IFRS時代、ERP選択の新ルール【第1回】
IFRS対応ERPの基本要件とは?
IFRS適用ではERPパッケージなどITシステムに求められる機能要件が従来とは異なってくる。新連載ではこれからERPパッケージを改修する、リプレースする場合に考えるべきポイントを示す。
これから数年のERPパッケージの市場はIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)を中心に進むと考えられる。国産、外資ともIFRS適応を見越した機能やソリューションを用意するだろう。
ユーザー企業にとってはIFRS導入に当たってシステム化を考えるのは当然であるが、システム化はまだ先とも考えられる。ユーザー企業の中には、十分時間があるという認識とJ-SOX(財務報告に係る内部統制 報告制度)の整備時には後から手掛けた方が、負荷が少なかったという認識がある。
しかしながら、IFRS導入に際し、今の時期に手掛けるべき事項は少なくない。新連載の第1回では、IFRS対応ERPを選ぶ際に考慮したい基本的な要件、そしてIFRS適用のシステム対応の前に考えたいことを説明しよう。
IFRSのシステム対応
IFRSのシステム対応を考える際には、幾つかの基本的事項を考慮する必要がある。ここではそれを
- システムの構造に影響する事項
- 単体・連結で考慮すべき事項
- 制度・管理で考慮すべき事項
- 国内・海外で考慮すべき事項
に分けて考えてみよう。
(1)システムの構造に影響する事項
ここで取り上げるのは、IFRSがシステムの構造に影響を与えるか、もしくは、システム改修の際にデータ保持で苦労すると考えられるポイントである。
複数会計基準元帳
マルチブックともいわれる複数会計基準元帳を採用すると、会計基準ごとに総勘定元帳を保持することになるが、構造はそう単純ではない。幾つものパターンがあるのだ。すべてのグループ内の法人(単体)がIFRSと、ローカル基準(日本基準など)の複数帳簿を持つ、または、親会社のみ、あるいは主要子会社のみが複数元帳を持つなどが考えられる。
ほかにも複数元帳を持たない子会社については、単体の元帳をIFRSの元帳にするのかローカルの元帳にするのかを考える。日本の国内子会社は、税法の確定決算主義で会計処理をしている。その場合、複数元帳を持たない場合の連結組替仕訳は子会社が作るのか、親会社が作るのかも検討課題だ。
過年度データの遡及修正
IFRSは、会計方針の変更や誤りがあった場合、実務上不可能ではない限り過年度のデータを遡及(そきゅう)修正する。そのためにはITシステムで何年分遡及可能なのかを確かめる必要がある。また、遡及する際に過年度の修正前データをコピーして保持できる機能をITシステムが有しているか。保持できる場合のデータの粒度はどのくらいかもチェックが必要だ。
複数シナリオ
過年度遡及修正も複数シナリオといえるが、それとは別に要求される個別のシナリオに焦点を当ててみたい。「有形固定資産」と「原価計算」である。
・「有形固定資産」
IFRSは、有形固定資産について資産の経済的価値の消費パターンに基づく合理的な耐用年数や償却方法の採用を求めている。日本の税法は、これらについて細かく定め、損金経理を要求している。日本基準は、合理的耐用年数を定めるべきとしながらも、不合理でない限り税法の処理を容認している。税法と日本基準の差異は減損である。減損処理を行った場合は、ここでもITシステム上で別シナリオが必要になる。
・「原価計算」
原価計算の費目別計算における原価に算入すべき費用項目の範囲が、IFRSと日本基準で異なる。その最たるものが上記の減価償却費であるが、それ以外でも無形資産の資産化など大きく影響する項目がある。その結果、部門別計算、製品別計算を通じ、棚卸資産および売上原価に影響を与えることになる。原価計算を日本基準(ローカル基準)とIFRSの両方のシナリオで実施する必要がある。
予測シミュレーション
IFRSは予測値の開示を積極的に求めている。その中で、単に開示のためだけではなく、経営 管理的な意味でも予測値の管理が必要な状況になるだろう。現在、日本で行われている売り上げ・利益をベースとする業績見通しの修正は、経営環境激変の中、何度も修正を繰り返すようになり、それほど意味を持たなくなると考えられる。むしろ、経営者による積極的な開示が財務諸表利用者にとって有用ではないか。
(2)単体・連結で考慮すべき事項
連結パッケージ
連結パッケージ(ここでは連結データの収集用のフォーマットという意味で用いる)をIFRS基準にするのか、ローカル基準にIFRS修正用のデータを加えたものにするのかは悩ましい。望ましいのは、現地でIFRS基準ベースで作成することだが、多くの事例を見ると実務的にIFRS基準で作成できるようになるには3年程度かかると考えられる。
連結組替と業績評価
IFRSはすべての業務処理に関係し、日常、その判断が求められるとすれば、IFRSの教育を早々に開始し、早くその考え方を浸透させなければならない。その上で、早く前述のようにIFRS基準ベースの連結パッケージを収集することが肝要である。
・単体でのシステム
単体のシステムで問題になることは幾つかあるが、システム側だけで考えてはならない。次のようなパターンに分けて見る必要がある。
- 収益・費用の認識のように、日常の会計処理(ルーティン作業)に関係する差異
- 決算修正として反映すれば足りる差異
この問題も別に考えると、売上計上基準のように期末分だけ手で拾って修正すれば足りるといったような日常処理にするのか、決算期にだけ処理するのかという問題にすり替えられやすいが、次の点に十分配慮する必要がある。
- 遡及修正はそれでも可能か
- 内部統制はそれでもOKか、コントロールは十分有効か
- 管理会計データは、管理する上で十分データが取れるのか
・連結でのシステム
連結においても問題がある。会計ガバナンスの問題である。以下にその点を考えてみる。
- わが国企業の場合、国内子会社と海外子会社では、ガバナンスのありようが異なる。企業規模に関係なく、海外子会社はすべてIFRSベースで連結データを収集して、国内子会社は日本基準で収集するような考え方がある。海外子会社の方がIFRS導入が早く、そのため、対応の遅い国内子会社を後回しにすることである。しかしながら、これは極めて危険だ。海外子会社が「放し飼い」「現地主導」となり、ガバナンスが不在になる可能性がある
- 子会社からの連結データがIFRSで収集されないとその差異分は親会社がメンテナンスしなければならない。場合によっては翌期の開始仕訳は親会社の連結担当しか知らない状況になる
(3)制度・管理で考慮すべき事項
この問題もかなり悩ましい。難しいのは、管理会計と制度会計が別々の存在であると依然として考えられていることだ。この認識を前提に、IFRS対応のITシステム化では以下を考える必要がある。
- IFRSのセグメント開示のように内部の管理資料に基づく開示を要請する項目が増えている。セグメント開示の場合には、連結財務諸表の該当数字と管理資料の数字との調整も必要である。制度会計の数字と管理会計の数字の整合を取る制管一致や財管一致と呼ばれる仕組みが必要である
- 上記で述べたことは、別のことを想起させる。それは、管理会計を扱う経営企画部門と制度会計を扱う経理部門が別組織であってよいかという問題である。多くの企業では、仕事が隣り合わせているにもかかわらず、経営企画部門と経理部門の仲が良くない。IFRSの導入に伴い将来数字(予測値)の開示が必要になることから、組織的に一体化することが考えられる
- 企業によっては、制度と管理で連結の範囲が異なるケースがある。管理が実績の速報と対策に重きを置くなら、連結範囲を制度と同じにした方が都合が良いのは明らかである
(4)国内・海外で考慮すべき事項
国内子会社とは異なり、海外子会社は、会計方針、業務プロセス、業務システムが必ずしも親会社と同じでないことが多い。このため、会計基準が変わる場合やそのほかの会計的インパクトのある事項について、事前に影響の予測ができないケースがある。ITシステムのIFRS適用をめぐっては以下をチェックしたい。
