Dynatrace調査に見るAI本番運用時代の現実
AIを監視するのは誰か SREの仕事を変える「モデル監視」という新任務
Dynatraceは、「SREおよびプラットフォームエンジニアリングの現状(2026年版)」の調査結果を発表した。調査からは、AI活用やエンジニアの役割に変化が生じていることが明らかになった。
AIを業務システムに組み込み、本番環境で利用する企業が増える中、AIを「導入する」だけでなく、「安定して運用し続ける」ことが新たな課題になっている。従来のアプリケーションとは異なる障害やコスト変動が発生するAIを、誰が監視し、制御するのか。
オブザーバビリティ(可観測性)製品を提供するDynatraceは2026年8月26日、「SREおよびプラットフォームエンジニアリングの現状(2026年版)」の調査結果を発表した。年商5億ドル以上の企業でSRE(Site Reliability Engineering)、プラットフォームエンジニアリング、IT運用に携わるITリーダーなど919人を対象としたグローバル調査だ。
調査から見えてきたのは、AIの本番利用が広がるにつれ、SREやプラットフォームエンジニアリングチームが従来のシステム運用を超え、AIモデルそのものの信頼性やガバナンスまで担うようになっている実態だ。
AI導入でSREの役割が激変
AIシステムは、従来型のソフトウェアとは異なる運用課題を抱える。例えば、時間の経過やデータの変化によってモデルの精度が低下する「モデルドリフト」、出力の不整合、推論コストの増加、データセキュリティリスクなどだ。
こうした問題は、CPU使用率やメモリ使用量、レスポンスタイムといった従来のインフラ監視だけでは把握しにくい。
調査では、SRE担当者の67%が、現在重視するユースケースとして「AIモデルの監視」を挙げた。また、AIを取り入れたSRE向け機能では、「モデルのパフォーマンスと精度の監視」が58%と最も広く利用されていることが分かった。
SREの仕事が、システムが停止していないかを見るだけでなく、「AIが期待通りの品質で動いているか」を確認する領域まで広がっていることを示唆している。
調査結果からは、SLO(サービスレベル目標)の運用でも課題があることが示された。SRE担当者の89%は、少なくとも一部のチームやシステムでSLOを利用している一方、SREに携わる回答者の半数近くは、監視対象や指標が増え、データも複数のツールに分散しているため、「どの指標を基準にサービスの信頼性を評価するか」を決めにくくなっていると回答した。
AI導入だけでは「MTTR短縮」「コスト削減」につながらない
一方、AIを運用業務に取り入れれば、そのまま運用コストの削減や障害対応の高速化につながるわけではない可能性があることも、調査から分かった。
さらに、AIの導入によってシステムの信頼性や開発者の生産性は向上している一方、運用コストの削減や、障害発生から復旧までにかかる時間の短縮では、期待したほどの効果が得られていないという。
効果の創出を妨げる障壁の1つが、既存ツールとの連携だ。調査によると、プラットフォームエンジニアの37%が、「既存のツールやシステムとの統合」を最大の課題として挙げた。
さらに、「全てのデプロイ段階にオブザーバビリティ機能を組み込んでいる」と回答したプラットフォームエンジニアは40%だった。
つまり、個々の作業にAIツールを追加するだけでは、開発から本番運用までを横断した改善にはつながりにくい可能性がある。AI、監視ツール、自動化基盤などをつなぎ、システム全体として運用する仕組みが必要になっている。
AIを提供するプラットフォーム側にも新たな責任が
AI活用の拡大は、プラットフォームエンジニアの役割も変えている可能性がある。調査によると、プラットフォームエンジニアの55%は、「コーディング支援AIやAIチャットbotなどを開発者が利用できる環境の整備」を優先事項として挙げた。
プラットフォームエンジニアリングに取り組む企業の89%は、IDP(内部開発者プラットフォーム)を導入していることも分かった。そのうち60%は、IDPを複数部門で利用していた。AI活用が広がれば、こうした共通基盤にもAIツールの利用環境の提供やガバナンスを支える役割が求められる。
さらに、SREとプラットフォームエンジニアリングチームの73%は、信頼性とプラットフォームの両領域で連携し、責任を共有しているという。AIが開発基盤から本番運用まで運用スタック全体に影響を及ぼす中、両チームの役割が重なる領域も広がりつつある。
自動化を広げる前に「監視」と「人間の監督」
AIを使った運用自動化が進む一方、AIに処理を任せるほど、その判断や動作が適切かどうかを監視する仕組みも重要になる。
調査では、SRE担当者の半数が、障害発生時の対応を自動化するためにAI搭載機能を利用していると答えた。一方、58%のSRE担当者はAIモデルのパフォーマンスや精度を監視する機能を利用していた。AIに運用作業を任せるだけでなく、そのAI自体が期待通りに動作しているかを確認する必要性も高まりつつあることが分かる。
今後、AIエージェントが運用上の判断や対応を自律的に実行する「エージェント型運用」が広がれば、「どのような操作をAIに任せるのか」「自律的な操作をいつ、どのように実行させるのか」を制御し、人間が監督できる仕組みが必要になる。
Dynatraceは、こうしたAIによる自動運用を支える基盤として、オブザーバビリティの役割が広がるとみている。システムやAIの状態を継続的に把握し、その情報を基に、AIエージェントや自動化機能による操作を実行してよいか判断する。このように、監視データを自動運用の判断材料として利用する仕組みを、同社は「コントロールプレーン」(制御層)と位置付けている。
Dynatraceの最高製品責任者(CPO)スティーブ・タック氏は、企業が「単にシステムを管理する段階から、システム全体を連携させる段階へと移行」していると指摘する。そのためには、オブザーバビリティ、自動化、AIエージェントを接続し、得られたインサイトを実際の運用アクションにつなげる必要があるという。
本稿は、Dynatraceが2026年8月26日に公開した企業のAI活用拡大で運用課題が顕在化 Dynatrace、「SREおよびプラットフォームエンジニアリングの現状(2026年版)」を発表を基に作成しました。
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