第三者保守への切り替えや部分解約が可能に
SAP保守を分割・離脱も可能に EU承認で変わるECCユーザーの2027年問題
欧州連合(EU)は2026年7月9日、SAPによる保守・サポート契約の柔軟化を承認した。顧客企業にはどのような影響があるのか。
欧州連合(EU)は2026年7月9日(現地時間)、SAPが顧客向けの保守・サポート契約を柔軟化する方針を承認した。
ルール変更で何が変わる?
併せて読みたいお薦め記事
SAP移行の関連記事
SAPユーザーは今後、自社のSAPソフトウェア環境を複数に分け、領域ごとにSAPや第三者事業者の保守サービスを選択したり、保守を利用しない判断をしたりできるようになる。特に「SAP ERP Central Component」(SAP ECC)を使い続ける企業にとって、移行戦略や保守費用を見直す契機になりそうだ。
例えば、重要度の高い基幹システムにはSAPの保守を残し、周辺システムは第三者保守に切り替えるといった運用が可能になる。システムの一部について、SAPの保守を利用しない選択肢も認められる。
SAPはこれに加え、事業環境の変化によって従業員数を削減した場合や、企業が破産した場合には、ライセンス契約と、それに伴う保守・サポート料金を終了できるようにすることで合意した。
SAPの保守から離脱した顧客が再び同社の保守に戻る際の条件も変更する。従来の復帰手数料を廃止し、保守を利用していなかった期間に対して請求する遡及保守料を引き下げる。
ECCユーザーの選択肢が拡大
今回の変更による恩恵を受ける可能性が高いのが、現在もSAP ECCを運用している企業だ。
SAPは「SAP ERP 6.0」のメインストリームメンテナンスを2027年末に終了する予定で、顧客は追加料金を支払うことで2030年末まで延長保守を利用できる。
一方、「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)を利用している顧客や同製品への移行を進めている顧客には、2040年までの保守が約束されている。
ドイツ語圏のSAPユーザーグループ(DSAG)は今回の変更について、主にS/4HANAへの移行を選択してこなかった顧客が利用するとみている。
第三者保守などを活用すれば、企業は実績のあるECCの基幹システムを継続して運用しつつ、必要な領域だけクラウドERPの機能を追加できる。既存投資を維持しながら、段階的に新しい技術を導入する選択肢が広がる。
ただし、ECCを長期間使い続ける企業は既存の基幹業務を継続できる一方、SAPがS/4HANAやクラウドサービスを中心に提供するAI機能や新しい業務機能を利用しにくくなる可能性がある。DSAGは、EUの決定によって企業の自由度が高まる一方、今後の目標アーキテクチャを従来以上に明確に定義する必要があると指摘した。
SAPは保守の価値を強調
SAPのドミニク・アサムCFO(最高財務責任者)は保守・サポート契約の変更について、一部の顧客が保守の利点よりも支出削減を優先している状況を反映したものだと説明する。
一方アサム氏は、大半の顧客がSAPの保守を高く評価していると主張する。同氏によると、第三者保守に切り替えた後、インシデント発生への不安などを理由に、SAPの保守へ戻る顧客もいる。
問題となるのが、復帰時に顧客へどの程度の遡及保守料を請求するかである。保守契約を継続してきた顧客は、製品の継続的な開発を支える費用を払い続けている。一方、第三者保守へ移った顧客は、その期間のSAP保守料を負担していない。
SAPでグローバルカスタマーサポート責任者を務めるステファン・スタインル氏は、復帰する顧客に管理手数料を請求しない方針を示した。遡及保守料については、6カ月分または離脱期間に相当する保守料金の50%のうち、いずれか低い方を上限とする。
保守の柔軟化はS/4HANA移行を遅らせるか
保守契約の選択肢が広がれば、ECCを使い続ける企業が増え、S/4HANAへの移行がさらに遅れる可能性もある。
アサム氏は、今回の変更がECCの継続利用に一定の影響を及ぼす可能性を認める。一方、顧客をクラウドERPサービス「RISE with SAP」へ移行させる取り組みも続けるとしている。
第三者保守事業者Spinnaker Supportで欧州・中東・アフリカ(EMEA)担当バイスプレジデントを務めるジョン・ギル氏は、SAPがAIを強調する背景には、RISE with SAPへの移行が想定ほど進んでいないことがあると指摘する。
大企業がSAP環境をクラウドへ移行する場合、その費用は数億ドル規模に達することがある。ギル氏によると、移行の財務的な妥当性を検討した企業の中には、十分な投資対効果を得られないと判断するケースがあるという。
今回の保守契約の変更によって、SAPユーザーはECCを継続するか、第三者保守へ切り替えるか、一部だけクラウド化するか、S/4HANAへ全面移行するかを、従来より柔軟に選べるようになる。
ただし、短期的な保守費用の削減だけで判断すれば、AIやクラウド向けの新機能を利用する機会を失う可能性がある。既存システムの安定性、移行費用、セキュリティ対応、AI活用の方針を踏まえ、将来の基幹システムの在り方を明確にすることが重要である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社フィックスターズ] 組み込みデバイスへのAI実装で開発速度と品質を両立する方法 -
製品レビュー
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 実画面を見れば納得 営業・設計・開発を「AI×CRM」でつなぐとこうなる -
比較資料
[アイティメディア広告企画] ERP導入ガイド:「OBIC7」「SMILE V 2nd Edition」「Oracle NetSuite」を比較 -
市場調査・トレンド
[アイティメディア株式会社] AI Overviews時代のB2Bマーケ! 成長企業が選ぶ戦略とは? -
市場調査・トレンド
[アイティメディア株式会社] なぜあの施策は失敗したのか? B2Bマーケ施策を成功させる3つの鉄則
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
2
岐阜県庁が7000人規模でも重くならないテレワークを「Prisma Access」で実現
-
3
Microsoft 365侵害企業の9割はMFA導入済み 1002人調査で見えた盲点
-
4
NVIDIA「一強体制」の終わりか データセンターを襲う“電力の壁”
-
5
「アップグレードできないJava」をどう守る IBMとRed HatがAIで400件超修正
-
6
コロナ禍で「PC」がなぜ売れるのか、今後も売れ続けるのか
-
7
コロナ市が「VDI」で実現した“PC故障後5分で仕事復帰”の仕組みとは?
-
8
Zoomなどの「Web会議」はなぜ危険か? セキュリティ確保が難しい理由を解説
-
9
レノボの法人専用タブレット「Lenovo ThinkTab X11 Gen 1」がもたらす現場革新
-
10
“実績多数”は信用できる? エンジニアが転職エージェントに抱く不信感の正体
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
3
10G回線の真価をフルに享受するには? 導入前にチェックしたいポイント
-
4
SCS評価制度時代の「SASE選定」ガイド
-
5
顧客対応自動化の要点:RAGとデータ連携で“業務で使える生成AI”にする方法
-
6
マンガで解説:情シスの負担を減らす「MDRサービスのインシデント対応」の中身
-
7
「EDR」選定ガイド:比較・検討フェーズで整理すべきポイントを解説
-
8
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
9
なぜAIは組織で定着しないのか? 全社展開を阻む「3つの壁」と突破のヒント
-
10
ランサムウェア攻撃“究極の対策”はこれだ
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー