旅費審査を年間150時間削減へ
予算確保、条例改正、定着――自治体DXの壁を今治市はどう越えた?
愛媛県今治市は、1300人を超える職員を対象に、ラクスのクラウド型経費精算システム「楽楽精算」の運用を開始した。旅費申請の審査業務を年間約150時間削減する見込みだ。ラクスが同年7月3日に発表した。
愛媛県今治市は、バックオフィス業務のDXを進めるため、ラクスのクラウド型経費精算システム「楽楽精算」を導入し、2026年3月に運用を開始した。対象は1300人を超える職員で、旅費申請の審査業務を年間約150時間削減できる見込みだ。ラクスが2026年7月3日に発表した。
楽楽精算導入の背景には、旅費申請に残るアナログな作業と、2025年4月に施行された「国家公務員等の旅費に関する法律」の改正があった。一方、導入に当たっては、予算の確保や条例改正、全職員への定着といった自治体特有の課題を乗り越える必要があった。
今治市は、予算獲得にどのように動いたのか。システム導入時に懸念される問い合わせの急増を、どのように防いだのか。
旅費申請の事前審査に月100時間 今治市は新システム導入にどう動いた?
ラクスによると、今治市の総務部人事課では従来から旅費管理システムを利用していた。しかし、旅費の金額計算や内容の確認、職員への修正依頼など、手作業で処理する工程が多く残っていた。
事前の旅費申請を審査する業務には、月間約100時間を費やしていたという。申請方法に関する問い合わせも多く、その都度、人事課の担当者が本来の業務を中断して対応する必要があった。
今治市は、従来の業務負荷に旅費法改正への対応が加われば、現在の運用では限界を迎える可能性があると判断した。
そこで、今治市総務部人事課、未来デジタル課、出納室の3組織が連携し、新たな経費精算システムを導入するプロジェクトを立ち上げた。
作業時間や人件費の削減効果を示して予算を獲得
プロジェクトを進める上で課題となったのが、新システムを導入するための予算の確保だ。従来の仕組みでも旅費精算業務そのものは続けられていたため、新たな費用を投じる妥当性を説明する必要があった。
今治市は、審査作業の短縮によって削減できる作業時間や人件費を算出した。さらに、証憑(しょうひょう)確認の高度化による内部統制の強化なども含め、導入効果を定量的に示すことで予算を獲得した。
システム選定では、利用頻度が低い職員でも直感的に操作できることを重視した。自治体特有の業務や慣習を踏まえた提案も評価し、楽楽精算を採用した。
システム導入に合わせて条例を2段階で改正
もう1つの課題が、「今治市職員の旅費に関する条例」の改正だった。
今治市は、システム導入の前後に条例改正を2段階で実施した。まず、国の旅費法改正に準拠するため、2025年4月に対応可能な内容を先行して条例に反映した。
その時点では、既存の旅費管理システムが実費精算に対応していなかったため、全ての変更を一度に実施することはできなかった。その後、2026年3月の新システム稼働に合わせ、実費精算に対応するための条例改正を実施した。
申請時点で誤りを防ぎ、審査業務を年150時間削減
楽楽精算では、乗換案内やトランスファーデータの出張管理サービス「AI Travel」などの外部サービスとの連携、手当の自動計算、申請ルールのチェック機能を利用できる。
今治市はこれらの機能を活用し、申請内容に誤りがある場合は申請時点で利用者に知らせる仕組みを整えた。人事課が申請を受け取った後に内容を確認し、差し戻す作業を減らす狙いだ。
これにより、従来は手作業で実施していた審査業務を短縮し、全体で年間約150時間を削減できると見込む。
申請者は、旅費に関するルールブックを読み込まなくても、画面の案内に沿って入力することで、規定に沿った申請ができる。システム上で要件を確認して自己解決できるようになったため、人事課への問い合わせも減少したという。
1カ月間の試験運用で問い合わせの集中を防止
全職員へのシステム定着に向けては、ラクスの「設定代行サービス」を利用した。導入決定から運用開始までの約半年間、ラクスの担当者が毎週の打ち合わせに参加し、今治市の業務や慣習に合わせた運用体制の構築を支援した。
庶務担当者向けの説明会に加え、本稼働前には1カ月間の試験運用期間を設けた。今治市では過去に、別のシステムを更新した際、事前説明だけで本稼働に移行した結果、問い合わせが急増した経験があった。
楽楽精算の導入では、試験運用中に寄せられた職員の声を基にFAQを充実させ、職員が段階的に操作へ慣れる期間を確保した。その結果、大きな混乱を起こすことなく運用を開始できたとしている。
今治市は今回の導入を通じて、多くの職員が事務作業を省力化し、本来の業務に時間を使えるようになったとしている。今後は周辺のバックオフィス業務についてもDXと省力化を進め、スマート自治体の実現や住民サービスの向上につなげる方針だ。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHub.News」に掲載された「今治市、『楽楽精算』導入で旅費法改正に対応 年間約150時間の審査業務削減へ」(2026年7月5日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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