シンガポール政府が「マルチクラウドは複雑」と認識しつつもそれをやめない理由:電子政府のクラウド活用【第3回】
シンガポール政府はクラウドサービスの利点を引き出すために、開発においてどのような方針を採用しているのか。同国政府が考えるクラウドサービスの利点と注意点とは。
公共サービスのデジタル化を推進するに当たって、クラウドサービスの利用を重視するシンガポール政府。開発においては何を重視しているのか。シンガポールの政府最高デジタル技術責任者(Government Chief Digital Technology Officer)で、同国のデジタル庁(GovTech:Government Technology Agency)のCEO代理も務めたチャン・チャオ・ホー氏に聞いた。
“簡単ではない”マルチクラウドをあえて採用する理由
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チャン氏によると、政府で働く開発者はモノリシック型(1つのモジュールで構築されたシステム構成)のシステムをカスタマイズする開発に慣れている。そうした開発者からは「クラウドサービスをカスタマイズしたい」という要望が出る。だが同氏は「クラウドサービスを利用するからには、できるだけクラウドサービスの強みを生かした開発にしようと呼び掛けている」と話す。
クラウドサービスのエコシステム(クラウドサービスを介してさまざまなサービスを提供するベンダーが相互につながり、依存し合うコミュニティー)は、多彩なクラウドサービスを基にして成り立っている。チャン氏は「特定のクラウドサービスに依存するほどアプリケーションの開発はしやすくなる」と強調する。
一方でベンダーロックインのリスクには注意しなければならない。「クラウドサービスの強みを生かすことと、レジリエンス(回復力)およびアプリケーションの可搬性を高めることのバランスは、言葉ではうまく説明できないほど難しい」(チャン氏)
チャン氏は、オンプレミスのインフラとクラウドサービスを併用する「ハイブリッドクラウド」や、複数のクラウドサービスを併用する「マルチクラウド」を実装する際の課題についても問題を提起する。
「『ハイブリッドクラウドは単純ですよ』というセールスマンの言葉を信じてはいけない」とチャン氏は指摘する。同氏によるとハイブリッドクラウドやマルチクラウドは複雑で、使いこなせるようになるまで時間がかかる。ただし同氏は「マルチクラウドを採用することでレジリエンスを向上させることができる」と付け加える。
第4回は、シンガポール政府がクラウドサービスの利用に当たり、データ保護やセキュリティにおいて重視するポイントを紹介する。
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