情シスは「PCのお守り」から経営の司令塔へ
情シス勉強会座長がモノ申す 「取りあえずAI」の前に情シスが片付けるべき宿題
「取りあえずAIを導入しよう」と経営層に言われたら、情シスは何をすればいいのか。PC・ネットワークの管理・活用を考える会で座長を務める中山裕盛氏と森 厚氏は、AI導入を考えるなら先に取り組んでおくべき「宿題」があると話す。
生成AIの業務活用が急速に広がる中、経営層が業績向上への焦りから「取りあえずAIを使って何かできないか」と現場に求める場合がある。しかし、経営層からの「取りあえずAI」というプレッシャーを前に、情報システム(情シス)部門は先に取り組んでおくべき「宿題」がある――。
こう話すのは、「PCとネットワークの管理・活用を考える会」(PCNW)で座長を務める中山裕盛氏(パナソニック映像 人事総務チーム IT業務支援・総務担当)と森 厚氏(製造会社システム企画担当)だ。
両氏は、足元の基盤が未整備な状態での「取りあえずAI」の導入に警鐘を鳴らす。さらに、「整理のついていない基盤のままAIを導入しても、期待とは程遠い結果になる」と指摘する。先に取り組んでおくべき「宿題」とは何か。
本稿は、2026年6月10日に開催された「変わる情シス 2026 春」の基調講演「AIシフトを見据えた「情シスの宿題」を片付けよう」の内容を記事化したものです。
AI導入前に取り組んでおくべき「宿題」とは
宿題の具体策として挙がったのが、徹底した資産管理だ。特に、入退社や異動に伴うアカウント管理の不備は「情報漏えいの自動化」を招く致命的なリスクになる。森氏は、退職者のアカウントが残存する「幽霊アカウント」の状態を「AI時代において最大のセキュリティホール」と指摘した。
社内データをAIに学習・連携させる際、権限管理が不適切なままでは、本来アクセス権のない情報がAIを通じて露出しかねない。中山氏は、整理されたIT資産と権限設定こそが「安全で精度の高いビジネスインテリジェンスを生む」と語り、台帳管理を単なる事務作業ではなく、AI時代のセキュリティ基盤構築と捉え直すべきだと主張する。
「計画外業務」を自動化する時間の錬金術
情シスが戦略的なAI活用に踏み出せない最大の要因は、リソースの枯渇にある。中山氏は、情シス業務の約半分を社内問い合わせなどの「計画外業務」が占めると指摘。その中には、PCの設定や操作方法の確認といった定型業務が含まれる。
森氏は、これらの保守作業に忙殺される現状を打破するため、「時間の錬金術」としての自動化を推奨する。RPAや運用ツールを駆使してルーティン作業を削減し、創出した時間をIT戦略やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進といった「攻めの情シス」業務へ再配置するサイクルを回すためだ。
「記録をナレッジに変え、問い合わせ自体を減らすセルフサービス化の構築が急務だ」として、単に手を動かす作業者から、効率的な仕組みを設計するアーキテクト(設計者)への転換が求められていると中山氏は強調する。
情シスは「経営リスクを翻訳する司令塔」へ
AIの台頭により、情シスの役割は「PCのお守り」というコストセンターから、経営の根幹を支えるリスクマネジメントの主役へとパラダイムシフトを遂げつつある。中山氏は、攻撃側もAIを駆使する現代において、高度なセキュリティ監視とガバナンス統制は「最重要の経営課題」であると指摘する。
森氏はAIの性質を「生意気な新入社員」に例える。指示が曖昧であれば、AIはもっともらしいうそをつく「ハルシネーション」(幻覚)を引き起こすからだ。この特性を理解し、高度なプロンプト(指示文)を用いてAIをコントロールできるのは、社内のIT基盤とデータを把握している情シスに他ならない。
「AIを他部署へ展開する前に、まずは情シス自身が使い倒すべきだ」と中山氏は語る。例えば、Windows 11の無線LAN設定マニュアルを作成する際、AIに単に「作って」と命じるのではなく、「あなたはサポートの専門家です。ITリテラシーの低い社員向けに専門用語を避けて箇条書きで作成してください」と構造化した指示を出す。こうした実践を通じてAIの癖をつかむことが、社内展開の第一歩となる。
明日から取り組む4つのチェックリスト
講演の締めくくりとして、中山氏と森氏は受講者が即座に実行できる「宿題リスト」を提示する。
- 経営層とのアライメント
- AI導入で何を解決したいのか、経営の本音と目的を直接ヒアリングする。
- アカウントの点検
- 主要システムに「幽霊アカウント」が残っていないか、目視で確認する。
- 業務の棚卸し
- 今週、何に一番時間を使ったかを書き出し、自動化やナレッジ化が可能か検討する。
- AIの試用
- 社内向けのお知らせ文や構成案を、構造化されたプロンプトでAIに作成させてみる。
最後に中山氏は、孤独になりがちな情シス担当者が企業の枠を超えて助け合うコミュニティーであるPCNWの活動を紹介する。「焦る必要はない。着実なステップで宿題を片付け、AIを情シスの強力な武器にしてほしい」とエールで締めくくった。
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