58万人が使う決済アプリの障害原因究明
障害特定に4時間…… マルエツ運営元の“監視の死角”を破った共通ツールとは
アプリケーション開発ベンダーとインフラベンダーで監視ツールが分断されていると、障害の原因特定が遅れがちだ。国内最大のスーパーマーケット企業連合は、4時間かかっていた原因特定を、いかにして短縮したのか。
エンドユーザーや事業部門から「アプリケーションの動きが遅い」「エラーが出る」とクレームが入る。慌てて原因を調査しようとしても、アプリケーションベンダーは「ソースコードに異常はない」と言い、インフラ構築ベンダーは「サーバリソースは正常だ」と主張する。それぞれの監視ツールが分断されているため全体像を俯瞰(ふかん)できる者がおらず、原因究明はたらい回しにされる。その結果、IT部門やサービス管理部門が事態を正確に把握できるころには、障害発生から数時間が経過してしまっている――。複数ベンダーの製品やサービスを利用する企業にとって、これは決して対岸の火事ではない。
マルエツ、カスミ、いなげや、イオンフードスタイルを傘下に持ち、売上高1兆円を超える(2026年4月時点)食品スーパーマーケット企業連合、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)も、この「マルチベンダー監視の死角」に苦しんでいた。同社が提供する実店舗向けスマートフォン決済サービス「Scan&Go」は、首都圏の500店舗以上に展開され、58万人を超える利用者を抱える主力サービスだ。しかし従来の運用体制では、アプリケーション開発ベンダーとインフラ構築ベンダーがそれぞれ異なるツールでシステムを監視していた。その結果、処理遅延を検出しても原因を特定できないまま、サービス管理部署への報告が4時間後になるという致命的な事態が発生していた。
この体制から脱却するため、U.S.M.Hはシステムの安定稼働を維持するための新たなアプローチを模索し始めた。そこで着目したのが、複数のベンダーと社内部門がリアルタイムにデータを共有できる仕組みだ。
いかにして原因究明の“たらい回し”を終わらせたのか
U.S.M.Hは、実店舗向けスマートフォン決済サービスScan&Goのサービス体験向上を目的に、New Relic社のオブザーバビリティ(可観測性)ツール「New Relic」を採用した。2026年6月9日、New Relic社が発表した。従来は原因特定が困難だったアプリの不具合や処理遅延の解決に成功した他、システム改善サイクルの迅速化を通じた快適な買い物体験の継続的な提供を目指す。
U.S.M.Hは、マルエツ、カスミ、いなげや、イオンフードスタイルを傘下に持つ持株会社で、売上高1兆円を超える国内最大の食品スーパーマーケット企業連合だ。同社が2022年から提供するScan&Goは、来店者がスマートフォンで商品のバーコードをスキャンしてセルフで会計できる決済サービスで、首都圏の500店舗以上で展開され、2026年4月時点で58万名を超える利用者を抱えている。しかし、従来はアプリケーション開発ベンダーとインフラ構築ベンダーがそれぞれ異なるツールでシステムを監視していたため、問題発生時に原因を特定できないままサービス管理部署への報告が4時間後になるなどの課題を抱えていた。
こうした背景から、システムの安定稼働を維持してスマートな買い物体験を提供するため、2025年6月にNew Relicの導入を決定した。採用の決め手は技術面、運用面、費用面のバランスの良さにある。複雑な設定をしなくても必要な観測データを簡単な実装で取得できる利便性に加え、ダッシュボードを通じて立場の異なる関係者がリアルタイムにデータを共有できる運用性を評価した。ユーザー数とデータ量で決まるシンプルな料金体系も合理的で、繁忙期のサーバ増設時にも追加の契約手続きが不要な自由度の高さも、食品スーパーマーケット事業を支えるツールとして高く評価された。
導入後は、アプリケーションパフォーマンス監視を中心にインフラやモバイル、ログなどの監視機能を実装し、従来の課題だった原因不明の遅延問題をコードレベルで深掘りして解消。この他にも、New Relicの活用を通じてSRE(サイト信頼性エンジニアリング)活動を推進し、システムの状態を「観る(観測)」「監る(監視)」「診る(診断)」「看る(看護)」という四つの切り口で深化させる取り組みを実践している。定期的なデータ共有による異常予兆の把握や、ユーザー体験のリアルタイムな可視化、ログ分析の迅速化などが可能になり、不具合の原因調査にかかる工数を削減してシステム改善に注力できる体制を整えた。
今後は、Scan&Goと連携させる周辺システムにもオブザーバビリティを適用する計画だ。顧客が一度スキャンした商品を取り消したというような、POS(販売時点情報管理)データでは把握できない「買わなかったデータ」などの観測データをビジネス視点でも可視化し、現場を動かすための鮮度の高い情報として活用する構想も進めている。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHUB.News」に掲載された「U.S.M.H、New Relicでアプリ不具合を可視化・解消 原因特定の遅延を改善」(2026年6月10日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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