狙われるのは大規模施設だけではない
迫る“インフラ崩壊”の危機 米英を相次いで襲った「PLC悪用攻撃」の全貌
重要インフラを構成する運用技術(OT)システムへのサイバー攻撃が、物理的な操業停止を引き起こす現実的な脅威となっている。2026年7月、英国の小規模な発電施設がイランとの関連が疑われるサイバー攻撃を受け、4日間にわたって稼働を停止した。英国政府によれば広域の電力供給に影響はなかったものの、単一施設の停止であってもインフラ全体の脆弱(ぜいじゃく)性を浮き彫りにする事象だ。
トレンドマイクロの研究機関TrendAI Researchの分析は、国家支援型グループによる標的型攻撃の増加を指摘している。英国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)が2026年6月に発表した調査結果では、同組織が過去1年間に観測した重要国家インフラおよび関連エコシステムへのサイバーインシデント200件以上のうち、約75%が敵対国に関連するものだった。
小規模な施設であっても標的となる背景には、制御システムアーキテクチャの構造的な制約がある。現場のIT担当者やセキュリティ担当者は、どのような技術的アプローチで防御を再構築すべきなのか。
正規ソフトウェアを悪用する攻撃の仕組み
併せて読みたいお薦め記事
日本のITエンジニアは何を求めているのか
今回の英国における事案について、TrendAI Researchは過去の攻撃パターンに基づく技術的評価を実施している。2026年8月時点で公式な詳細スペックは未公表であるものの、これまでの産業インフラの傾向を踏まえると、インターネットに公開されたサービスや脆弱な認証情報、設定不備のあるVPNゲートウェイなどが初期アクセスの経路となった可能性が考えられる。
米国でも同様の構造的課題を突いた攻撃が確認されている。2026年7月下旬以降、少なくとも7つの州で上下水道事業者が稼働させるプログラマブルロジックコントローラー(PLC)が標的となった。この攻撃では、IPアドレスやパスワードを強制変更されて制御網から締め出される被害が発生した。
これに先立ち、米連邦機関が共同アドバイザリーで警告していたPLC悪用攻撃では、さらに高度な手口が確認されている。この高度な攻撃では、攻撃者がインターネットに露出したPLCに対し、正規のエンジニアリングソフトウェアと有効な認証情報を用いて接続していた。侵入後は、システムの動作を指示するプロジェクトファイル(制御ロジック)を書き換え、オペレーターが監視するヒューマンマシンインタフェース(HMI)の表示内容を偽装することで、現場担当者が視覚的に異常を検知できない巧妙な状況を作り出していた。なお、米国政府はこれら2つの攻撃の関連性を公式には認定していない。
ポーランドのネットワーク研究機関CERT Polskaが報告した2025年12月のエネルギーインフラへの攻撃事例では、設定に不備があったプライベートAPNが悪用され、ネットワーク内のデバイス間で予期しない相互通信が許可されていたことが侵入経路になった。これらはソフトウェアの未知の不具合を突くものではなく、アクセス制御の欠如やネットワーク構成の甘さというシステムアーキテクチャ上の弱点を突いた手法だ。
境界防御から多層的な権限管理への転換
従来、産業用制御システムは閉域網で稼働する前提で設計されてきた。しかし、リモート保守の導入やIT網との連携によって、意図せずインターネットに露出するデバイスが増加している。攻撃者はスキャンによってこれらの設定不備を容易に特定し、侵入の糸口としている。
現場の担当者が選択すべき合理的な判断軸は、初期侵入を完全に防ぐことだけでなく、侵入後の水平移動(ラテラルムーブメント)をいかに遮断するかにある。まず直ちに取り組むべきは、インターネットに直接公開されているPLCやリモートアクセスゲートウェイなどのOT資産を特定し、論理的な接続状態を可視化することだ。
その上で、外部からのリモートアクセス経路を見直し、多要素認証(MFA)を備えたセキュアなゲートウェイや踏み台ホストを経由する接続に一元化する必要がある。IT網とOT網の間に適切なセグメンテーションを施し、不要な通信ポートや機能を無効化することが不可欠だ。
物理的な制御と論理的な監視の融合
従来のアプローチとの決定的な違いは、ソフトウェア的な防御だけでなく、物理的な制限と運用手順の監視を組み合わせる点にある。
ハードウェアキースイッチを備えるPLCにおいては、保守作業時以外はスイッチを「RUN」モードに固定し、ネットワーク経由でのプログラム変更を物理的に制限する手法が有効だ。ただし、一部の機種ではネットワークコマンドで物理スイッチの状態を上書きできるため、アクセス制御との併用が求められる。
