、事前に定義された約720件の査定ルールに基づき、常に一貫した基準で自動判定を下すことが可能になる。ルールエンジンの最大の強みは、判断根拠が明確にシステムに記録され、金融機関に不可欠な説明可能性と透明性を確保できる点にある。
一方で、医療機関から提出される診断書に含まれる自由記述の理解や、文章間の複雑な整合性確認といった、ルール化が困難な非定型業務には生成AI「IBM watsonx」を適用する。生成AIの持つ高度な文脈処理機能を利用することで、これまで人に依存していた非定型な点検業務の標準化を図り、担当者の判断業務を強力に支援する。
これら2つの先端技術を組み合わせることで査定業務の大幅な自動化と高度化を推し進めるが、システムに全てを委ねる完全自動化を目指しているわけではない。最終的な支払可否の確認と決定は、引き続き人間の査定担当者が実施する設計になっている。これによって、高い信頼性と正確性が不可欠な保険業界の要件を満たしつつ、業務効率化を実現する「AIと人との融合」を具現化している。
太陽生命保険は、2027年1月の運用開始に向けて、年間約50万件の査定業務のうち、まずは比較的定型的な判断業務の自動化から着手し、段階的にシステムを適用する。これまでの引き受け査定業務の自動化で培った知見を支払い査定にも横展開することで、サービス品質と生産性のさらなる向上を図る構えだ。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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