- 会計方針の統一をIFRSは要求している。新規にシステムを導入する場合、それ以前に会計方針を決定し、浸透させることが可能か
- 一部シェアードサービスセンターがカバーすることも考えてシステムを統一できるか。もしくはシステムの統一はあきらめて連結パッケージで解決するのか
- 注記を考えて、COA(勘定科目体系)、製品コードなどのマスター・コードは統一できるか
- 主要な業務プロセスは共通化できるか
- 原価計算の方法は標準化できるか
- 展開モデルを構築するための環境を海外展開の前に国内で整備可能か
- 海外へのロールアウト方針(インスタンス、言語、共通プロセスなど)は決定することが可能か
IFRSのシステム対応を考える前に
IFRS適用でシステム化を行う前にまず検討したいのは以下だ。1つずつ説明する。
(1)経理部門の役割・位置付け
IFRSは経理部門の在り方を変える可能性がある。日本企業の本社経理部門は、営業部門や製造部門など現場部門から寄せられるデータのエラーや不正、適用誤りなどを修正し、不正を防止する最後のとりでだ。そのため多くのキーコントロールが経理に集中し、J-SOXの整備時には監査人は内部統制監査の重点を経理部門に置いていた。発生部門の責任を結果的に経理が肩代わりしているのだ。
子会社との関係においても同様である。連結データの収集、内部取引の検証・残高の突き合わせ、そのほか多くの連結作業で、本来は子会社が実施すべき作業を親会社で実施している。このままでは、IFRSと現地基準との差異も親会社で算出して、親会社で連結作業として入力せざるを得ないのではないだろうか。本社と子会社の責任体制を再構築しておかないと、経理部門は今後回らなくなる可能性が高い。
(2)子会社政策
非連結子会社の対応をどうするか、決算期が親会社と異なる期ズレの子会社をどうするかなど連結をめぐる論点は多い。だが、その前に子会社の統合・清算を含む再編が必要だと考えられる。重複する事業領域を調整し、子会社間での事業譲渡や合併を実施し、不採算子会社は清算する。連結決算作業負荷を少なくするためには、その会社を独立した子会社にしておく意義を再検討してみる価値はあると考えられる。
また、グループ内に上場子会社がある場合は、今後、東京証券取引所などの指導もあり、上場のデメリットの方が大きくなると予想される。上場廃止を含めて再検討するべきと考えられる。さらに、少数株主持分との利益相反やグループポリシーの浸透などを考えて、子会社の100%子会社化も併せて考慮されるべきだろう。
(3)ルール・プロセス・システム
システムを効率的に子会社展開するには、グループアカウンティングポリシーに代表される会計方針を統一的に定め、業務プロセスをできるだけ標準化し、システムも統一し、そして、これをパッケージ化して、子会社に逐次導入する。システムの展開に際しても、地域別・機能別に共通部分と個々対応の部分に分けて実施する。
IFRSを経営管理の問題ととらえる
IFRS導入とIT戦略を考える上で一番のポイントは、IFRSを単に制度会計の問題としてとらえるのか、それとも経営管理の問題としてとらえるのか、という点だ。このことは、経理部門の役割にも影響を与え、今まで経理部内部にため込んでいた問題点を、図らずも噴出させる結果となる。IFRSのシステム導入は、その部分を避けて通れないことを意味し、システム導入に向けた要件定義の前に行うべき多くのことを示唆している。
筆者紹介
井上順一 (いのうえじゅんいち)
株式会社電通国際情報サービス、公認会計士
監査法人トーマツにて監査業務、コンサルティング業務に従事し、その後、デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)を経て、2003年にISIDに入社、現在に至る。製造業、流通業を中心に業務改革、IFRS、予算管理、グループ経営等のコンサルティングやシステム構築にあたる。
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