複雑過ぎて“玄人専用”だったF1 新規ファン獲得を支えたAWSリアルタイム分析50億件超のデータをさばく裏側

1秒間に110万件以上のデータが飛び交うF1は、その複雑さから新規ファンを獲得しにくい悩みに直面していた。この状況を打破したのが、AWSの機械学習とデータ処理システムだ。過酷なレースの裏側とは。

2026年07月14日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 モータースポーツの最高峰であるフォーミュラ1(以下、F1)は、ドライバーの技術だけでなく、データをいかに活用するかが勝敗を分ける世界だ。F1カーには約300個のセンサーが搭載されており、走行中の車体からは1秒間に110万件以上、1レース当たり20台の車両から50億〜60億件のデータポイントが生成される。2024年シーズンに参戦した全20人のドライバーのデータでは、平均して1位と最下位のタイム差はわずか1.3%だった。こうした極限の競争条件下において、これらのデータを瞬時に分析し、適切な判断を下すことはチームにとって不可欠だ。

 F1が抱えていたもう一つの大きな課題は、この複雑なデータとレースの状況を「いかに視聴者に分かりやすく伝えるか」だった。目まぐるしく変わる順位やピットストップの戦略、タイヤの摩耗状況などをファンが理解できなければ、スポーツとしての魅力は半減してしまう。新規ファンや若年層を獲得し、視聴者層を拡大することも急務であった。

 この課題を解決するため、F1はクラウドサービスベンダーであるAmazon Web Services(AWS)をグローバルパートナーとして迎え入れた。両者の取り組みによって、レース中のデータはリアルタイムで分析・可視化され、視聴者の理解度は提携前と比べて47%向上したという。新たなファン層の開拓にも成功し、2025年時点の統計では、ファンの43%が35歳未満、41%が女性となっている。

 地球の裏側で開催されるレースのデータを、F1はいかにして遅延なくクラウドサービスに送信し、わずか1秒未満でインサイトとして配信しているのか。

視聴者置き去りの危機をどう脱したか

 AWSが開催する年次テクニカルカンファレンス「AWS re:Invent 2025」でのセッション「Engineering at full throttle: How AWS powers Formula 1(SPF108)」では、F1のストラテジストであるルース・バスコム氏が登壇し、データ処理システムの裏側を語った。

 レース中に生成される数十億件のデータは、ただ収集されるだけではなく、視聴者がテレビ画面で目にするインサイト情報へと瞬時に変換されなければならない。

 まず、世界各地のサーキットを走るF1カーから発信されたデータは、サーキット内に設営されるデータ集約拠点「Event Technical Center」(ETC)に集約される仕組みだ。ここから、英国のビギンヒルにあるMedia & Technology Centre(以下、MTC)へと専用線を通じて転送する。年間の転送経路の中で最も長距離となる、オーストラリアのメルボルンから英国へのデータ転送であっても、そのレイテンシ(遅延)は約250ミリ秒に抑えられている。

 英国に到達したデータは、即座にAWSのクラウドシステムへと送られる。ここでの処理の要となるのが、機械学習モデルの開発・運用を担う「Amazon SageMaker」や、サーバレスでプログラムを実行する「AWS Lambda」といったサービスだ。F1が過去75年間に蓄積してきた歴史的データや、そのレースの直近のラップデータを用いてトレーニングされた機械学習モデルによって、ミリ秒単位で予測や分析を実行する。分析結果は分散型データベース「Amazon DynamoDB」などのシステムを経由して1秒未満で再びサーキットのETCへと戻され、国際映像のグラフィックとして放送に乗る仕組みだ。

 このデータパイプラインによって、「車体とコース脇の壁までの距離」「ピットストップによる順位変動(アンダーカット)の成功確率」「各ドライバーのコーナリング性能の差」といった複雑な情報が、瞬時に視聴者へと届けられている。

クラウドサービスを活用した車体設計とトラブル対処の自動化

 AWSの活用は、放送のエンターテインメント性向上にとどまらない。F1というスポーツそのもののルール(レギュレーション)作りや、運営の効率化にも影響を与えている。

 F1では近年、先行する車から発生する乱気流(ダーティーエア)によって、後続車が近づきにくく、オーバーテイク(追い越し)が困難になるという問題があった。2022年のレギュレーション変更に向けて、F1はAWSの計算資源を活用し、2台の車が連なって走る複雑な空気力学(CFD)シミュレーションを実行した。従来のオンプレミスシステムや標準的なPCでは何百年もかかる膨大な計算をわずか数時間に短縮し、最適な車体デザインのルールを導き出す。結果として、車の接近しやすさが向上し、新レギュレーションが導入された2022年以降、オーバーテイク回数はそれ以前と比べて30%も増加したという。

 レース運営を支えるバックエンドでも生成AIの導入が進んでいる。生成AI構築サービス「Amazon Bedrock」などを活用したAIアシスタントツールが導入されており、レース運営管理システムに組み込まれたAIエージェントの検証では、トラブルシューティングに要する時間を86%も削減した。これによって、インシデント発生時にも放送やレース運営を滞りなく継続できる体制が整えられている。解説者向けには統計情報を引き出すAIアシスタントツール「statbot」が提供され、通算1150戦以上のグランプリの歴史からリアルタイムに必要な統計情報を引き出し、正確で深みのある実況を支援する方針だ。

 F1は、極限のスピードを競うモータースポーツであると同時に、世界最先端のデータ処理システムを実証する場でもある。データ分析や機械学習、生成AIを活用し続けることで、F1は従来の熱心なファンを満足させるだけではなく、全く新しい層を巻き込むエンターテインメントへと進化を遂げている。

本稿は、AWSが2025年12月10日に公開した動画「AWS re:Invent 2025 - Engineering at full throttle: How AWS powers Formula 1(R) (SPF108)」を基に作成しました。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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