生き残る基幹システムの正体
メインフレームは死なず AI活用で20年来の高収益をたたき出す基幹システムの底力
時代遅れとされたメインフレームが、AIによって劇的な復活を遂げている。基幹データこそがAIの勝機だからだ。拙速な移行のわなを回避し、AIを武器に変える現実的な戦略を明かす。
「私が死んだという報道は、いささか大げさすぎます」。『トム・ソーヤーの冒険』などで知られる米国の小説家、マーク・トウェイン氏が1897年に自らの訃報を誤って報じた新聞記事を受けて放った有名な言葉だ。もしこの皮肉屋のユーモリストが、現代の大規模なIT部門で働いていたなら、自分が管理しているメインフレームについても同じことを言ったに違いない。
IBMのメインフレーム「z Systems」ファミリーは、依然として世界のトランザクション(取引処理)ワークロードの大半を担っている。2025年4月には「z16」の後継機となる「z17」が登場した。フォーチュン500企業の70%以上、そして世界最大手の銀行50行のうち45行がIBMのメインフレームを採用している。z17はAIアプリケーション向けに最適化されており、5ナノメートルプロセスの「Telum II」プロセッサと「Spyre」AIアクセラレータを搭載、1ミリ秒の低遅延で1日当たり4500億件の推論処理を実行できる性能を持つ。
ハードウェアの進化に加え、IBMは過去1年でメインフレームの競争力を高めるためのAIベースのソフトウェアを相次いで投入した。
- Watsonx Code Assistant for Z:不足するメインフレーム技術者のスキルを補完する、AI内蔵の開発支援ツール
- z/OS 3.1 AI System Services:システム性能を最適化し、高度な専門知識なしでメインフレーム管理を可能にするAI機能
- インテリジェントな観測ツール:機械学習を用いてCPU、ストレージ、データベースの指標を関連付け、ボトルのネックを事前に警告する異常検知ツール
AIが切り開く新たな市場
最新のオンチップアクセラレータを搭載したz Systemsは、数十年にわたりフォーチュン500企業の基盤となってきた従来の取引処理の枠を超えようとしている。メインフレームの新たな市場として期待されるのが、リアルタイムの不正検知、医療診断、そしてセキュアな企業向け生成AIビジネスだ。z Systemsのオンチップ推論機能を使えば、取引の一部をサンプリングするのではなく、1日3000億件に及ぶ全取引のスコアリングが可能になる。また、顧客データを露出させずにマネーロンダリング検知などのAI学習を可能にする専門的な「合成データセット」も登場している。
コンサルティング会社Communications Network Architectsの社長、フランク・ズベック氏は次のように分析する。「IBMの最近の発表は、メインフレームをAI推論の世界へとさらに推し進めている。取引処理にはエージェント駆動のインテリジェンスが加わり、大幅に高度化するだろう」。同氏によれば、これからの「エージェント時代」でメインフレームは、脆弱(ぜいじゃく)なクラウドへデータを出さず、内部でセキュアに処理を完結させるためのアップグレードを続けていくという。
2026年4月、IBMはArmと提携を結んだ。これにより、ArmベースのソフトウェアやクラウドネイティブなAIフレームワークを、zSeriesやLinuxOne上でネイティブに動作させることが可能になる。メインフレーム上の取引データにクラウドベースのAIモデルを直接適用したい開発者にとって、この提携は大きな隔たりを埋めるものとなる。
スマートフォンからデスクトップPCに至るまで、メインフレーム以外の分散プラットフォームも推論機能を備えつつある。だが、それらの多くは処理をクラウドに依存している。開発者がデータベース構造を大規模言語モデルと統合しようとする際、より高いセキュリティを求めるなら内部での処理が必要だ。この優位性により、開発者にとってメインフレームはより魅力的なAIプラットフォームとなっている。
データという「武器」を握る強み
「AI競争でIBMに有利なのは、データがメインフレームにあるという事実だ。AIはデータなしには何もできない。現在、世界のデータの多くはLLMではなく、メインフレーム上のデータベースに眠っている。メインフレームは依然として企業情報の中心的なリポジトリだ」とズベック氏は指摘する。
世界中の金融機関は、既存のインフラと最新のAI機能を連携させるために、2026年だけで約23億ドルを投じる見込みだ。
IDCが2025年に発表したメインフレームのモダナイゼーションについてのレポートによれば、数年来の減少を経てメインフレームの利用は安定期に入った。ミッションクリティカルな業務を支えるために、利用量(MIPS)を増やす企業も現れている。調査では、ユーザーの88%が今後5年間も現在の業務でメインフレームを使い続けると回答した。今後の刷新計画をけん引する戦略的な要素として、セキュリティ強化と並びAIが筆頭に挙げられた。また、82%がAI活用のためにデータ統合を大幅に改善する計画を持っている。
