実用可能な変換ソリューションは?
IPv4/IPv6アドレス変換ソリューションの比較──本命はまだ実用化途上
2回にわたるIPv4/IPv6変換の問題に関する連載の2回目では、具体的なソリューションを紹介する。
本記事は、「IPv4/IPv6アドレス変換アプローチを検討する──IPv4からIPv6への移行対策とは」の続編である。
IPv4/IPv6変換の問題に対処するための実際的なメカニズムは、10年間にわたって模索されたが実現されなかった。これを受け、このIPアドレッシング問題の解決に向けた新たな提案を求める機運が高まったが、提案が乱立しているのが現状だ。
今回は、以下の一般的なソリューションについて簡単な分析を行う。
- 一部のソリューションは、IPv6への移行を完全に回避しようとしている。こうしたソリューションには、Large Scale NAT(LSN)、NAT44(IPv4アドレスを別のIPv4アドレスに変換する)、NAT444などがある
- デュアルスタックの実装と、IPv4アドレスの有効活用の両方を目指すソリューションもある。DS-Lite(Dual-Stack Lite)とA+P(Address Plus Port)だ
- NAT64は唯一の抜本的なソリューションであり、IPv6限定のクライアントがIPv4限定のサーバにアクセスできるようにすることで、問題に対処する
Large Scale NAT(NAT44)
有線インターネットのユーザーは、インターネットに接続すると常にCPE(顧客宅内機器)に固有のパブリックIPv4アドレスを割り当てられている。当初、モバイル事業者は、プライベートIPアドレス空間とNAT(Network Address Translation)を使用する場合が多かった。なぜなら、自らのネットワークを、WAP(Wireless Application Protocol)1.0コンテンツにアクセスするためにだけIPを使う“閉ざされた庭”として設計していたからだ。Large Scale NAT(LSN)は、ほとんどのユーザーのCPEを対象にプライベートIPv4/パブリックIPv4 NAT(このNATの省略名がNAT44)を大規模に実行することで、IPv4アドレスの不足に対処する(下図参照)。
提供状況
多くの中規模モバイル事業者が、既存のエンタープライズファイアウォールデバイスを使って可用性の高いLSNソリューションを構築している。Ciscoが先ごろリリースしたCGSE(Carrier-Grade Service Engine)は、CRS(Carrier Routing System)シリーズルータ用のブレードであり、10Gビットを超える速さでNAT44オペレーションを行う。
NAT444
モバイルユーザーは通常、デバイス(携帯電話、3Gアダプター付きのタブレット、ノートPCなど)ごとに1つのIPアドレス(パブリックまたはプライベート)を受け取る。有線ユーザーも1つのパブリックIPアドレスを受け取るが、多くの場合、CPEでNATを実行することで、ホームネットワークをインターネットに接続する(CPEで実行されるNATにより、有線ユーザーは自分のネットワーク全体を1つのパブリックIPアドレスの背後に隠せる)。そして、既存のCPEにおけるNATとLSNを組み合わせると、IPv4アドレス空間でNATが二重に行われる(NAT444)。
ユーザーがピア・ツー・ピア(P2P)セッション(Skype通話からファイル共有まで、さまざまな目的で使用される)をセットアップしようとする場合や、ホームネットワーク上でパブリックサーバを構築しようとする場合、NATが1回行われるだけで悪影響を受ける。NAT444は、この問題をさらに複雑にするため、NAT444の採用を計画しているキャリア以外からは非常に嫌われている。
NAT444ソリューションの提供状況についてはLSNの項を参照のこと。
DS-Lite
DS-Lite(下図参照)では、CPEにおけるNATが不要であり、CPEはプライベートIPv4アドレスを持つIPパケットを中央LSNデバイス(AFTR:Address Family Translation Router)に転送するIPブリッジ(B4:Basic Broadband Building Block)として機能する。また、IPv6がB4とAFTR間の転送メカニズムとして、ネイティブIPv6接続のために使われる。NATがAFTRで実行されるため、B4の背後でパブリックサーバを運用することはほぼ不可能である。
提供状況
DS-Lite技術はComcastに支持されており、同社は既に各種IPv6ソリューションのフィールドトライアルを開始している。ComcastはDOCSIS 2.0/3.0ケーブルモデムを管理するために、自社のアクセスネットワークにIPv6を導入する必要がある。A10 NetworksのAFTRソリューションがComcastによってテストされ、ISCはComcastと協力してオープンソースのAFTRソリューションを開発した。
A+P
NATソリューションはすべて、「1つのIPアドレスから6万5000以上のTCPやUDPのセッションが作成できるが、一般的なIPホストが数百以上のセッションを使用することはめったにない」という事実を前提にしている。従来のNATデバイスは、多数のプライベートIPアドレスからのTCPやUDPのアウトゴーイングセッションに、同じパブリックIPアドレスプールに属するTCPやUDPのポート番号を動的に割り当てる。一方、A+Pではルールが変わり、固定された範囲のTCP/UDPポートをインターネットユーザーのCPEに割り当てる。A+Pは現在のインターネットと同様に、CPEはNATを実行し、パワーユーザーがNATとTCP/UDPポート割り当てをコントロールできるようにする。DS-Liteのように、IPv6がCPEとAFTR間の転送メカニズムとして使われるのだ。
提供状況
現時点では、実際に使われているA+Pの実装はない。
NAT64:唯一の効果的なIPv4/IPv6変換ソリューション
NAT64は、IPv6への無条件での移行を促進する唯一のソリューションである(他のソリューションはいずれも、IPv4の使用に伴う問題点が残る恐れや、さらにはエンドユーザーのIPv6への移行を阻害するおそれがある)。NAT64は、NAT-PTの良い部分を生かし、IPv6オンリーのクライアントからIPv4オンリーのサーバへのアクセスを可能にする。また、NAT-PTの幾つかの欠陥を解決し、NATの機能を、より予測可能なものにするとともに、IETFのBEHAVE(Behavior Engineering for Hindrance Avoidance)ワーキンググループが規定したようなNATの要件に対する最新の理解と整合させる。
提供状況
現時点では、公開されている実運用レベルのNAT64ソリューションはない。Viagenieがオープンソースの概念実証コードを作成したほか、CiscoとEricssonがそれぞれ自社のソリューションのフィールドテストを行っていると考えられている。
どのIPv4/IPv6変換ソリューションが最も優れているか
理論的には、NAT64が望ましいソリューションだろう。このソリューションでは、新しいクライアントでのIPv6の使用が必須となり、それがキャリアやCPEメーカーを正しい方向に向かわせるからだ。だが残念ながら、CPEメーカーにカスタム設計の機器を作らせることができないほとんどのDSL事業者やモバイル事業者は、ほかのソリューションのいずれかを選ばなければならないだろう。安価なDSLデバイスやモバイルデバイスでは、IPv6がサポートされていないことが大きな理由だ(CATV業界のDOCSIS 3.0規格とDOCSIS 2.0 + IPv6規格では、IPv6は不可欠な要素となっている)。
DS-Liteは現在ごく一部のCPEでのみサポートされており、A+Pはまだ概念実証コードも作成されていない。悲しいことに、今のところはLSN(NAT44またはNAT444環境)だけが唯一の現実的な選択肢のようだ。
本稿筆者のイヴァン・ペペルニャック氏はCCIE資格保持者(No. 1354)で、ネットワーク業界25年のベテラン。大手サービスプロバイダーのネットワークやエンタープライズWANおよびLANの設計、インストール、トラブルシューティング、運用の経験を10年以上持つ。現在、NIL Data Communicationsの最高技術アドバイザーを務めており、先進的なIPネットワークとWeb技術に注力している。著書として「MPLS and VPN Architectures」や「EIGRP Network Design Solutions」など。
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