ITを生かす中小企業の組織づくり【第2回】
“無関心の経営者”をITに振り向かせる2つのアプローチ
期待した通りのIT導入効果を出す上で、最も大きな阻害要因となるもの。それは「経営トップの無関心」だ。戦略的IT化を推進する組織づくりの鍵となる経営者を、ITに関与させるにはどうすればいいのか。
大きな効果を期待して導入するITシステムだから、できるだけ早い時点からその運用を軌道に乗せ、所期の効果を上げたいと願うのは、企業としては当然のことである。特に中堅・中小企業にとっては、IT投資を寸分たりともムダにしたくない。
ところが、せっかく導入したシステムが十分稼働せず、所期効果を出し切れていない場合が多過ぎるのが実態だ。そうしたことは、IT導入後に分かっても無意味である。IT導入を考えた時点から、導入効果の実現を阻害する要因を取り除き、成功のための要因を押さえておくべきだ。
小規模企業ほどITを生かし切れていない実態
ITを生かし切っていない中小企業の実態は、まず諸統計から垣間見ることができる。ITシステムを導入したが、企業規模が小さくなるほどITを生かし切っていないことが、例えば中小企業白書の情報システムの社内外連携状況から見ても分かる(下表を参照)。
| 企業規模\連携状況 | 大部分連携 | 一部連携 | 連携せず | ITを導入していない |
|---|---|---|---|---|
| 20人以下 | 4.6(10.1) | 22.2(19.1) | 20.7(21.1) | 52.6(49.8) |
| 21~50人 | 4.9(19.3) | 35.5(33.8) | 32.6(25.9) | 26.9(21.0) |
| 51~100人 | 7.2(26.8) | 41.1(39.5) | 33.2(19.8) | 18.5(13.9) |
| 101~300人 | 6.4(38.6) | 52.6(41.2) | 30.1(14.8) | 10.9(5.3) |
| 300人以上 | 10.2(61.9) | 60.8(31.1) | 24.7(5.7) | 4.2(1.2) |
| (出典:「中小企業白書2008年版」中小企業庁編、記事中のデータはすべて同様) | ||||
一方、中小企業に対して「IT活用の目的と効果」をアンケート調査した結果によると(複数回答)、「十分な効果があった」「やや効果があった」の合計で第1、2位が「業務の迅速化」の81.6%、「社内情報の共有化」の71.4%だった。ただ、肝心の「人員削減」効果については「十分効果があった」のが3.3%で、「やや効果があった」を加えても24.5%と、いずれも回答項目中最下位だ。これは、IT導入による定性的効果は認めるが、定量的効果はないということを意味する。だが中小企業は、業績に結び付く定量的効果こそ期待しているのではないだろうか。
さらにリポートを読んでいくと、「利用しているシステムが業務の要望を十分に取り入れたものであるか」については「十分に取り入れている」がわずか16.6%、対して「十分とはいえないが取り入れている」が67.1%に上り、従業員規模が小さい企業ほど取り組みが不十分ということも示されている。これでは、IT導入効果を期待できるわけがない。
アンケート調査から中小企業ではIT導入効果が不十分であることが分かったが、それではIT導入効果を十分に期待できる要件は何か。調査では「IT化成功要件」として、次の3点が挙げられている。
- 経営戦略に基づくIT化企画の立案(現実には「経営計画で明確に予算付けられ、計画的に投資」している企業はわずか6.5%、していない企業は89.3%にも上る)
- 経営者のリーダーシップと推進体制の構築(現実には「情報化の責任を現場の責任者に任せている」が34.6%もあり、IT部門を設置する企業はわずか15.9%)
- ITガバナンスの醸成(IT化計画を立てていない企業が約70%、ITサービス基準を作成していない企業が80%強もある)
一方、IT化を経営の最重要課題としているとITの効果があり(ありとする企業は89.7%)、業績も向上する(売上高増の企業は45.9%、経常利益増の企業は28.9%)傾向にある。しかしIT化を経営の重要課題とする企業は、従業員20人以下の企業で42.1%、301人以上の企業では83.1%と、規模が小さいほどIT化を重要視する度合いが低くなる傾向にあるデータも示されている。
すべての要件がトップに収束する
以上のデータから、多くの中小企業において、
- IT導入の効果が期待に反して得られていない
- IT導入を成功させて効果を出すためには、経営者のリーダーシップの下にIT化を経営戦略と関連付けるのが必要条件であるにもかかわらず、実態はITがあまり重要視されていない
ということが読み取れた。これらは、取りも直さず経営トップの責任だといえる。
