ノークリサーチは、中堅中小企業を対象としたDXとAIに関する調査結果を発表した。AIをDXの代替として掲げる動きがある一方、両者の性質や課題は異なる。調査結果から、情シスが取るべき対応の方向性を整理する。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)の次に来る標語としてAI(人工知能)を掲げたい」。こうした相談は増えている。この問いに情報システム部門(情シス)がそのまま応じた場合、どうなるのか。情シスはどのように動けばいいのか。
ノークリサーチが2025年5月に実施した調査結果からは、「DX」や「AI」というキーワードの下、施策の実施や成果の創出で課題を抱える中堅・中小企業の姿が浮き彫りになった。同調査は800社の中堅・中小企業を対象に実施したもので、2026年3月17日、「中堅・中小企業の経営層向けアプローチで留意すべきDXとAIの相違点」というレポートでその内容が紹介された。
本調査は本来、IT企業が経営層に提案する際の示唆をまとめたものだが、そのまま「社内でAI導入を推進する立場」に置き換えれば、情シスにも同様に有効な示唆を含んでいる。そこで、ノークリサーチの調査結果から、情シスが取るべきアクションを整理する。
そもそもDXとAIは同じレイヤーの概念ではない。DXは「企業の変革」であり、AIはそのための「技術」に過ぎない。つまり、「DX」から「AI」という置き換えは成立しない。
例えば、「会計・販売データをAIで要約するダッシュボード」があるとする。この製品にひも付く経営課題は、「経営に必要な情報を可視化できないこと」であり、その解決策はDXだ。AIで要約することはその実現手段の1つだ。企業の中でデータが散在した状態であれば、AIで要約する以前にデータを集約することが最初に講じるべき対策となる。「DX」を「AI」に置き換えるだけでは、この順序が見えなくなる。
課題の構造も、DXとAIでは非対称だ。「DXに取り組む際の課題」を尋ねた質問では、コストや投資対効果を懸念する以下が並んだ。
一方、「生成AIサービスを活用する際の課題」を聞いた質問では、投資対効果に関連する回答割合はいずれも2割未満にとどまった。
代わりに上位を占めるのは「複雑なPDF文書は活用が難しい」(20.1%)、「適切な入力指示を与えることが難しい」(19.5%)、「構造化されたデータは活用が難しい」(18.8%)、「誤情報や架空の結果が出力される(ハルシネーション)」(18.6%)だった。コストへの懸念よりも、使い方そのものへの戸惑いが課題の中心にあることが分かった。
さらに深刻なのは、生成AIの課題で「現時点では判断できない」が37.5%と、他の回答と比べて高いことだ。「DXに取り組む際の課題」を尋ねた質問では「現時点では判断できない」は15.0%にとどまっていた。
つまり「生成AI活用の課題は何ですか」と問いかけても、4割近くの企業は答えられない状態にある。では、課題すら言語化できていない状況で、情シスはAI導入をどう推進し、経営層に何を説明すればいいのか。
AI活用の推進をDXと同じように進めても機能しない可能性があることは次の調査結果からも明らかだ。「IT企業に必ず実施して欲しいと考えるDX支援」を尋ねた質問の回答上位3項目は「改善すべき業務の診断/特定」(36.5%)、「安全/高速なネットワーク環境」(30.0%)、「DXを主導する人材の育成支援」(28.6%)だった。
一方、「生成AIサービスを活用する際に必須と考える事柄」において「生成AIを適用する場面を指南する支援」を必須と考える割合は13.3%だった。この結果からは、DXでの成功体験を流用して「AIを適用すべき業務場面」を検討しようとしても、効果は期待できない可能性がある。その理由は、「ChatGPT」をはじめとする無料版が使えるサービスの導入は企業で拡大しつつあり「生成AIがどのような処理を担うのか」はある程度イメージしやすいからだ。
ただし、「社内データで出力を補完する」「既存の業務ツールと連携する」「Web検索で出力を補完する」ための支援が上位3つに挙がった。ここから見て取れるのは、現場は「業務へのAIの適用方法」ではなく「AIサービスを活用するに当たって自社データをどう整備するか」に対する支援を求めているということだ。
これについてノークリサーチは回答の上位3項目全てが、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)に関連した支援であると指摘している。RAGとは、生成AIが回答を生成する際に社内外の適切なデータを参照させることで、出力の精度を高める仕組みだ。
この結果を踏まえると、情シスが経営層とAI導入を進めるに当たっては、「ツールを入れる」ではなく「どのデータを整備するか」を議題の中心に据えることがニーズに合致すると考えられる。
最後に、ノークリサーチが調査から導き出した重要な指摘がある。「ユーザー企業が進めようとしている生成AI活用の場面は、本当に生成AIに適したものか」という問いだ。現在の生成AIは確率的な処理を伴う。「人が見落としがちな新たな視点を示唆する」用途は比較的得意だが、「ブレやミスが許されない決定的な判断を下す」処理に適用するには慎重な検討が必要だ。
情シスが現場部門からAI活用の要望を受けたとき、この軸で判断することが誤った導入を防ぐ最初のフィルターになる。例えば「契約書の最終承認判断をAIに任せたい」という要望は後者に該当する。一方「大量の顧客フィードバックから見落としがちな不満パターンを抽出したい」は前者に近い。この区別を情シスが持っていないと、現場の要望をそのまま通してしまい、ハルシネーションによる事故の責任を問われることになる。
経営層から「AIを使いたい」というメッセージを受けた場合、情シスは3つのポイントを基にやりとりすることが有用だ。
1つ目は、「AIはDXの後継ではなく、DXを加速させる手段の1つ」という位置付けを明確にすることだ。DXの取り組み自体は今後も続く。その中でAIは最も注力すべき技術の1つという位置付けであり、DXの看板をAIに替えることではない。
2つ目は、「AI導入を進める前にデータを整備することが肝要である」という順序の説明だ。データが散在した状態でダッシュボードを構築しAIに要約させても、期待するほどの結果は得られない可能性がある。AIの導入より先にデータ整備が必要だという説明は、経営層の「なぜすぐAIを使えないのか」という問いへの答えになる。
3つ目は、「AIを導入する前にAIを適用していい業務はどれかを判断することが大切」という流れを説明することだ。現場の部門が「AIでやりたい」と言ってきた業務が、確率的な処理が許容できる業務かどうかを情シスが判断し、適切でない場合は代替手段を提案する役割を担うといった具合だ。この3点を経営層への説明の骨格にすることで、「AIを入れるかどうか」ではなく「AIを正しく使うために何をするか」という議論に誘導できる。
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