RIA開発ツールの本命となれるか?
WPF/Silverlight向けUI設計ツール「Expression Blend 3」の新機能とは
マイクロソフトが2009年10月に発表したUI設計ツール「Microsoft Expression Blend 3 日本語版」。SilverlightによってRIA市場に攻勢をかける同社が発表した新製品の主要機能を紹介する。
マイクロソフトは2009年10月、Webインタフェース設計用ツール群「Microsoft Expression 3 日本語版」(以下、Microsoft Expression 3)の提供開始を発表した。Microsoft Expression 3は、高度なユーザーインタフェース(UI)を実現するためのグラフィックサブシステム「Windows Presentation Foundation」(以下、WPF)や、RIA(Rich Internet Application)を提供するWebブラウザプラグイン「Microsoft Silverlight」(以下、Silverlight)に対応した4つのデザイナー向けの開発ツールで構成される。
| 製品名 | 概要 |
|---|---|
| Expression Blend | WPFやSilverlightを使ったアプリケーションUI設計ツール |
| Expression Web | Web標準に準拠したサイトやASP.NETや PHPなどの機能を活用したサイト制作を効率的に行うためのWebオーサリングツール |
| Expression Design | Web/デスクトップアプリケーションで必要となるパーツを作成するためのベクターグラフィック作成ツール |
| Expression Encoder | Silverlightに最適なビデオのエンコードやパブリッシュを支援するビデオエンコーダー。スクリーンキャプチャーも可能 |
RIAの推進団体である「RIAコンソーシアム」が2009年6月に発表した、Webアプリケーションの利用者を対象に行った「2009年3月 Webアプリケーションのビジネス利用調査」によると、Silverlightの認知度は、2008年実施の前回調査と比べて6%増の14.4%まで増えている。
Silverlight向けの開発ツールであるMicrosoft Expression 3は、どれくらいRIA開発を効率化できるのか? 本稿では、その中でも開発者が利用する機会が多いUI設計ツール「Expression Blend 3」(以下、Blend 3)の主要機能を紹介する。
Blend 3の動作環境
Blend 3は、以下の3つのOSをサポートしている。
・Windows XP Service Pack 2 以上
・Windows Vista
・Windows 7
Blend 3の動作環境の条件としては「.NET Framework 3.5 Service Pack 1」以上が必須となっている。これは、Blend 3自身がWPFアプリケーションとして構築されているためだ。
カスタマイズ性が向上したワークスペース
Blend 2までは「パネル」と呼ばれるワークスペースの各領域は任意の場所にフローティングすることはできても、決められた場所にしか配置(ドッキング)することはできなかった。これが、Blend 3からは任意の場所にパネルを配置することが可能となり、ユーザーが一番使いやすい形式でワークスペースをカスタマイズできるようになった。また、パネルの右上隅にある[自動的に隠す]をクリックすることでパネルを折りたたみ、スペースを節約することも可能だ。
なお、複数のワークスペースパターンを使用したい場合は、カスタマイズしたワークスペースを登録しておくことで、いつでもそれを適用できる。
プロトタイプの早期作成を支援する“SketchFlow”
Blend 3に追加された新機能の中で、一番の目玉といえるのが「SketchFlow」だ。SketchFlowは「紙にスケッチを描くように各画面レイアウトを行い、画面遷移を設定することで迅速に“動く”プロトタイプを作成する」というものだ。ボタンやテキストボックスといったUI部品が手書き風の外観になっている点が特徴である。その理由について、マイクロソフトでは「最初から本式のUI部品を配置してしまうと、どうしてもすぐに画面を作り込んでしまいたくなる」という開発者の心情を考慮したとしている。
SketchFlowでは、画面遷移の設定だけでなく、画面内の動きをアニメーションとして記録できる。また、場所を指定して吹き出しのコメントを付加する機能も用意されている。なお、コメント機能そのものは、SketchFlowではない通常のプロジェクトでも利用可能だ。
作成したプロトタイプは、「SKETCHFLOWプレーヤー」と呼ばれるアプリケーション上で確認することができる。
SKETCHFLOWプレーヤーを使ってプロトタイプの各画面や動き、開発側からのコメントなどをユーザーと一緒に確認して、その場でフィードバックを書き込める。書き込んだフィードバックをエクスポートしてExpression Blendのプロジェクトに取り込むことで、画面設計者がプロトタイプを修正するという流れになる。これを繰り返すことで、早期に画面要件を固めることができるというわけだ。
なお、画面遷移図や各画面のスクリーンショットなどを「Microsoft Office Word」文書として出力する機能も備えている。この機能を利用して作成されたWord文書を“画面仕様書”としてすぐに活用することも可能だ。
コードの再利用を促進させる“ビヘイビアー”機能
「ビヘイビアー」とは、再利用可能なコードをパッケージ化したものである。ビヘイビアーをドラッグ&ドロップ操作で画面へ配置することで、コードを記述することなくUIにインタラクティブな機能を追加することができる。