トップの責任と断言する根拠は、経営戦略にかかわる部分がトップの責任以外の何ものでもないからだ。さらに、上記アンケート調査で指摘されているIT導入成功の諸要件、例えばリーダーシップ、推進体制の構築、業務の要望の取り入れなど、すべては突き詰めていくとトップの考え方いかんに左右される。つまり、トップに収束していくのだ。企業へのIT導入のテーマが、上述した「企業内連携」から「企業間連携」など外部連携へシフトしてきている例に見られるように、業務プロセスの合理化や情報共有という単なる「業務の効率化」から、「高付加価値化」「売上拡大」「情報創造」へと高度なレベルに変化しており、トップのITへの関与が避けられなくなってきているためだ。
しかし、ITに対する“トップの関与”が必須であるとはいうものの、ここで注意したいのは、あくまでも「適切な関与」と「不断の関与」でなければならないことである。IT投資は生産や物流の設備投資とは違って目に見えない、火急のテーマに追われてITシステムなど不急なことはやっていられないなどの理由から、IT投資を専門家に任せて無関心を決め込む中小企業の経営者をよく見かけるが、かといってトップの過剰な関与も逆効果となる。
実例を示そう。中堅の某情報機器メーカーではSFA(営業管理システム)を導入することになり、全国営業拠点から要員を召集してプロジェクトチームが設置された。何度か会議を重ねていたが、ある日、たまたま会議室の前を通りかかったトップが顔をのぞかせた。しばらく傍聴していたトップは、いきなり切り出した。
「そんな悠長な議論をしていては、いつまでたってもシステム導入には行き着かない。おれがやる!」
彼はこう言うやいなや、10人ほどのメンバーから3人を指名して社長室へ連れていき、それから10日間ほどでシステム企画書を作ってしまった。そのトップは、いわゆるPCマニアだったのだ。まさにトップダウンの下、超短期間で仕上げたシステムだが、経営者指向の机上企画で実務意見の反映が少なく、実用に堪えなかったことは言うまでもない。
もう1つ、トップが関与する場合は、初期だけ、思い付きといった単発の関与ではなく、継続的にしなければならない。ITの導入・運用・効果の実現は、それほど息が長い。トップはIT導入決断のときから要所要所について、しかもシステム稼働後のフォローアップも含めて継続的に関与しなければならないのだ。
“無関心トップ”をどう振り向かせるか?
IT導入に当たり経営者の適切かつ不断の関与が必須だとして、最も重要となる問題は、そこかしこに見受けられるITに関心がないトップに、いかに関心を持たせるかということである。本来ならば、トップ自ら学ぶことが好ましい。日ごろ情報システム部門へ自ら出かけたり、執務室をうろうろ歩き回っているうちに社員の机上に置いてある「クラウドコンピューティング入門書」を手に取って「読み終わったらわたしに貸してくれ」と話しかけたりする、心ある経営者も実際にいたりするが、ITに無関心な多くのトップはそんなことをしてくれない。
こうした“無関心トップ”には、さしずめ2つのアプローチがある。
1つは、トップの弱点から攻める方法である。側近、顧客、先輩(顧問や相談役がいるはず)など、トップが耳を傾けざるを得ない人物にお願いして、IT導入のきっかけを作るのだ。事実筆者は、交通事故を案じて車を運転させないかのごとく、ウイルスが感染することを心配して外部システム連携を断固認めなかったトップを、ある顧客に頼んで説得してもらった経験がある。その結果、オンライン情報交換システムが導入され、それをきっかけにほかの取引先や外注へと拡大していった。
もう1つの方法は、経営者の土俵に立つこと。どんなトップでも、最も関心を持っている課題があるはずだ。例えば、「売り上げをもっと拡大しろ」「仕掛かり残高を減らせ」「赤字脱却のためにコストを削減しろ」「会議を減らせ」など、いろいろな場面でトップは執拗(しつよう)に指示を出しているはずである。その指示を実行して効果を実現するために、ITの利用を説得するのだ。しかし、単なる表面的なPRは逆効果になる。トップが関心を持つテーマについての現状分析、問題点の抽出とその解決策を、信頼できるデータやIT導入成功事例に結び付けて、ITの活用を説得するといいだろう。ただし、安易に取り掛かると玉砕する。トップの土俵に立つにしても、周到な準備を行い、策を十分練らなければならない。トップを説得にかかる側は、企業人生命を賭けるくらいの心づもりで臨むべきだろう。
ここまでしても振り向かないトップがいる場合は、トップを無視してトップに代わる責任者を立てて現場主導でIT導入を進めるか(成功の確率は落ちるが)、残念だがIT導入をあきらめるしかないだろう。
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