AI活用のメリットと限界
SAP移行の改修工数を最大87%削減 AWSのAIエージェント実験で分かった限界
SAP移行の壁となるコード改修や検証作業。AWSとそのパートナーはAIエージェントを用いた実証実験を通じて、工数削減効果を実証した。移行におけるAIツールの限界と、人間との適切な役割分担を探る。
SAPシステムのモダナイゼーションは、膨大なカスタムコードや複雑な連携設計の解読が必要であり、運用・開発チームを悩ませてきた。特に、データウェアハウス「SAP Business Warehouse」(SAP BW)やミドルウェア「SAP Process Integration / SAP Process Orchestration」(SAP PI/PO)のメインストリーム保守終了が2027年12月に迫る中、移行作業の効率化は喫緊の課題だ。
こうした背景から、Amazon Web Services(AWS)はAI搭載の開発エージェント「Kiro」を用いて、SAP移行用AIエージェントの検証を進めている。同社はSAP関連のカスタムプログラムやミドルウェアのモダナイゼーションを加速するサンプルエージェントを作成した。
このサンプルエージェントを用いたAWSの社内ベンチマークでは、で記述されたソースコードの分析、変換、単体テストを自動化することで、改修工数を最大87%削減した。パートナー企業であるNTTデータ グローバルソリューションズの移行サービスでは、工数を最大95%削減したとの報告がある。
大規模なソースコードや構成情報を並列処理するAIツールの導入によって、これまで手作業に依存していた移行作業にどのような変化が生まれるのか。検証データや事例から、その実用性と導入メリットを読み解く。
なぜSAP移行でAIエージェントが有効なのか
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SAP製品のクラウド移行の実態
従来のSAPシステム移行では、プログラミング言語「SAP Advanced Business Application Programming」(SAP ABAP)で記述された財務や受注管理用の独自プログラム群や、外部システムと連携するミドルウェア構成を、エンジニアが手作業で解読・修正していた。移行作業が数カ月から年単位の期間を要する要因は、この「コード分析と書き換え」の物理的な作業量にある。
KiroをベースとするSAP製品専門のAIエージェントは、特定の変換ルールやプロセスを保持し、単一の指示(プロンプト)で数千行のソースコードや数百のインタフェースを一括で変換する。実験や先行事例では、主に以下の領域で高い生産性向上効果が確認された。
プログラムの改修・変換
社内ベンチマークにおいて、ABAPコードの分析・変換・単体テストを一括自動化し、改修工数を最大87%削減する成果を上げた。パートナー企業の移行サービスでは最大95%の工数削減が報告された。
ドキュメント生成による範囲絞り込み
自動車販売のToyota Chileでは、仕様書が存在しないレガシーコードをAIで自動分析。未使用のコードを特定して移行対象から除外することで、数カ月分の手作業を回避した。
ベンチマークに見る処理性能とメリット
移行フェーズごとの検証結果からは、AIツールが具体的にどのような処理能力を持つかが示されている。
1. ABAPコードの最新化とクリーンコア化
「SAP ERP Central Component」(SAP ECC)のABAPコード5854行(88オブジェクト)を、「SAP S/4HANA」準拠に変換する実験では、仕様書やテストプログラムの生成を含めて4.5時間で完了し、全てのテストに合格した。
システム本体を肥大化させない「クリーンコア」原則に基づくリファクタリングでは、1万200行(143オブジェクト)中の規格外コード116カ所を55分で自動修正した。
2. ミドルウェアとデータウェアハウスの移行
SAP PI/POからクラウド型連携サービス「SAP BTP Integration Suite」への移行検証では、22のインタフェース(25のマッピングロジック)を約2時間で変換、デプロイした。
「SAP BW」から「SAP Datasphere」への移行でも、複雑なデータパイプラインを解読し、2.2時間でクラウド対応形式へと変換を完了させている。ITサービスのKyndrylでは、この自動化により手作業工数を最大80%削減できると試算している。
品質確保のメカニズムと「導入時の留意点」
AIモデルをソースコードの変換に適用する際の最大の懸念は、誤ったソースコードを出力する「ハルシネーション」や、依存関係の破壊だ。実験で高い正確性が得られた背景には、以下の品質管理メカニズムが存在する。
- 依存関係の完全コンテキスト保持
- 変換対象のソースコードだけではなく、参照されている外部ライブラリをあらかじめ全取得して全体像を把握した上で変換する。
- 前後での「自動単体テスト」実行
- 変換前のレガシーコードから単体テストを自動生成し、変換後のソースコードが同じビジネスロジックを満たすかを自動検証する。エラーがあればAI自らが修正ループを回す。
- 監査ログの保持
- AIの会話履歴や判断ログが自動保存されるため、従来の手作業ドキュメントよりも高い透明性が確保できる。
運用上の注意点と人間の役割
一方で、実験結果からは「AIに任せ切りにできない領域」も明確になった。
- 標準APIがないプログラム
- クリーンコア化において、SAPから標準代替APIが提供されていない独自コードについては、AIによる自動改修ができず、人間による手動レビューと再設計(サイドバイサイド開発や現状維持などの判断)が必要となる。
- セキュリティ認証情報
- ミドルウェア移行時、パスワードやセキュリティ証明書などは安全上の理由からAIで自動移行されないため、手動設定が必須となる。
- 最終ビジネス検証
- 単体テストが自動化されても、本番環境への適用前には人間によるエンドツーエンドの業務テストと最終検証が不可欠である。
実証実験の結果は、AIエージェントが「人間のエンジニアを完全に置き換えるもの」ではなく、「単純な解読、書き換え、テスト作成などの定型作業を大幅に短縮する強力なアシスタント」として機能することを示す。AIエージェントに定型的な変換作業を委ね、人間は例外的なコードの判断や最終的な業務検証に集中するといった役割分担が、サポート終了期限の迫るSAP移行プロジェクトを加速させる鍵になりそうだ。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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