例えば、「MouseDragElementBehavior」を任意のUI部品にドラッグ&ドロップすると、その要素はアプリケーション実行時にドラッグ動作による移動が可能となる。Blend 3では、MouseDragElementBehaviorを含めて合計8種類のビヘイビアーが標準で用意されている。
また、オリジナルのビヘイビアーを作成することもできる。「Microsoft Expression Community Gallery」というサイトでは、投稿者のライセンス許諾の範囲内であれば自由に利用可能な、さまざまなビヘイビアーが共有されている。
なお、ビヘイビアーは「Expression Blend SDK」で提供される機能であるため、ビヘイビアーを使用したアプリケーションでは下記のアセンブリの配布が必要となる。
- System.Windows.Interactivity.dll(ビヘイビアーAPIを提供するアセンブリ)
- Microsoft.Expression.Interactions.dll(8種類の標準ビヘイビアーを提供するアセンブリ)
ダミーデータの作成を容易にする“サンプルデータ”機能
WPF/SilverlightのUIフレームワークでは、データを視覚化することでUIを作り出すという“データ駆動型の設計思想”を持っている。そのため、これまでは画面作成を行うためには、まず画面で使用するデータを用意する必要があり、開発者が仮のXMLデータを作成して対応することが多かった。
この点について、Blend 3では「サンプルデータ」機能が追加されており、デザイナーが開発者の手を借りずに画面作成を行うことが可能だ。サンプルデータとして使用できるデータ型は「文字列」「数値」「ブール型」「イメージ」の4種類で、例えば、文字列では名前や住所といったデータの内容も選択することができる。
ただし、日本語版のBlend 3でもデータの内容は、現時点では英語のみである。これはBlend 3のインストールフォルダの中の「\SampleDataResources\ja\Data」にあるCSVファイルやテキストファイルの中身を書き換えることで日本語化することもできる。なお、書き換える際はUTF-8のエンコーディングで保存しなければ正常に動作しないので、その点は注意したい。
Photoshop とIllustratorからインポート
これまでBlendが対応していたファイルのインポート(変換を伴う読み込み)は、3DモデルデータであるOBJファイルのみだった。そのため、デザイナーの多くが使用している「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」などのファイル形式では、Expression Designなどの別ツールであらかじめ変換しなければならず、非常に手間であった。今回、両アプリケーションの保存形式であるPSDファイルとAIファイルをBlendに直接インポートする機能が追加されたことで、そうした手間が解消されている。
Blend 3では、Adobe PhotoshopやAdobe Illustratorなどのレイヤー情報を保持したままインポートすることができる。そのためデザイナーは個々の部品ごとではなく画面全体をレイヤー化して作成するだけでよく、効率的な開発が可能になったといえよう。
コード編集機能も拡充
Blend 2までは、XAMLコードを直接記述できたが、C#やVisual Basicなどの開発言語のコードを記述することはできなかった。Blendはデザインツールなのだから、必ずしもC#やVisual Basicのコードが記述できる必要はないように思えるかもしれない。しかし、統合開発環境「Visual Studio」におけるWPF/Silverlight向けの機能が不足していることから、実際に開発者もBlendを使用しているケースは少なくない。そのため、Blend 2まではVisual StudioのStandard版が無償でバンドルされていた。
Blend 3では、C#やVisual Basicのコード編集機能が追加された。このコード編集機能はVisual Studioほどの機能性はないものの、構文自動入力機能である「IntelliSense」がサポートされているため、開発生産性の向上に役立てることができる。なお、今回はXAMLエディターも機能強化され、以前はサポートされていなかったIntelliSenseが追加された。
大幅な機能追加と細かな改善の両方がなされたBlend 3
今回紹介した機能追加以外にも、Blend 3では“前バージョンのユーザーでないと分からないような細かな機能改善”が多数行われている。その量は1.0から2へのときと比べて多くなっており、バージョン3にして、「Blend製品はようやく“1つの完成形”を迎えた」といってもよいだろう。一見すると変わっていないように思える部分でも、ユーザビリティが格段にアップしており、以前の数分の一の時間で同じ作業が完了するといった体験ができるはずだ。
現時点では、Visual Studio 2008のWPF/Silverlight向けのUI設計はまだまだ機能不足であり、「BlendはWPF/Silverlightアプリケーション開発における必須ツールである」と考える。「デザインツール」という言葉にとらわれず、UI開発に携わるすべての人に、ぜひBlend 3を体験してもらいたい。
著者紹介
八巻 雄哉(やまき ゆうや)
グレープシティ株式会社テクニカルエバンジェリスト
2003年グレープシティ入社。PowerToolsシリーズのテクニカル・サポートを担当する傍ら、製品開発やマーケティングにも従事。現在は.NETとPowerToolsシリーズ普及のため、エバンジェリストとして活動中。「Microsoft MVP for Development Platforms - Client App Dev Jan 2009 - Dec 2009」受賞。http://d.hatena.ne.jp/Yamaki/にてブログを公開中。
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