レアアース高騰が直撃 サーバ調達を頓挫させる「予算崩壊」の足音市場の乱高下がIT予算に与える影響【前編】

レアアースの高騰や暗号資産の暴落など、市場の激しい価格変動がハードウェアの供給網を揺さぶっている。予測不能な事態において、CIOが直面する“板挟み”の正体とは。

2026年03月06日 05時00分 公開
[Sean Michael KernerTechTarget]

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 ITインフラの計画立案において、これまで価格の不確実性をある程度許容することは必要だった。しかし、2026年前半の不確実性は、大半の企業がこれまで経験したことのない領域に達している。

 2026年に入り、ハードウェアのサプライチェーンの裏側では、極端かつ相反する価格変動が同時に進行している。暗号資産であるビットコインの価格は下落し、同年2月には7万ドルを割り込んだ。銀の価格は同年1月30日から31日(米国東部時間)にかけて約31%下落し、1日の下落幅としては1980年以来の記録となった。金の価格も急落する一方で、ネオジムのようなレアアースの価格は2025年から2026年の1年間で約88%上昇し、重希土類であるジスプロシウムに至っては2026年1月から2月の間で105%も急騰した。

 ハードウェアの予算を編成したり、ベンダーの安定性を評価したりするIT部門にとって、こうした相反する値動きは計画を立てる上での根本的な課題になる。予算超過の危機はもちろん、利益率の悪化に耐え切れなくなった下流の製造業者やサプライヤーが突然倒産し、進行中のプロジェクトが完全にストップする「供給断絶」の恐怖がすぐそこまで迫っている。ITインフラを支える原材料の価格が、それぞれ全く異なる要因で変動しているため、従来の手法による予測は当てにならない。

相反する価格変動が招く「絶望的な板挟み」

 ビットコイン価格の下落は、暗号資産市場全体の混乱を反映している。2026年1月のある1日だけで、米国の伝統的な金融市場で取引されているビットコインやイーサリアムの現物ETF(上場投資信託)から約10億ドルの資金が流出した。金と銀の価格の急落は、投機的な高騰からの利益確定売りによって起こった。レアアースの価格が上昇しているのは、2025年4月に中国がレアアースの輸出規制を強化し、サプライチェーンの制約が続いているためだ。それぞれの市場は異なる要因で変動しているが、この3つ全てが、同じハードウェアの調達決定に影響を及ぼす。

 サプライチェーンリスク管理ツールベンダーAPEX AnalytixのCIO(最高情報責任者)を務めるビシャル・グローバー氏は、次のように語る。「これほどの価格変動は、ハードウェアの調達が関税や地政学的要因、サプライヤーの業務停止といった広範なリスクの力学といかに密接に関連しているかを浮き彫りにしている。もはや固定的な予測には頼れない」

 レアアースは、さまざまな理由からITインフラにとって不可欠な要素だ。

 ブロックチェーン技術ベンダーZIGChainの共同創業者であるアブドゥル・ラフェイ・ガディット氏は、「レアアースが重要なのは、HDDの磁石や冷却システムのモーターなど、物理インフラの奥深くに組み込まれているからだ」と説明する。「最近の価格変動は構造的な供給不足を示しており、供給の遅れや輸出許可の厳格化がすでにベンダーの行動を変えつつある」とガディット氏は指摘する。

 国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)など専門機関の2023〜2024年のデータによると、中国は世界のレアアース採掘の約70%、精製能力の約85%、磁石製造の約90%を握っている。2025年4月に中国政府が厳格な許可制度を導入した際、信用格付け企業S&P Globalはレアアースの供給途絶を「2026年の主要なリスク」に挙げた。レアアースの価格上昇は投機ではなく現実を反映している。ネオジムの価格が高騰したのは、供給が制限されている一方で、AI(人工知能)インフラや電気自動車(EV)、データセンターの拡張による需要が加速し続けているからだ。

 銀の動向も注視すべきだ。銀価格は2026年1月30日から31日(米国東部時間)にかけておよそ31%暴落したが、年初来では依然として上昇傾向にある。銀は電子部品や半導体の周辺部品、データセンターに電力を供給するソーラーパネル、EVの部品に不可欠な素材だ。レアアースとは異なり、銀は工業用の原材料であると同時に、有事における「資金の避難先」となる金融の安全資産という役割も持つ。そうした特性が、価格の推移をさらに予測困難なものにしている。

 これに暗号資産の暴落が加わると、状況はさらに複雑になる。上昇する費用もあれば下落する費用もあり、どちらの傾向も予算計画の頭痛の種だ。調達チームは、同じハードウェアの注文に対して、価格上昇と下落の圧力を同時に受けることになる。

 暗号資産の採掘とAIモデルの推論は、どちらも膨大な計算処理を伴うため、GPU(グラフィックス処理ユニット)が中核的なハードウェアとして使われる。分散型クラウドインフラを提供するInFlux Technologiesで、CEO兼共同創業者を務めるダニエル・ケラー氏は、「暗号資産採掘の需要が落ち着けば、AIモデルの推論用にハードウェアが解放され、GPUを手頃な価格で調達できるようになる可能性がある」と述べる。ただし同時に、レアアースの高騰によってベンダーが代替素材の調達を迫られ、データセンターの運用費自体は増加するともケラー氏は見込む。

ベンダーとサプライチェーンのリスク

 極端な価格変動は部品の費用に影響を与えるだけではなく、企業が自社のシステムを任せているベンダーの経営も不安定にする。

サプライヤーへの圧力

 レアアースが高騰すると、サプライチェーン上流の採掘事業者は利益を得るが、ハードウェアを組み立てる下流の製造業者や加工業者は利益率の低下に直面する。貴金属が暴落すると、在庫を抱える精製業者や専門加工業者が突然の損失を被る可能性がある。どちらのシナリオも企業にリスクを与えかねない。

