現場と情シスのスキルギャップを解消する
「つなぐだけ」で終わりがちなITとOTの融合 成功のための必須資格は
製造や物流で進むITと運用技術(OT)の融合。だが現場とIT部門のスキルや文化の断絶がプロジェクト頓挫を招く。双方のギャップを埋め、失敗を防ぐための必須スキルセットと実践的な人材育成・資格活用法を解説する。
情報技術(IT)と運用技術(OT)の融合は、「実現できたら望ましい」事業戦略から、事業の俊敏性をけん引する必須のテクノロジーで将来を見据えた基盤へと変化した。この変化をもたらした背景には何があるのか。
企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める中で、ソフトウェアや機器のベンダーも同様に進化を遂げた。製造業を例に挙げると、設計を担うCAD(コンピューター支援設計)と、製造工程を制御するCAM(コンピューター支援製造)を切り離して運用することは現在ではほぼ不可能だ。製品の設計と実際の製造の間で不整合を防ぐため、エンジニアリングのCADと製造現場のCAMは密接に連携している。
製造業各社は、過去にドイツで提唱された「インダストリー4.0」や「インダストリー5.0」といった標準も取り入れてきた。これらの指針は、コスト効率の向上、可視性の改善、競争の激しい世界市場への適応を目的に、機械のネットワークと製造プロセスを高度に統合する動きを後押しした。
医療、金融、小売り、ライフサイエンス、農業、物流といった他の業界でも同様のDXが進み、ITと業務現場(OT)の境界線があいまいになっている。両者の領域が交わることで、以前は存在しなかった厳格な物理セキュリティやサイバーセキュリティの対策が求められるようになった。
本記事では、ITとOT双方のギャップを埋め、失敗を防ぐための必須スキルセットと実践的な人材育成・資格活用法を解説する。
なぜIT・OT融合のトレーニングが重要なのか
ITとOTの統合が進むにつれ、従業員はこの融合環境に対応するためのリスキリング(スキルの再習得)を必要としている。
IT担当者はデータ、アプリケーション、セキュリティ、ネットワークを扱う。対照的に、現場の担当者は日々の業務プロセスや物理機器を扱っている。両者が部門横断的なIT・OTチームとして連携するには、双方が互いの領域についての知識や実務経験を身に付けなければならない。
IT・OT融合のトレーニングを必要とする対象者
IT部門には以下の領域でのスキル向上が求められる。
- コミュニケーションと対人能力(ソフトスキル):IT部門が従来苦手としてきた領域で、業務部門とIT部門がIT・OTプロジェクトチームで円滑に意思疎通を図るために強く求められる
- 業務プロセスの再設計(BPR):現場の業務がどのように回り、運用面でITに何を求めているのかをIT部門が理解する必要がある
- 指導とメンター業務:技術志向のIT管理者や担当者にとって他者を指導することは容易ではないため、課題となりやすい領域である
- IT・OTプロジェクト管理:プロジェクトチームがIT部門だけでなく現場の業務担当者も含めて構成されるため、重要性が高まる
- 技術と運用の統合:システムを設置しただけでプロジェクト完了と見なす姿勢は通用しない。IT・OT融合では、ITがOTと完全に連動し、一連の業務プロセス全体が機能していることを確認する責務がある
運用側の業務担当者には、以下の領域でのトレーニングが求められる。
- IT用語と基礎概念:ITが日々の業務プロセスに組み込まれるため、IT担当者と会話できる知識が必要となる
- システムセキュリティ:IT部門にとっては基本事項であっても、現場の担当者は意識が向きにくい場合がある
- ビジネスユースケースの特定と投資対効果(ROI)の証明:現場の担当者は業務で何が必要であり、どのような成果を期待できるかを把握している
- プロジェクト管理:日常業務のルーティンワークに慣れている担当者が多く、単発のプロジェクト推進に不慣れな場合がある
主要なIT・OT融合の認定資格とトレーニング
検討に値する主なトレーニングコースや認定資格は以下の通りだ。
ICS410: ICS/SCADA Security Essentials
SANS Instituteが提供する「ICS410: ICS/SCADA Security Essentials」は、産業制御システム(ICS)のサイバーセキュリティについての基礎スキルを習得する6日間のオンラインコースだ。ITセキュリティの専門家にとっては周知の内容も多いが、現場でICSの保護や運用を担当する担当者は、プライバシーポリシーやOT環境で稼働するIT資産、IoT機器、ネットワークの監視および保護に必要な日常業務に不慣れなことがある。同コースはそうした知識の獲得に適している。
対象者は、
- 現場の運用技術、エッジIT、機器、ネットワークの支援を担当するITセキュリティ担当者
- IT部門と連携し、現場運用のセキュリティ責任を担う業務部門の管理者や担当者
Industrial Network Training Certification
