焦って買いだめするのは危険
止まらないSSDとメモリの高騰 買い足さずに危機を乗り切る方法は?
AIインフラへの投資増大によってメモリとSSDの価格が上昇している。焦ってストレージを買いだめすると、将来的な損失を招きかねない。高騰が起きるメカニズムと、危機を乗り切るための対策を紹介する。
メモリとSSDの価格は、ここ数年見られなかった水準で推移している。2024、2025年ごろにシステムを導入し、2026年中のメモリやストレージの増強を計画していたIT管理者は、メモリやストレージの深刻な供給不足に伴う価格高騰に直面している。計画通りに実行するには費用がかさみ過ぎる状況だ。新しいサーバを導入するにしても、必要最小限のメモリとストレージだけを搭載しなければ、採算が合わなくなっている。
なぜこのような事態に陥ったのか。IT管理者はこの難局にどう立ち向かえばよいのだろうか。価格高騰の背景にある要因を解き明かし、課題を乗り越えるための方法を解説する。
なぜメモリとSSDの価格が急騰し続けているのか
昨今はどの企業もAI技術に関心を寄せている。この動きを受け、大規模なデータセンターを運営する巨大IT企業(ハイパースケーラー)各社は、AI計算処理向けのシステムに巨額の資金を投じる方針にかじを切った。
その投資規模はどの程度なのか。半導体市場の調査を専門とするデータ分析企業Objective Analysisが、大手ITベンダーの公表決算データを集計したところ、Alibaba、Alphabet、Amazon.com、Apple、Microsoft、Meta Platformsによる設備投資額は、2026年第1四半期(1~3月)だけで実に合計1370億ドル(約20兆円)に達した。過去の同時期と比較すると、各社の合計投資額は、2025年第1四半期が830億ドル、2024年第1四半期は510億ドルにとどまっていた。
以下の図は、その投資額の推移を示したものだ。2024年を境に、グラフの上昇カーブが跳ね上がっている。
本来、半導体メーカーはかなり前から生産能力を計画しておかなければならない。新しい半導体製造工場(ファブ)を建設し、本格的な量産体制に乗せるには最低でも2年はかかるためだ。しかし、ハイパースケーラーがこれほどまでにAI技術に投資するという確かな見通しは、半導体メーカーには共有されていなかった。需要の急激な高まりを受けて新たなファブの建設が進んでいるものの、本格的な稼働には至っていない。
その一方で、ハイパースケーラーは矢継ぎ早に投資を拡大させている。ある四半期に立てた需要予測が、次の四半期には使い物にならなくなるほどのスピードだ。これから完成するファブでは、到底この猛烈なペースに追い付けない。
その結果としてSSDの供給が不足し、企業向けストレージの導入費用は極端に高騰した。同じように、データセンター用メモリの価格もはね上がっている。メモリとSSDの価格は依然として上昇傾向にあり、あらゆる企業のIT管理者に重い負担を強いている。
供給不足とAI需要が費用を押し上げる
なぜこれほどまでに価格が高騰するのか。その根本的な理由は、DRAMとNANDフラッシュメモリのどちらのメモリチップも、コモディティ(日用品のように一般化した製品)だからだ。
最先端の技術が詰まったメモリチップが、コメや石油、アルミニウムといったありふれた日用品と同じ扱いを受けることに、違和感を覚える人もいるだろう。しかし実際には、複数の調達先から購入できる品物は全てコモディティだと言える。特定のメーカーにこだわりがなければ、購入を決める最大の要因は価格となる。誰もが最も安い半導体メーカーから部品を調達しようとするわけだ。
市場に出回る製品が均質化している背景には、米国の電子部品関連の標準化団体であるJEDECの存在がある。JEDECは自社ブランドで機器を販売するOEM企業と半導体メーカーを集め、誰もが製造・利用できる標準仕様を取り決めた。JEDECの仕様を満たしてさえいれば、どの半導体メーカーが製造したチップであっても同じように扱うことができる。OEM企業は、特定の部品で単一の供給元に依存する事態を避けるため、規格外のチップは購入しないのが一般的だ。仮に単一の供給元で地震や火災、ストライキなどのトラブルが発生した場合、自社製品を組み立てられなくなる「ラインダウン」(製造ラインの停止)に陥るリスクがあるためだ。
この市場の仕組みがどのように価格高騰を引き起こすのか、順を追って説明する。ある部品を製造する半導体メーカーが3社あり、そのうち1社が他社よりも安く販売していると仮定する。需要が急増すると、安いメーカーの製品はたちまち売り切れ、あふれた注文は残りのメーカーに流れる。残りのメーカーはこれを絶好の機会と捉え、強気の姿勢で交渉に臨む。供給不足に悩むOEM企業は、製造ラインの停止を避けるため、割高な価格を受け入れざるを得ない。このとき、もし他社より少しでも安く売るメーカーが現れれば、その製品もすぐに品切れになる。まるでドミノ倒しのような連鎖反応だ。
この事態から学習した半導体メーカー各社は、品切れを防ぐために、次回の取引に向けて一斉に価格を引き上げる。それでも売り切れるならば、さらに値上げを繰り返す。このスパイラルは、顧客がビジネスを継続できなくなるか、別の手段を探さざるを得なくなる水準まで価格が高騰しない限り止まらない。別の手段とは、例えばメモリ容量の大きさを製品の売り文句にするのを諦めることなどだ。今のところこうした動きは目立たないため、価格は当面の間、上昇を続ける公算が大きい。
メモリとSSDの価格はいつ下落するのか
このような状況もいつかは終わりを迎えるが、時期を正確に見通すのは至難の業だ。価格の上昇を食い止め、下落に転じさせるきっかけとしては、以下の2つが考えられる。
- 半導体メーカーが生産能力を増強し、需要に追い付く
- 需要が減少し、半導体メーカーの生産能力と釣り合う水準に落ち着く
これが世に言う「需給バランス」だ。
ハイパースケーラーの設備投資額は上方修正を繰り返しており、半導体メーカーが今後数年以内に需要を満たすほどの生産設備を追加できる見込みは薄い。一方で歴史を振り返ると、数年以内に需要の伸びが鈍化する可能性は十分に残されている。
1990年代後半のインターネットバブルを振り返ると、よく似た構図が見えてくる。インターネットが登場した当初、人々はそれが世界を変革する新技術だと確信した。これはまさに、今日のAI技術に向けられている期待と同じだ。道案内やWeb会議、情報検索からオンデマンドの動画配信まで、われわれの生活がいかにインターネットに依存しているかを想像してほしい。しかし1999年頃には通信インフラへの投資が実需を大きく上回って過剰になり、2000年の投資縮小につながった。そしてこれが、その後のITバブル崩壊を招く引き金の一つとなったのだ。
当時のITバブル崩壊時、有識者は過去に似た事例がないかどうか歴史をさかのぼった。そこには、新しいインフラ技術に対する過剰な投資が最終的に需要を上回り、市場の暴落を招いた教訓が残されていた。19世紀後半のアメリカにおける鉄道ブームとその後の恐慌も、設備が過剰に建設された結果、企業が連鎖倒産に追い込まれた典型例だ。
Objective Analysisは、AI分野でも同じような歴史の周期が訪れ、巨額の投資がやがて供給過剰を招くと予測する。投資家が資金をつぎ込むペースを落とし、需要が供給を下回る転換点に達すれば、価格は暴落するはずだ。問題はそれがいつ起きるかだが、正確な時期を知るすべはない。
ストレージを購入する最適なタイミング
IT管理者は最適な調達判断をするためにどう動くべきなのか。一筋縄ではいかない時期が続きそうだ。
まず絶対に避けるべきなのは、将来的な品不足を恐れるあまり、必要以上の機材を買いだめしてしまうことだ。こうした焦りに任せた決断は無駄な余剰在庫を生み出し、ひとたび市場価格が崩壊し始めれば、資産価値は目も当てられない速さで下落する。その価値の目減りは、企業の最終利益を直撃し、赤字要因になりかねない。
より堅実なアプローチは、手持ちのストレージを限界まで使い倒せるよう、ストレージ管理ソフトウェアに資金を投じることだ。既存の記憶領域をうまく管理するだけで、劇的な改善効果をもたらすツールも存在する。
すでにあるストレージを有効活用する別の手段が、データの重複排除だ。これもソフトウェアだけで完結する手法でありながら、大きな空き容量を生み出す可能性がある。
極めてシンプルかつ即効性のある選択肢としては、データの保管ポリシーを新たに策定するか、既存のルールを厳格に運用することだ。企業はコンプライアンス(法令順守)や情報漏えい対策の観点から、不要になったデータをいつまでも保持しておくわけにはいかない。そのため、不要データを整理してストレージ容量を空けることは、リスク軽減と費用抑制を兼ねた合理的な一時措置になる。
SSDの費用高騰を相殺する戦略
手持ちのストレージでしのぐ方法を模索したものの、どうしてもシステムの増強を先送りできない企業もあるはずだ。その場合、どのような選択肢が残されているだろうか。
海外の先進的な企業で採用されているアプローチの一つに、古いドライブを回収して、専用ソフトウェアで機密データを安全に消去した上で売却し、その資金を大容量ドライブの購入に充てる手法がある。機器廃棄時にドライブを物理破壊する方法を主に採用している企業では、セキュリティに厳しい経営層からは難色を示される可能性がある。しかし、信頼性の高いデータ消去ツールは複数存在し、深刻な品不足を背景に中古機器の需要も高まっているため、売却益で調達費用を相殺するという選択は理にかなっている。
ここで重要になるのは、システムの増強を数年に一度の大規模な調達イベントとしてではなく、小刻みで段階的な改善プロセスとして捉え直すことだ。この方針に切り替えると、ストレージ調達に伴う社内手続きの手間は増えるだろう。しかし、価格が暴落する直前に大量のストレージを購入して多額の資金を無駄にする事態は回避できるはずだ。
競合他社も同じ苦境に立たされているため、必要以上に悲観することはない。これからの時代、企業がIT分野の投資で成功するか失敗するかの分かれ目は、今あるストレージのポテンシャルを極限まで引き出し、価格がピークに達している時期の過剰な買い込みを避けるために、どれだけ知恵を絞り、労力を注げるかにかかっている。
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