論理的な監視としては、稼働中のプロジェクトファイルを既知の正常な状態(ベースライン)と定期的に比較検証する体制が必要となる。共有・再利用されるコードモジュールに不正な改ざんが加えられた場合、それを呼び出す全てのプロセスに影響が及ぶためだ。ファイアウォールや侵入検出システムのログを収集し、企業のITシステムとOT網を横断して通信記録を分析する仕組みを構築することが、異常の早期発見につながる。
今後の展望と運用上の留意点
重要インフラにおけるセキュリティ対策は、コンプライアンス要件を満たすことにとどまらず、継続的な業務継続性を確保する段階へと移行している。
不測の事態に備え、ネットワークから分離された安全な物理媒体に構成データのバックアップを保持し、復元作業のテストを定期的に実施しておくことが推奨される。システムが完全に機能を失った場合に備え、手動運転への切り替え手順を訓練し、フェイルセーフ機構が実稼働状態で機能することを確認しておくことも重要だ。
組織のシステム選定においては、管理画面を初期設定でインターネットに公開しない製品を出荷し、追加費用なしで基本的な保護機能を提供するベンダーを選ぶ「Secure by Demand」の原則を調達の必須条件とすべきだ。一度の設定で満足するのではなく、外部からの到達可能性やセグメンテーションの有効性を継続的に検証する体制の構築こそが、重要インフラを保護するための核心となる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
TechTarget ニュースプラス
国内のIT業界ニュースを迅速に報道します。企業動向から導入事例、市場トレンドまで幅広く取り上げ、実務に直結する情報をタイムリーに提供する連載です。
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
インシデント発生後に最も重要な「最初の48時間」 どう乗り切る? -
製品資料
急激なデジタル化の裏で増大するデバイスのリスク 東急建設はどう対処した? -
製品資料
「フロンティアAI」実践解説:セキュリティ対応に向けた5つのステップ -
製品資料
WSUS非推奨化でさらに混迷 複雑化するサーバ環境の運用負荷をどう解消する? -
市場調査・トレンド
数百万台規模のデータで判明、企業のIT環境に潜む「見えない課題」とは
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
2
ISMSの“コンサル丸投げ”が招く数千万円の無駄 NTTドコモビジネスの脱出劇
-
3
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
4
AIインフラの理想形? 「5層のケーキ」を垂直統合するための近道とは
-
5
IBM iのブラックボックス化を打破 資産継承と進化を実現する「IBM Bob」の実力
-
6
VMware離れを食い止めるか? 今「VCF 9.1」が再評価される理由
-
7
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
8
「即戦力」は幻想? 中途の3割が消えるAI時代のエンジニア生存戦略
-
9
同じ攻撃で明暗 CISAの侵入テストで見えた「機能するSOC」3つの鉄則
-
10
「技術屋」で終わらないために 情シスが今取るべき認定資格5選
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
2
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
-
3
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
4
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
7
「結局、一部の人しか使わない」 AI活用が業務に定着しない根本的な理由
-
8
AIエージェントで成果は出る? 調査結果に見る費用対効果の実態
-
9
PostgreSQLの「機能」「性能」「運用」「拡張性」に関する悩みの解消法
-
10
ゼロトラストにおける「IDaaSの課題」と補完すべき重要機能とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー