Gartner予測に学ぶITコスト防衛術
2026年の世界IT投資額は1000兆円超え AIコスト高騰に情シスが採るべき現実的防衛策
AIインフラ構築により世界IT支出は前年比14.2%増となる見込みだ。不透明なトークンコストやSaaS値上げに直面する中、年次予算からの脱却や重複ツールの削減など、情シスが採るべき現実的防衛策を整理する。
Gartnerの最新予測によると、2026年の世界IT投資額は6兆3700億ドル(現在のレートで約1015兆円)に達する見込みだ。これは2025年比で14.2%の増加で、AIインフラの需要拡大とAIワークロードの増加が背景にある。支出は、データセンターシステム、デバイス、ソフトウェア、サービス、IaaS、通信サービスの全6カテゴリーで増加している。
CIOはIT投資の議論を主導する立場にある。しかし予算編成は、IT領域へ資金を投入すれば済む話ではない。企業は予算のプレッシャーやAIの価格設定の不透明感、優先順位の変更に直面している。
Gartnerの予測は、自社の予算配分を検討し、競争力を維持するための基盤を構築する情シスにとって、IT投資の最新動向を把握する指標となる。以下では、不透明なトークンコストやSaaS値上げに直面する中、年次予算からの脱却や重複ツールの削減など情シスが採るべき現実的防衛策を整理する。
エグゼクティブサマリー
- 2026年の世界のIT投資額は前年比14.2%増の見通し。データセンターやクラウドサービスのAIインフラの拡張がコスト増加をけん引しており、CIOにとっては機会とコストプレッシャーの両方をもたらしている
- 予算配分にはアプローチの変更が求められる。技術カテゴリーではなくビジネス成果に支出をひも付け、AIの価格変動に迅速に対応するため四半期ごとの見直しを検討する必要がある
- コスト管理は重要だ。重複するツールを排除し、ベンダー契約を再交渉するとともに、事業部門のリーダーと密に連携して、AI投資を定量的な成果に結び付けることが求められる
2026年のIT投資状況を把握する
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Gartnerでディスティングイッシュトバイスプレジデントアナリスト兼チーフフォーキャスターを務めるジョン・ダビッド・ラブロック氏はTechTargetに、今回の予測は1000社以上のベンダーの市場シェア情報、経済指標、IT購入者のデータに基づいていると説明した。
「支出に与える影響が異なるこれら3つの要素をバランスよく組み合わせて世界のIT投資予測を導き出している。約74万2000件のデータポイントを集計して算出した」(ラブロック氏)
2025年7月時点で、Gartnerは同年の世界IT投資額を5兆4300億ドルと予測していた。このときはマクロ経済の不透明感が新規投資を抑制していた。2026年もAIの価格設定を中心に不透明感は残るが、ハイパースケーラーや一般企業による大規模なAIインフラの構築に伴い投資額は急増している。
税務・助言・会計の専門企業BPMでCIOを務めるモエ・アスガルニア氏は、「AIは単なるITプロジェクトの1つではなく、組織の基盤になりつつある」と語る。
IT投資が増加しているからといって情シスに無制限の予算が与えられるわけではない。予算については多方面からの圧力を受けている。Gartnerの予測では、インフレや供給不足、ハードウェアおよびメモリの価格高騰を指摘している。情シスはこうした要因を考慮しながら資金を配分しなければならない。
DXを推進するUSTでCIO兼最高戦略責任者(CSO)を務めるクリシュナ・プラサド氏は次のように述べる。「AI機能を導入するための支出は確実に増えている。一方で、人員削減や他のソフトウェアコストの削減につなげるべきだという強い要求がある」
カテゴリー別の投資伸び率
Gartnerの予測では、世界のIT投資を6つのカテゴリーに分類し、それぞれの伸び率を示している。
データセンター(62.5%増)とIaaS(29.3%増)
データセンターとIaaSは、他のカテゴリーを引き離し高い成長率を記録している。
「現在のAIインフラ構築は、人類が過去に試みた中で最も大規模なインフラプロジェクトだ。米国の高速道路網、欧州の鉄道網、万里の長城、国際宇宙ステーションを合わせたものよりも大きくなる」とラブロック氏は話す。「今後2年間に登場するAIに必要なデータセンターや電力、冷却設備、適切な運用のための整備に膨大な資金が投じられている」
この分野の予算を検討するCIOは、自社で構築するか外部から調達するかという問いに直面しているが、これに明確な正解はない。
AIコストの管理権限を維持するために自社構築を選択する企業もいる。
「社内でAI利用が広がると、使用トークン数やパートナーから提供されるモデルのライセンス料を制御できなくなる恐れがある。全体の支出は、使用トークン数×トークン単価+ライセンス費用で決まるからだ」(ラブロック氏)
一方で、インフラ構築に伴う負荷を避けるため、パートナー企業との連携を選択する企業もある。
ソフトウェア開発企業のBairesDevでCTOを務めるジャスティス・エロリン氏は、「自社の事業はデータセンターの維持管理なのか、それとも顧客への製品やサービスの提供なのかを考える必要がある」と指摘する。「誰もがIT企業を目指したがるが、全ての企業がそうなるべきではない」
自社構築、外部調達、あるいはハイブリッドという各アプローチには、それぞれぞれ異なるコスト要素と戦略的判断が求められる。
ソフトウェア(15.5%増)
Gartnerの予測によると、企業はAIに対応したソフトウェアへの投資を増やしている。新規のAI対応ソフトウェア購入だけでなく、既存ベンダーが製品にAI機能を組み込んでいることも要因だ。
「契約更新のたびに、ソフトウェアの支出が平均10~15%増加している。こうした費用増加を続けるのは困難だ」(プラサド氏)
この状況を受け、CIOは導入ツールやベンダー関係の見直しを迫られている。
「重複しているプラットフォームや無駄な機能、サービスを特定して排除している。そこで浮いた資金を業務プロセスにAIを組み合わせるなどより価値のある事業に再投資している」(アスガルニア氏)
また、自社で独自のソフトウェアを内製化する機会を模索する企業もある。
デバイス(9.8%増)
デバイス分野の支出増加は、AIワークロードの需要が一因となっている。
エロリン氏は次のように説明する。「個人の生産性が高まるにつれ、要求されるデバイスのスペックも高度化している。かつては標準的なノートPCで十分だった従業員が、手元の環境で複数のAI処理を実行するため最新のプロセッサを求めるようになっている」
またアスガルニア氏は、イランでの紛争がサプライチェーンやハードウェア費用に影響を与えていると指摘する。
「来期の予算を検討する中で、価格が安定するまでの猶予を作るため、ノートPCの更新周期を3年から4年に延長することを検討している」(アスガルニア氏)
ITサービス(5.3%増)
ITサービスは予算全体で依然として重要な位置を占めている。ソフトウェアやインフラの導入には、支援を提供するベンダーが必要となるからだ。
このカテゴリーの支出増加が予測される一方で、企業の意識にも変化が見られる。
「顧客は契約スタイルの変更を求めている。構築フェーズに対する支払いを抑え、提供された成果に応じて報酬を支払う仕組みへの移行だ」(プラサド氏)
通信サービス(4.4%増)
通信サービスは、Gartnerがカバーするカテゴリーで最も伸び率が低い。しかし企業にとっては必要な基盤投資だ。
CIOは必要な帯域幅を見極め、統合の機会を探ることができる。プラサド氏によれば、通信サービスはコモディティ化が進んでいるという。
「コストを比例して増やさなくても、より大きな容量を確保できるはずだ」(プラサド氏)
CIOのための予算編成フレームワーク
Gartnerの予測は投資動向を理解する上で有益ではあるが、CIOは自社の目標やニーズに合わせて予算を配分しなければならない。フレームワークは企業ごとに異なるが、課題や機会には以下のような共通点がある。
コストの管理
IT投資が増加するにつれ、チェックの目は厳しくなる。現状、AI関連のコストは流動的で予測しにくい。CIOは技術の導入を進めながら費用の管理と最適化を担う必要がある。
「今後数年間は、CIOにとって過去最も厳しいコスト管理と効率化が求められる時期になる」(ラブロック氏)
これに対応するため、CIOはIT予算に柔軟性を持たせ、支出や優先順位について協議する頻度を増やすことが求められる。
「年次予算から四半期予算への移行を検討すべきだ。状況の変化が非常に早いため、1年先を正確に予測することは誰にもできない」(エロリン氏)
ビジネス成果の重視
AIが企業基盤の一部となる中、それに伴うIT投資を「AI関連費用」として一くくりであいまいに管理することは許されない。
「AI自体に予算を割くのではなく、得られるビジネス成果で予算を組むべきだ」(アスガルニア氏)
CIOは他の事業部門リーダーと緊密に連携し、目標とするビジネス成果とこれをを達成するための資金配分を明確にする必要がある。
「優先事項が具体的に何を意味するのか協議を重ねる。インフラ、アプリケーション、セキュリティツールのいずれであっても、事業の成功を妨げないために必要な準備を整えていく」(アスガルニア氏)
経営陣との連携
予算をビジネス成果に結び付けるには、経営陣同士の連携が必要だ。CIOはAIを深く理解し、答えを知る人物と期待されがちだが、現実には全てを把握している者はいない。
「コストや成果、スケジュールについての不確実性を受け入れた上でコミュニケーションを取る必要がある。『すでに何度も経験しているから費用も期間も成果も全て分かる』と言い切れる企業は存在しない」(ラブロック氏)
CIOは戦略的なIT投資を主導し、企業の持続的成長を支える役割を持つ。AI主導の市場環境では、これまでの手法にとらわれない姿勢が求められる。
「既存の支出実績を基に予算を組んでしまいがちだが、予算の各項目を1つずつ見直すことが重要だ」(アスガルニア氏)
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