ブームに乗ったAI導入は半数が頓挫する?
なぜ8割の購買者が後悔するのか Gartnerが提唱する“失敗しない”IT調達術
企業が最新技術の導入を急ぐ一方で、購入後に「期待外れだった」と妥協を後悔するケースが後を絶たない。目先の費用削減にとらわれず、硬直化した手順を排し、真の事業成果を手に入れるためのアプローチとは。
ITインフラおよび運用(I&O)の責任者(I&Oリーダー)は、これまでのシステム運用モデルを見直さなければならない。大手クラウドベンダーがAI技術への巨額の投資を回収するために、従来のクラウドサービスの価格を大幅に引き上げる可能性があるからだ。
シドニーで開催されたGartnerのカンファレンス「Gartner IT Infrastructure, Operations & Cloud Strategies Conference 2026」では、複数のアナリストがITリーダーの身に迫っているジレンマを指摘した。それは、AI技術を巡る過剰な熱狂に向き合いながら、中核となる事業運営を維持し、費用を抑えることだ。
「AIエージェントへの期待は頂点に達しているが、私たちは日々の業務を回し続けなければならない」と、Gartnerのディレクターアナリストであるオータム・スタニッシュ氏は語る。2026年においてもCIO(最高情報責任者)にとって経費削減が最優先事項であり、AI技術がその原動力になると過度な期待が寄せられているのが現状だ。
しかし、事業部門からのAI技術に対する要求は、インフラの準備状況をはるかに上回っている。このままではI&Oチームの存在意義さえ失われかねない。Gartnerが明かす、システムの破綻を避けるための具体策とは。
IT部門の存在意義をかけた「組織変革」
Gartnerが2025年にグローバル企業のI&Oリーダー782人を対象として実施した調査「Gartner Survey of Infrastructure and Operations Leaders on AI」では、I&Oリーダーの半数が現状のインフラにAI技術を組み込むことを最大の課題と捉えていた。この事実を踏まえてスタニッシュ氏は、対処が遅れればI&Oチームの存在意義が失われる危険性があると警告する。「かつてクラウド移行を急いだ際に経験したような制御不能に陥らないために、I&O部門が新たな役割に進化すべきだ」と、Gartnerのリサーチバイスプレジデントであるポール・デロリー氏も主張する。AIエージェントの提供や無停止での運用、システム集約型のモデルを実現し、価値を生み出す部門にならなければならないという。
GartnerはI&Oチームに対して、AI技術の推進組織「AI CoE」(CoE:Center of Excellence)を結成すること、厳格に費用を管理しながら自動開発・運用フローを構築することを推奨している。「必要なツールはほとんどが無償のオープンソースソフトウェアであるため、この目標は90日以内に達成可能だ」とデロリー氏は指摘する。I&O部門におけるAIエージェントの実用的な用途としては、以下が挙げられる。
- スクリプト(簡易プログラム)や手順書を更新してインフラの変更を自動で反映すること
- 品質保証エンジニアとして機能するようにAIモデルを訓練すること
- 人が読める規則の文書を学習させた、コンプライアンス(法令順守)用のAIエージェントを開発すること
このような共通システムを中核とする運用モデルに移行するには、組織の変革が必要だ。スタニッシュ氏は、サーバやストレージに関するエンジニアを集めた専門のシステムチームを創設することを提案する。エンドユーザーの要求と技術を擦り合わせるプロダクトオーナーが、このチームを率いるべきだという。このモデルに移行する際には、新たな業績評価指標が必要になる。システムの稼働率といった従来の基準に固執するのをやめ、収益の拡大や顧客満足度の向上といった具体的な事業成果へと評価の軸足を移すべきだ。
IT調達担当者の約8割が後悔
カンファレンスでは、システムの運用体制にとどまらず、技術調達における危機も浮き彫りになった。Gartnerのバイスプレジデントアナリストであるルーク・エラリー氏は、2022年に同社がIT製品/サービスの購買・選定に関与した1120人に対して実施した調査「2022 Gartner Technology Buying Behavior Study」を引用した。その調査によれば購入した技術が期待通りの成果を上げられなかったり、妥協して不十分なツールを選んでしまったりしたことで、79%の担当者が過去の決定を後悔しているという。
この問題に対処するため、エラリー氏は購買プロセス全体を通じて、予算の決定権を持つ経営幹部が関与し続けるよう促している。調達部門が目先の費用削減にとらわれ、安価で不適切な代替品を選んでしまうのを防ぐためだ。購買担当者は、詳細な機能の有無よりも、投資によって得られる定量的な事業成果を優先すべきだ。最初から仕様を固めたウオーターフォール型の手順ではなく、状況に応じて反復的な改善を許容する、機敏で無駄のない調達手法を採用することが望ましい。
エラリー氏は、むやみに危険を避けるのではなく、データを用いて危険性を理解し、許容度を慎重に受け入れるよう助言した。その上で、「的を絞った訓練や市場知識を通じて、供給業者との交渉に自信を持つべきだ」と述べる。
サービスデスクAIは2027年までに半数が頓挫
投資の失敗による危険性は、ITサービスデスクの分野で特に深刻だ。Gartnerは、2027年までにサービスデスク向けに計画されたAIプロジェクトの半数が放棄されると予測している。予期しない出費やリスク、想定していた投資利益率を達成できないことが原因だ。
そのような失敗をしないために、Gartnerのディレクターアナリストであるジョー・ローガス氏は、すでに導入しているソフトウェアの標準機能に焦点を当てることを提案する。その中でも、窓口業務を自動化して人間のスタッフへの問い合わせを減らせるVSA(仮想サポートエージェント)の活用が特に有効だという。
AIエージェントは、RAG(検索拡張生成)を用いた知識探索を通じて、人の業務を支援できる。チャットの履歴からFAQなどのナレッジ(共有知識)記事を自動生成したり、機械学習を利用してデバイスの異常を検出して対処したりすることも可能だ。そのためには既存のデータを事前に整理する手間が欠かせないが、その準備さえできれば、AIエージェントは問い合わせ内容の仕分けから窓口への振り分け、案件の要約までを自動でこなしてくれる。
ローガス氏は、AIエージェントに対する過剰な熱狂にも警告を発する。「一部のベンダーは、基本的な自動化ツールに『AIエージェント』と名付けているに過ぎない」と同氏は言う。真のAIエージェントは、システムが自らの判断で行動を起こす自律性を備えている。この段階に進むには、高い信頼性と厳密なデータの健全性が不可欠だ。
2030年を見据えたクラウド戦略
クラウドコンピューティングの将来を見据えると、AI技術がパブリッククラウドへの支出を大きく押し上げ、2027年までにパブリッククラウド市場は1兆ドルを超えるとローガス氏は指摘する。しかし、大手クラウドベンダーがAIインフラに数千億ドルをつぎ込んでいるため、クラウドサービスの価格を引き上げることで、これらの支出を回収するとみられている。
クラウド移行が継続的な事業価値をもたらすことを証明するために、ローガス氏は、AIを組み込んだ業界特化型のコンポーザブル(機能ごとに組み合わせ自在)な製品群が台頭していることを挙げた。こうした製品群は、部門ごとにインフラが孤立していた状態から脱却し、データファブリック(分散したデータを一元管理する仕組み)やパッケージ化された事業機能を支える中核層として機能する。
この変化は、2030年に向けたIT戦略に重大な意味を持つ。主権(ソブリン)の観点では、I&Oリーダーはデータ、運用、技術の主権を区別し、大手クラウドベンダーと地域限定のクラウドベンダーの間の利害バランスを取る必要がある。複数のクラウドサービスを組み合わせる戦略も見直しを迫られている。最終的に、大部分の企業が1つのクラウドサービスでAIモデルの処理を集中的に実行し、別のクラウドサービスにある自社のデータと連携させるようになるとGartnerは予測している。
持続可能性(サステナビリティ)が障壁になる可能性もある。AIワークロードに最適化されたデータセンターの機器は、一般的に従来のサーバよりも多くの電力を必要とし、2030年までにエネルギー需要が3倍になる恐れがある。一方、AIエージェントが実質的にネットワーク内のデジタル労働者として機能するようになるため、セキュリティの仕組みは静的な規則から動的で即時的な手法へと進化しなければならない。
クラウドサービスの財務管理手法である「FinOps」は、もはや妥協できない要素だ。AIワークロードの大部分は2026年現在、過剰に割り当てられたコンテナ内で実行されている。「自社のシステム構成を最適化できない企業は、無駄を省いた競合他社に比べて最大で50%多く費用を支払うことになる恐れがある」と、Gartnerは警告している。
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