企業の集約と倒産のリスク

 価格変動は、利益率の低い中小の製造業者や加工業者に圧力をかける。持ちこたえられない企業は買収されたり、閉鎖したり、市場から完全に撤退したりすることになる。その結果、取引先が減り、生き残ったサプライヤーへの依存度が高まる。

地理的な集中

 2025年4月に中国がレアアースの輸出規制を強化した際、同年6月に欧州自動車部品工業会(CLEPA)は在庫枯渇による生産ライン停止の危機を警告した。同じリスクがITハードウェアのサプライチェーンにも懸念されている。価格変動によって「脱中国」を担うはずだった欧米のサプライヤーが倒産や撤退に追い込まれれば、中国のような特定の国への依存度が下がるどころか高まってしまう。

節約よりも安定性を重視

 目先の見積もりの安さよりも、ベンダーの経営体力や供給網の強さの方がはるかに重要だ。今、最も安い価格を提示している企業が、次の四半期まで生き残っているとは限らない。

企業における暗号資産の保有リスク

 ほとんどの企業は暗号資産を直接保有しておらず、大半のCIOは自社には暗号資産に関するリスクはないと考えている。しかし、それは必ずしも正確ではない。暗号資産との間接的な接点は、CIOが常に注意深く調べているとは限らない以下の場所に現れる。

  • ステーブルコイン(法定通貨や現物資産と連動するように価格が設定された暗号資産)で取引を決済する、フィンテック(金融とIT)分野のパートナー企業
  • ブロックチェーンの送金システムを備えた決済サービス
  • デジタル資産を保管、移動するためのインフラを提供するクラウドベンダー
  • トークンのやりとりを前提としたブロックチェーンの試験プロジェクト

 暗号資産の価格が下落すると、こうした目に見えないリスクの火種が危機にさらされる。暗号資産ビジネスで利益を出しているベンダーは圧力を受ける。ブロックチェーン技術への投資は減速する。厳格な基準に基づき、企業の役員会や規制当局は「なぜ事前にリスクを把握できなかったのか」とCIOへの監視を強める。

 「暗号資産のリスクは、自社で投資して損をする財務問題ではなく、取引先を介して業務が止まる問題として扱うべきだ。自社がトークンを持っていなくても、決済サービスを担うサードパーティーに間接的なリスクが存在する場合がある」(ガディット氏)

 自社で暗号資産の購入を一切承認していなかったとしても、資金繰りに苦しむフィンテック企業や、暗号資産関連サービスを縮小するクラウドベンダーの影響で、自社の業務が混乱に陥る可能性にも注意が必要だ。

 暗号資産の激しい値動きは、企業にとってリスクとなる一方で、潜在的な恩恵をもたらすこともある。価格の暴落によって暗号資産の採掘の収益性が低下すれば、GPUの処理能力をAIモデルの推論などのワークロード(処理負荷)に振り分けられるようになるからだ。「演算能力の制約は、転用されたGPUや待機中のシステムを有効活用する機会を生み出す」とケラー氏は話す。

予算計画と資本の配分

 これまでIT分野の予算策定は、ある程度予測可能な価格変動のパターンを前提としてきた。レアアースの価格は需要予測に基づいて変動する。工業金属は鉱工業生産に連動する。暗号資産は独自の周期で動く。これらの市場が同時に逆方向に動いた場合、従来の予測手法は当てにならなくなるのだ。

 レアアースが高騰し、銀が暴落し、暗号資産が下落するという事態が数週間のうちに重なり、それらが全て同じハードウェアの予算計画に影響を与えると、CIOは以下の相反する圧力に直面する。

  • 一部の部品における短期的な費用軽減の可能性
    • 暗号資産の採掘から解放されたGPU、貴金属価格の下落など。
  • 調達可能性と技術革新に関する長期的な不確実性
    • レアアースの供給制限、ベンダーの不安定性など。
  • 予算を投じるよりも「様子を見る」ようCFO(最高財務責任者)から受ける圧力

 市場がどれほど予測不能であっても、社内の財務部門は、ハードウェアの刷新、データセンターの構築、インフラ拡張の想定費用をIT部門に求めてくる。グローバー氏は、「今日の状況で正確な予測を出すことは非現実的だ」と語る一方、「だからといって無計画な予算策定が許されるわけではない」とくぎを刺す。

 「CIOとCFOは、単一の予測からリスクを考慮したシナリオプランニングに移行し、最新のサプライヤー情報を活用して、複数の費用パターンを事前に試算しておくべきだ」(グローバー氏)

 財務部門は工業用金属の価格下落を見て、「もっと値下がりするのを待てばよいのに、なぜIT部門は今すぐ発注したがるのか」と疑問に思う。一方のIT部門は、供給の制約やベンダーの経営リスクを見て、「ハードウェアが手に入らなくなる前に確保したい」と考える。どちらの主張にも理があるからこそ、社内での予算調整はスムーズに進むどころか、かえって難航してしまう。

 ここで必要なのは、数字を正確に把握することだけではない。市場が次にどの方向に動いても、破綻しない予算を作ることも不可欠だ。

 貴金属ディーラー企業Birch Gold Groupの金融市場ストラテジストであるピーター・レーガン氏は、金属価格の下落を費用節約の観点だけで捉えるべきではないと強調する。続けて、「CIOとCFOは、インフレや為替の圧力、地政学的要因で金属価格がどれほど急速に変動し得るかを認識し、適応力とシナリオプランニングを念頭に置いて予算を検討しなければならない」とも語る。


 次回は、市場変動の影響から自社を守るためにCIOが取るべき行動を紹介する。

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