IDCの分析では、AI対応のz17が寄与したことで、IBMのz Systems部門は過去20年で最高の収益を記録した。2026年第1四半期までにメインフレームの採用率は51%増加している。企業ユーザーは、メインフレームを他のプラットフォームに置き換えるためではなく、レガシーコードの近代化やオンプレミスのクラウドインフラを加速させるために生成AIを活用している。
「保守的」なユーザー基盤の選択
一部のアナリストは、IBMの成功は保守的なユーザー層に支えられている側面があると考えている。膨大なミッションクリティカルデータを低コストな分散プラットフォームに移したとしても、メインフレームと同等の速度と信頼性を得られる保証はない。また、数十年にわたり投資してきたハードウェアやソフトウェアの資産を無駄にするリスクも大きい。
J. Gold and Associatesの社長、ジャック・ゴールド氏はこう語る。「IBMが競合より優れたハードウェアを提示しているかどうかはあまり重要ではない。例えばBank of Americaのように、特定のアプリを30年間動かし続けている企業にとって、それが正常に動き、収益を生んでいる限り、他へ移る理由はない。AIが既存のアプリをどれほど改善するか、まだ多くのユーザーが未知数だと感じている」
一方でゴールド氏は、IBMは既存顧客を満足させ続けるためにAIを完璧に提供しなければならないと付け加える。「もし失敗すれば、ユーザーは好むと好まざるとにかかわらず、他へ移らざるを得ない。それが現代の、そして未来のIT運用の冷徹な現実だ」
インテグレーターが握るビジネスチャンス
IBMにとって大きな市場機会となっているのが、メインフレーム上のAIと、メインフレーム以外のオンプレミスやクラウドを統合する領域だ。メインフレームを管理できるベテラン技術者は減少しているが、AIの訓練を受けた統合のスペシャリストはさらに不足している。
この課題に、IBMはKyndrylやEnsonoといったサービスプロバイダーと強固な提携を結んでいる。両社は、メインフレームとパブリッククラウドのAIモデルをセキュアに接続するハイブリッド戦略に注力している。
ゴールド氏は指摘する。「30年前のメインフレームをクローゼットから引っ張り出して、そのまま最新のソフトウェアを動かせるわけではない。プラットフォームをまたいでAIシステムを連携させるには、AIの経験豊富なインテグレーターの力が必要だ。ここにこそ、最も大きなマーケティングの機会がある」
IDCのリサーチでも、企業がサービスプロバイダーと協力する際は、スタッフ増強やリモートサポートを含む3~5年のマネージドサービス契約から始めることを推奨している。また、コスト効率と柔軟性を両立させるため、共有型の「Mainframe as a Service」を活用する選択肢も提示されている。
「脱メインフレーム」への警告
メインフレームが長寿を保つ兆候は他にもある。Gartnerが2026年6月に発表したプレスリリースでは、メインフレームから安易に分散プラットフォームへ移行する「エグジット(脱却)戦略」についてユーザーに警告を発した。生成AIがコード理解を助け、開発や運用の効率を高める可能性があるとしても、プラットフォームの移行にはリスクが伴うためだ。
Gartnerによれば、メインフレーム脱却プロジェクトは予算超過を招き、ビジネスの継続性を著しく損なう恐れがあるという。生成AIは決して、レガシーなホストからシームレスに離脱するための魔法のつえではない。個々のワークロードを慎重に評価し、それぞれのニーズに最適なプラットフォームを選ぶアプローチこそが結果として大きな投資対効果を生むと同調査は結論づけている。
明るい展望の一方で、IBMが2026年第2四半期の暫定決算を発表した際には失望が広がった。売上高は172億ドルと、アナリスト予測の178.5億ドルを下回ったからだ。
IBMの会長兼CEOであるアービンド・クリシュナ氏は投資家への書簡で、インフラ部門の収益が7%減少したことを明らかにした。コンポーネントの供給不足が続く中、大企業がコンピューティング能力を確保するためにサーバ、ストレージ、メモリの購入を優先し、支出の優先順位が変わったことが影響した。
前年同期の好調と比較して、zSeriesセグメントの伸びが鈍化したことも要因の1つだ。クリシュナ氏は「サプライチェーンの影響はある程度予測していたが、設備投資の優先順位がこれほど変わることは想定外だった」と述べ、インフラ収益の落ち込みが予測以上だったことを認めた。
一方でクリシュナ氏は、第2四半期末にクローズできなかった大型案件の30%が発表の数日後にはすでに契約済みであると明かした。年内には未完了案件の75%をクローズできるとの自信を見せており、AIがもたらすメインフレームの再活性化への期待をつないでいる。
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