「Industrial Network Training Certification」は、過酷な環境条件下で旧来の機器を用いて24時間365日稼働する運用ネットワークに特化した資格だ。従来のITネットワークと遠隔地の運用環境の厳しいネットワーク要件との間にある知識差を埋める。産業用ネットワークのトラブルシューティングや障害解決、プログラマブルロジックコントローラー(PLC)、SCADAシステム、フィールド機器のセキュリティ、イーサネットおよび無線接続についてのトレーニングを提供する。
対象者は、
- 産業用ネットワーク環境への対応に向けてリスキリングを進めるITネットワーク担当者
- IT部門の協力を得ながら現場で産業用ネットワークを支援する業務担当者
Automation Project Management Specialist Certificate
「Automation Project Management Specialist Certificate」は、ITとOTが交差する自動化プロジェクト特有の課題について、プロジェクト管理者を育成する認定資格だ。複数のIT部門と業務部門にまたがるチーム運営の複雑さや、業務プロセス全体を完結させるためのマンマシンインタフェース(HMI)の統合を扱う。プロジェクトチームの調整、全社的な業務要件の特定、プロジェクト統制を維持したまま遅延に対処する方法などを学ぶ。
対象者は、
- 自動化プロジェクトを統括するIT部門および運用部門の管理者
- プロジェクト推進の役割を担う自動化エンジニア
- 複数の技術グループを横断して調整を行うチームリーダー
- 広範なプロジェクト責任を担う現場の専門職
Train the Trainer
「Train the Trainer」は、新しいIT・OT技術や業務プロセスについて他の従業員を指導する社内講師(専門家)を育成するコースだ。プレゼンテーションの進め方、情報の伝達方法、受講者との信頼関係構築やメンター業務に必要な基礎スキルを習得する。模擬講義の実施、カリキュラムの組み立て、受講者の理解度確認、多様な学習スタイルへの対応など、実践的な訓練が含まれる。
対象者は、
- 指導経験はないものの、同僚でIT・OTスキルや業務プロセスの教育を担当することになったIT部門および運用部門の専門家
Soft Skills: The 11 Essential Career Soft Skills
Udemyが提供する「Soft Skills: The 11 Essential Career Soft Skills」は、チーム環境で円滑に連携し意思疎通を図るために必要な11のスキルを学ぶオンラインコースだ。短い動画で構成された34時間のオンデマンド講義で、隙間時間を利用して自分のペースで学習できる。コミュニケーションや傾聴のスキルに加え、集団を導くリーダーシップも扱う。修了時には修了証が発行される。
対象者は、
- IT・OTプロジェクトチームの全メンバー(特にコミュニケーション、チームワーク、協調性の向上を目指す技術志向の担当者や専門家)
IT・OT融合トレーニング戦略を策定する5つのステップ
トレーニング戦略を策定する際は、以下の5つのポイントを押さえるとよい。
第1に、トレーニングに着手する前にビジネスユースケースとIT・OT統合基盤を特定する。対象となる業務用途、利用する基盤、対象プロセスが明確になっていなければ、必要な教育内容や対象者を絞り込むことはできない。
第2に、用途と技術目標が定まったら、現場とITの合同チームを対象にスキル評価を実施する。技術やプロセスの導入を担当する人材、あるいは部門横断チームを率いるリーダーは誰か。その人材に必要な知識は備わっているか。誰が教育を担当し、その担当者に指導力や対人スキルがあるか。どの領域で教育やリスキリングが必要かを洗い出す。
第3に、必要な認定資格や研修コースを選定する。プロジェクトで担う役割に合わせてメンバーのスキルを向上させる必要がある。これらの教育費用をプロジェクト全体の予算に組み込み経営層からの承認を確実に得ておく。
第4に、研修の時期をプロジェクト計画と連動させる。受講者が学んだスキルを速やかに実務で生かせるよう、研修日程を全体の進行計画に組み込む。スキルは使わなければ定着しない。受講から実践までに時間が空きすぎると、教育投資の価値が損なわれてしまう。
第5に、対人能力(ソフトスキル)の教育を怠らない。新しいIT・OTプロセスの設計を成功させるには、円滑に対話し協力し合える人間関係が必要だ。プロジェクトチームには、こうしたコミュニケーション能力を備えたメンバーを現場とITの双方から配置する。
企業が従業員で前例のない業務変革や新技術への適応を求める以上、教育やリスキリングはIT・OTプロジェクトの成否を分ける要素となる。教育投資を先送りしたり怠ったりすれば、現場の反発を招きプロジェクトは頓挫する。CIO、プロジェクト管理者、現場のリーダーは、この重要性を経営陣や取締役に説く必要がある。IT・OTプロジェクトで人材教育の軽視は許されない。
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