AIエージェントを支える“ハーネス”の正体
「GPTかClaudeか」だけでは不十分 AI選定で情シスが見るべき3つの仕組み
IBMのマーティン・キーン氏は、AIエージェントの能力は「エージェンティックハーネス」に左右されると説明する。エージェンティックハーネスとは何か。
生成AIやAIエージェントを選定するとき、「どのAIモデルを使っているのか」を比較する企業は少なくないだろう。しかし、AIエージェントの実力は、基盤となるAIモデルだけでは決まらない。
同じAIモデルを使っていても、ある製品は単純な質問への回答しかできない一方、別の製品はファイルを読み書きし、コードを実行し、長時間にわたって一連の作業を進められる場合がある。
この違いを生むのが、AIモデルを取り巻く「agentic harness」(エージェンティックハーネス)だ。AIエージェントの導入を担当する情報システム(情シス)部門担当者であれば、モデルの性能だけでなく、その周囲にどのような仕組みが備わっているのかを見る必要がある。IBMのマーティン・キーン氏(マネジャー兼IBMテクニカルトレーニングコンテンツクリエイター)は、AIモデルとエージェンティックハーネスの違いを解説し、AIエージェントの能力を見極めるには両者を分けて考える必要があると指摘する。では、エージェンティックハーネスはAIエージェントの動作をどのように変えるのか。
エージェンティックハーネスはAIエージェントにどう関わっている?
AIモデルそのものは、単独ではファイルを開いたり、コードを実行したり、Webから情報を取得したりできるわけではない。キーン氏はこうした状態を「瓶の中の脳」に例えている。モデル自体には推論能力があっても、外部環境へ働き掛ける仕組みがなければ、できることは限られるという趣旨だ。
そこで必要になるのがエージェンティックハーネスだ。キーン氏はAIエージェントを、大きくAIモデルとエージェンティックハーネスの組み合わせだと説明する。エージェンティックハーネスには、モデルが利用するツールや記憶の仕組み、繰り返し処理を実行するためのループ、何を許可するかといったルールが含まれる。
つまり、AIエージェントの能力を比較する場合、「頭脳」に相当するモデルだけを見るのでは不十分ということだ。
情シスが見るべき3つの仕組み
キーン氏は、エージェンティックハーネスを構成する主な要素として「ツール」「メモリ」「エージェンティックループ」の3つを挙げている。
ツール
AIモデルにツールを与えることで、ファイルの読み書きやコードの実行、Webからの情報取得が可能になる。
さらに、端末上にあるソフトウェアをコマンドラインから操作したり、「MCP」(Model Context Protocol)を利用して企業データベースや外部サービスと接続したりすることもできる。
情シスがAIエージェントを比較する際には、単に「生成AIが使えるか」ではなく、どのシステムやデータに接続し、どのような操作まで実行できるのかを見る必要がある。
メモリ
AIモデルには、1回の処理で参照できる情報量に限界がある。そこでエージェンティックハーネスは、プロジェクトごとの指示を保持したり、会話が長くなった場合に過去の内容を要約したりする。大量のコードや文書を全て一度にAIモデルへ渡すのではなく、必要な情報だけを検索して取り込む仕組みも使われる。
この仕組みの違いは、長時間の作業や大量の社内情報を扱う際の動作に影響する。
「回答するAI」と「仕事を進めるAI」の違い
エージェンティックループ
チャット型AIツールでは、ユーザーが質問し、AIが回答すれば1回のやりとりは終わる。一方、AIエージェントでは、モデルが目標を達成するための次の行動を決め、エージェンティックハーネスが実際に処理を実行する。その結果をモデルが確認し、次の行動を決める。このサイクルを繰り返す。
例えば、ソフトウェア開発では「コードを書く」で終わらず、コードを実行し、テスト結果を確認し、問題があれば修正するといった処理を繰り返せる。
キーン氏によると、エージェンティックハーネスの中には、処理の途中でテストを実行したり、作成した画面のスクリーンショットを確認したり、別のAIモデルにレビューさせたりする仕組みを持つものもあるという。こうした検証を繰り返すことで、AIエージェントは比較的長いタスクを継続して実行できるようになる。
「GPTかClaudeか」だけでは製品を比較できない
AI製品の比較では、基盤モデルの名称に目が行きやすい。しかしキーン氏は、上位AIモデル同士の性能差が縮まりつつある中、AI製品間で明確な使い勝手や能力の違いが生じる理由は、モデルそのものだけではなく、その周囲の仕組みにあると説明する。
例えば同じモデルを採用していたとしても、一方は社内ファイルを検索できるが、もう一方はできないかもしれない。一方は外部サービスを操作できても、もう一方は回答を生成するだけかもしれない。
長時間の作業を進めるためのメモリ管理や、処理結果を確認してやり直す仕組みが異なれば、最終的な成果にも差が出る。
そのため、「この製品はどのAIモデルを採用しているのか」という質問だけでは、AIエージェントの実力を判断しにくい。
AIモデル自体の性能向上は今後も続くだろう。しかし、AIエージェントを企業で利用する際の能力は、モデルだけでは決まらない。そこでキーン氏が指摘するように、「このAIはどのタスクが得意か」と問うだけではなく、「どのモデルを、どのエージェンティックハーネスと組み合わせて使うのか」まで考える必要がある。
本稿は、IBM Technologyが2026年8月25日に公開したAI Model vs Agentic Harness: What Actually Drives AIを基に作成しました。
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