SAP×AI
SAPのAI、全社展開はわずか1割 「PoCの次」に進めない本当の壁
SAP製品のユーザー会ASUGは、AI活用に取り組む会員142人の調査結果を公開した。その内容からは、本番環境でのAI運用を阻む壁が浮かび上がった。
SAPはここ数年、AI機能やAIエージェント、データ基盤を相次いで投入している。一方、SAPのユーザー企業では、AIを試す動きは広がっているものの、実際の業務への展開や全社規模での活用にはなお壁があるようだ。
SAP製品のユーザー会であるAmericas' SAP Users' Group(ASUG)の調査によると、AIを試験的に利用する動きは広がっている一方、パイロットから本番環境へ移行し、さらに全社規模へ展開できている企業はまだ一部にとどまることが分かった。
調査は、SAP環境でAI活用に取り組む会員142人を対象にオンライン調査を実施したものだ。その結果は2026年3月、「Navigating AI in SAP Landscapes:Adoption, Execution, and Value」として公開された。
SAPユーザー企業は、AIを「試す段階」から「業務で使う段階」へ進む際、具体的にどのような壁に直面しているのか。調査結果を基に、ASUGのCEO(最高経営責任者)ジェフ・スコット氏とアソシエートリサーチディレクターのブレイク・バルタザール氏が整理する。
AI活用、「PoCの次」が難しい その理由は
バルタザール氏によると、SAPユーザー企業のAI活用は前進しているものの、次の課題になっているのが「パイロットから本番環境への移行」と「全社規模への展開」だ。
ASUGは、AIへの取り組み方によって企業を大きく2つの群に分類した。1つ目の群は、事業価値を意識し、経営層も関与しながら優先度の高いユースケースを実業務に展開する「Intentional adopters」だ。もう1つの群は、本格展開する前に効果を確認し、パイロットや実験を重ねる「Measured adopters」で、こちらの方が多数を占めたという。
重要なのは、企業規模や業種といった属性以上に、こうした「AI活用にどのような姿勢で取り組んでいるか」を見ることで、企業におけるAI活用の進捗(しんちょく)が浮かび上がるという
技術よりも「実行準備」が壁に
では、AI活用を本番環境や全社へ広げる際、何が障壁になるのか。バルタザール氏は「技術そのものだけではなく、実行に向けた準備がAI導入と拡大を阻む主要な壁だ」と話す。特に重要なのが、ガバナンス、セキュリティ、業務運用との整合性だという。
企業の中には、AIが自律的に業務を実行するよう体制を構築するというよりは、まずは日常業務の効率化につながる用途を優先しているところがある。AIによって実現したい事業成果への期待は大きいものの、その効果を測定する仕組みについては整備途上だという。
こうした本番展開への課題を乗り越えるため、SAPのユーザー企業は、具体的な導入支援を必要としている。調査で「AIの導入や活用拡大を進める上で、何があれば自信を持って前に進めるか」を尋ねたところ、最も多かったのは、IT、財務、業務、開発者など、それぞれの職種に応じた実践的で具体的なガイダンスだった。これに続き、51%は「SAP製品に即した段階的な実装支援」を挙げた。
今後のAIエージェント導入を阻む「データ品質」
もう1つ、今後問題になると思われるのがデータ品質だ。調査では、AI導入の障壁について尋ねた。その結果、「データ品質の準備不足」を挙げた割合は25%にとどまった。この結果についてスコット氏は、数字の低さに驚いたという。一方この結果は、現状のAIが人間の業務遂行のサポート、情報提供、文書作成といった補助的な用途を中心としていることが理由だと同氏はみている。
しかし、AIエージェントが具体的な提案をしたり、業務プロセスの一部を代行したりするようになればこの状況は変わる可能性がある。スコット氏は、SAP環境におけるデータが十分にクリーンで信頼できなければ、AIエージェントは適切な判断を下せなくなると指摘する。さらに、データ品質がAIエージェント導入を阻む最大の要因になる恐れがあると強調する。
その背景には、長年使われてきたSAP環境特有の事情もある。SAPはデータを構造化する仕組みを提供している。しかし、SAPのユーザー企業の中には、過去の業務方法に合わせて蓄積したデータや、一貫性に欠けるデータをそのままにしているところがある。企業自身がマスターデータの定義を統一しなければ、AIエージェントに判断を任せることは難しい。
全社展開に進んだ企業は約1割
調査では、AIを全社規模で展開できているかどうかも尋ねた。バルタザール氏によると、AIを全社規模に展開する段階まで進められている企業は約10%だった。全社展開を妨げている要因には、セキュリティ、プライバシー、ガバナンスに加え、スキル不足、予算の制約、データの準備不足などがあるという。
そこでスコット氏は、企業がまず取り組むべきこととして「全社展開を念頭に置いた実験」を挙げる。AIに詳しいチームをつくるには、実際にAIを試し、そこから学ぶ必要があるためだ。
SAPユーザーがAI活用を次のステップに進めるポイントは、新しいAI機能を導入することだけではない。ガバナンスやセキュリティを整え、データを整理し、実験で得た知見を本番環境へ移せる体制をつくれるかどうかが、AIを「試す段階」から「業務で使う段階」へ進む分岐点になりそうだ。
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