研修やルール整備にも限界がある
67%が「手動起動」に依存? AI活用を阻む“自律運営の壁”
企業のAIツール活用が進む一方で、業務プロセスの大半が人の手作業に依存している実態が明らかになった。手動起動から脱却し、組織全体の生産性を高めるにはどうすればよいのか。
企業におけるAIツールの導入は進展し、情報収集や資料作成などさまざまな業務で利用されている。しかし、AIツールが業務プロセスに組み込まれ、継続的に機能するための運営構造には課題が残されている。
AIツールを用いた業務プロセスの設計を支援するMerは2026年6月、従業員100人以上の企業においてAIツールを業務で活用する責任者および担当者548人を対象に実態調査を実施した。調査によると、AIツールを利用するきっかけとして、人がチャット画面に指示を入力するといった手作業での起動が67.1%を占める。スケジュールや業務システムの変化に伴う自動起動は29.3%にとどまり、AI活用の大半が人の操作に依存している実態が明らかになった。AIツールが読み込むべき顧客情報などの社内データが整備されていないという回答は50.7%に達した。
AIツールの用途は広がっているものの、手作業を前提とした運用では組織全体の生産性向上には結び付きにくい。現状の構造的制約を打破し、AIツールを業務フローに組み込むためにはどのようなアプローチが必要なのか。
課題の構造的要因と自律運営の壁
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業務でAIツールを使いこなすには
AIツールが業務内で自律的に機能するためには、「起動」「接続」「反映」「ログ」という4つの要件を満たす必要がある。しかし調査結果からは、これらが十分に整備されていない実態が明確になっている。
社内で最も進んだ本番運用においても、「定型プロンプトで入力を効率化しているが、起動や処理は人が実施する」との回答が32.7%で最多を占めた。例外事象を除いて処理とシステム反映を完全に自動化している割合は、わずか2.9%にとどまる。日常的な運用でも、AIツールの出力結果を業務システムに自動反映できる割合は27.2%であり、67.4%の企業では、出力を参考に手作業で作成したりコピー/転記したりするなど、人の手作業が発生している。
人が都度起動する任意トリガーに依存する運用は、個人単位の作業効率化には寄与するものの、組織全体への展開には壁がある。プロンプト作成スキルによる品質のばらつき、別ツールでの作業に伴う手戻り、利用状況が共有されないことによる展開の停滞だ。AIツールをいつ、どの業務で使うかの判断がルール化されず、個人の裁量に委ねられている点も大きい。推奨される判断基準はあるものの、最終判断を個人に委ねている企業は51.1%に上る。業務手順に組み込まれている割合は23.5%に過ぎず、条件等によって自動起動する仕組みを構築している企業は3.6%にとどまっている。
データ品質と統制の空白
この背景には、AIツールが処理の前提とするデータの品質問題が存在する。回答者の50.7%が、自社の顧客情報や案件情報について「重複や欠損があり、整備されていない」と認識している。構造化されていないデータや表記揺れを含むデータでは、AIツールが正確に情報を読み取れず、出力結果をシステムに書き戻すことも困難になる。自律的な運用の基盤となるデータ整備の遅れが、接続と反映の自動化を阻む要因になっている。
こうした個人依存の運用は、利用状況の不透明化というリスクを生む。AIツールの利用履歴を組織横断で追跡できる企業は13.0%にとどまり、事業指標と結び付けて成果を把握している割合も14.8%に過ぎない。成果の測定が困難な状況は、継続的な業務フローの改善を妨げる。
統制の空白はセキュリティ上の懸念にも直結する。企業が把握し切れないシャドーAIの利用について、80.5%の回答者が課題だと認識している。しかし、実施されている対策は個人利用の禁止やルールの明文化、研修などに偏っており、システムによる技術的な統制には至っていない。人の手作業に依存する限り、統制を業務フローへ組み込むことは難しいのが実情だ。
業務起点の設計と自動化への転換
課題を解決するためには、AI活用の起点を人から業務フローへと転換するアプローチが求められる。海外の先進的な企業では、自動起動、ツールへの自動接続、適切なレベルでの人による確認、確信度の低い事象の例外処理という4要素を組み合わせた運営モデルが構築されている。
具体的には、業務システムにおけるイベントや特定のステータス変化、決められたスケジュールをトリガーとしてAIツールを起動させる。その際、表面的な情報を渡すのではなく、iPaaS(Integration Platform as a Service)をコントロールプレーンとして活用し、CRM(顧客関係管理)システムや社内ツールと連携させて過去の対処履歴や文脈をAIツールに提供する。AIツールは全ての処理を担うわけではなく、意味理解や文章作成、仮説構築に特化する。一方、実行の分岐、データの整形、エラー時の再実行といった固定的な処理はワークフローで制御する。これによって、個人ごとのプロンプトスキルへの依存を減らし、組織全体での再現性を高めることが可能になる。
出力結果を人間が確認、修正した上で業務データとして蓄積することで、次回の処理精度を向上させる学習ループが形成される。このようなシステム的な仕組みを整えることによって、ガバナンスも事後的なルールではなく、承認必須フローやアクセス権限制御として業務プロセスの中に自然に組み込まれる。
ツール導入から「AIが働く場所」の構築へ
多くの企業でAIツールへの投資意欲は高く、67.2%が今後1年以内に投資を拡大すると回答している。しかし、その投資対象の大半は従業員向けの研修や教育(48.9%)、利用ガイドラインやルールの整備(48.7%)、AIツールやライセンスの導入(33.9%)など、AIツールの利用体制を整えるための領域に集中している。
対照的に、業務システム同士の連携や業務フロー、起動条件の再設計へ投資している企業は18.4%、利用ログや承認・例外フローの設計に投資している企業は11.3%にとどまっている。人間がAIツールを利用する段階から、AIツールが業務プロセスの中で自動的に機能する場所を作る段階への移行が遅れていることが、この投資領域の偏りに表れている。
AIツールを組織の生産性向上に直結させるには、単にツールを導入して従業員の利用を促すだけでは限界がある。まずは自社の業務フローを棚卸しし、前提となるデータ管理システムを整備することが求められる。その上で、iPaaSを活用して業務の各工程にAI・ツールを適切に配置し、人間とAIツールの役割を明確に分担する運営構造の設計が不可欠だ。人間がAIツールを手動で起動したり転記したりする作業から解放され、例外対応や戦略的な判断業務に専念できる自律運営体制を構築することが、今後の企業競争力を左右する重要な分岐点になる。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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