10億人のファンをどう満足させる?
NBAストリーミングの“ネタバレ”問題 AWSとタッグで挑む「遅延」との戦い
NBAはAWSと提携し、AI技術を活用したデータ分析システムを構築した。新指標「Gravity」を導入するなど、10億人のファンそれぞれに合わせた視聴体験を提供する。配信を支えるインフラと技術を紹介する。
スポーツ中継において、視聴者の知識レベルや言語、使用するデバイスの多様化が課題になっている。北米プロバスケットボールリーグのNBA(National Basketball Association)はこうした課題を解決する手段として、クラウドサービスベンダーAmazon Web Services(AWS)社を技術パートナーに選定し、新たなパートナーシップを発表した。
NBAは世界に10億人規模のファンを持つ巨大なスポーツ組織だ。しかし、戦術が高度化し展開が速い現代のバスケットボールにおいて、選手の細かな動きやプレーの意図を全ての視聴者に直感的に伝えることは容易ではない。
そこでNBAは、AWSで構築したインフラに膨大な試合データを集約し、機械学習などのAI技術を用いた分析システムを構築した。これによって、複雑な戦術データを可視化し、ファンの理解度に応じた体験の提供が可能になった。
次世代のスポーツ配信は、データを“物語”に変えることで新たな価値を生み出す。AI技術はどのような分析指標をもたらし、ストリーミング配信特有の遅延課題をどう解決したのか。
データを物語に変える新指標「Gravity」
2025年11月のイベント「AWS re:Invent 2025」で開かれたセッション「Basketball's AI Revolution: How AWS and the NBA Are Changing the Game (SPF102)」では、NBA、Amazon.comが提供する動画配信サービスである「Prime Video」、AWS社の各担当者が登壇し、新たな視聴体験の裏側にある技術的詳細を解説した。
NBAが直面していた最大の課題は、試合中に発生する膨大なトラッキングデータ(選手やボールの位置情報)をどのように管理し、ファンの価値に変換するかだった。データ管理システムの構築に当たり、NBAはまず安全でクリーンなインフラ構成をAWS内に整備した。これによって、蓄積されたアーカイブデータと、ボールや選手の動きを高精度に追跡するシステム「Hawk-Eye」から得られる情報を一元管理し、機械学習やコンピュータビジョン(画像認識技術)といった高度なツールを適用できる土台が完成した。
このシステムから生まれた成果が、新スタッツ(成績指標)の「Gravity」だ。「重力」を意味するこの指標は、ある選手がオフェンス時にディフェンダーの注意をどれだけ引き付け、チームメイトのシュートチャンスを創出しているかをAIモデルが予測し、スコア化したものだ。
試合配信では、リーグ有数のGravityスコアを持つヤニス・アデトクンボ選手に3人のディフェンダーが引き付けられ、空いた味方がシュートを決める動きがデータと共に解説された。優れた選手は自身がボールを持っていなくても、戦術的な動きで相手の守備陣を崩すことができる。従来は「バスケIQが高い」といった感覚的な言葉で表現されていた選手の貢献度をデータを用いて文脈化し、視聴者に分かりやすいストーリーとして提示することに成功した。
ストリーミングの遅延とリアルタイム処理の最適化
配信サービスとしてパートナーシップを結んだPrime Videoでも、このデータは存分に活用されている。同サービスの強みは、AI技術の専門家やデータサイエンティストを番組制作チームと連携させ、インサイトを放送画面表示に迅速に組み込める点にある。最大4試合を同時に視聴でき、1試合を大きく表示する「マルチビュー機能」やリアルタイムのショッピング機能に加え、AIモデルを用いてディフェンダーの動きを予測し、注目すべき選手を赤い円でハイライト表示する「Defensive Alerts」などの新機能を導入した。米国のスポーツベッティング(スポーツ賭博)サービスである「FanDuel」との提携によって、視聴中に自身の賭けをライブで追跡できる機能も実装している。
一方で、スポーツのデジタル配信における課題として遅延(レイテンシ)が指摘されている。視聴者がストリーミングで試合を見ている最中に、別デバイスの通知で先に結果を知ってしまうといった問題だ。特に、スポーツベッティングやリアルタイムでデータを更新する機能においては、数秒の遅延が大きな影響を及ぼす。
NBAはこの問題に対し、AWS社と連携してアリーナで取得した映像やデータの伝送経路を見直し、インフラ全体で遅延を低減する取り組みを続けている。リアルタイム処理を高速化することで、より没入感のある視聴体験の維持を図る。
多様なファン層に向けた将来展開
NBAは2025年時点で、225の地域において12の言語で試合を配信中だ。近年は米国以外の出身選手がMVPを獲得するなど、グローバル化が急速に進んでいる。10億人のファンは、視聴するデバイスや条件も知識レベルも大きく異なる。こうした中、同時点でNBAファンの90%がすでに通販サービス「Amazon」の有料会員プログラム「Prime会員」であるという事実は、Prime Videoを通じたリーチ拡大に大きく寄与している。
今後の展望として、NBAとAWSは米国女子プロバスケットボールリーグのWNBA(Women's National Basketball Association)のデータ分析にも着手する方針を示した。エンドユーザーの目的に合わせて自律的にタスクを実行するエージェントAIの導入によって、世界中のファンがそれぞれの言語やデバイスで、より直感的にデータを参照できる仕組みの構築も視野に入れる。11年のパートナーシップはまだ初期段階にあり、今後も技術の進化に伴う機能拡充が計画されている。データの蓄積とAI技術の連携は、スポーツの魅力を伝える手段を根本から変えるだろう。
本稿は、AWS社が2025年12月11日に公開した動画「AWS re:Invent 2025 - Basketball's AI Revolution: How AWS and the NBA Are Changing the Game (SPF102)」を基に作成しました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
4
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
5
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
BMWも導入 78兆円市場に化ける「フィジカルAI」の衝撃
-
9
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
10
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー