PC出荷が9四半期ぶりに減少に転じた背景には、2028年まで解消しない深刻なメモリ不足がある。高騰する単価と大手の供給網独占により、情シスの調達戦略は破綻しかねない。今、備えるべきリスクを徹底解剖する。
「来期のPCリプレース、予算通りにはいかないかもしれません」。情シスの現場で今、静かに確実に忍び寄っているのは、単なるデバイスの陳腐化ではなく「調達そのものの崩壊」という危機だ。2024年から続いていたPC市場の成長が、ついに力尽きた。
その元凶は、2028年まで解消の見込みがないという深刻なメモリ不足にある。なぜ今、単なるスペック比較ではなく「供給網の安定性」でベンダーを選び直さなければならないのか、その冷徹な理由が明らかになる。台数は減っているのに価格だけが吊り上がる「いびつな市場」で、情シスが握るべき防衛策を提示する。
米IDCが2026年7月8日(現地時間)に発表した2026年第2四半期(4〜6月)の世界PC出荷統計によると、総出荷台数は前年同期比4.9%減の6820万台となった。これは、9四半期にわたって続いていた成長が途絶えたことを意味する。市場を冷え込ませているのはメモリチップの供給不足だ。
メモリ不足により、PCベンダーは可能な限り在庫を前倒しで確保せざるを得ない状況に追い込まれている。IDCのコンシューマーデバイス担当リサーチディレクター、ジテシュ・ウブラニ氏は「今回の調査で浮き彫りになったのは、出荷台数と売上金額の乖離(かいり)だ」と指摘する。「出荷台数は減少しているが、需要の減少を上回るスピードでベンダーが値上げを断行しているため、収益はむしろ増加している」という。
メモリの供給難は2028年初頭まで緩和されない見通しだ。マクロ経済の悪化も相まって、2026年後半には成長率がさらに急減速する可能性がある。ベンダー各社は2027年に向けてさらなる価格引き上げを準備しており、流通チャネル側でも高値で積み上がる在庫への懸念が強まっている。
深刻なコスト圧力が続く中、PC市場では「弱肉強食」の構造が一段と鮮明になっている。メモリ不足という足かせがある中で、オンデバイスAI処理(AI PC)への期待が高まっていることが事態を複雑にしている。クラウドコンピューティングのコスト上昇を背景にローカルでのAI処理ニーズは増大しているが、デバイス価格の高止まりがPCの更新サイクルを鈍らせるリスクが生じている。
こうした中、Apple、Dell、Lenovoといった大手ベンダーは、スマートフォンやサーバなど他事業を含めた購買力を背景に、メモリ供給の優先枠を確保している。IDCのコンシューマーデバイス担当バイスプレジデント、ジャン・フィリップ・ブシャール氏は「市場環境が悪化するほど、サプライチェーンの管理能力が重要になる」と分析する。
大手ベンダーは仕入れ価格の交渉力やサプライヤーとの長年の信頼関係を武器に、中小ベンダーから市場シェアを奪いつつある。特にAppleは、新製品「MacBook Neo」の投入時期と重なりシェアを伸ばした。同社も値上げを実施しているが、競合他社と同じコスト圧力を受けながらも相対的に優位なポジションを維持している。
日本の情シスにとって、これは単なる海外の統計ではない。2028年まで続くメモリ不足は、調達コストの高止まりと納期遅延が「常態化」することを意味する。予算獲得で「デバイス価格は今後も上がる」という前提を経営層に共有し、特定のベンダーに依存しすぎない、あるいは供給力のある大手との関係を強化するといった、実務的な防衛策を今すぐ再確認すべき局面にある。
IDCが世界90カ国以上で収集した市場データに基づき、デスクトップ、ノートPC、ワークステーションを対象に集計。タブレットやx86サーバは含まない。
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