地域医療連携ネットワークの現状(1)
地域医療の問題解決を支援する情報ネットワーク
全国各地で行われている地域医療連携。それぞれの地域が抱える医療問題を解決するためにITを活用した連携ネットワークの構築が進んでいる。
ITを活用した地域医療連携が全国各地で行われている。慢性的な医師不足や中核病院の倒産など「地域医療の崩壊」が叫ばれているが、地域が抱える医療問題はさまざまで、その解決のアプローチも異なる。
そんな中、2011年1月、全国各地で地域医療情報連携を推進している団体を中心とする「地域医療福祉連携協議会」が設立された。この協議会は、地域の医療・福祉における情報連携のより良い実現形態を目指すための意見交換の場として発足した。その発足記念シンポジウムでは、全国各地で進められている地域医療連携ネットワークの活動内容が発表された。今回から3回にわたり、それぞれの地域の活動を紹介する。
ID-LINKを活用した「道南Medlka」 北海道道南地域
北海道の道南地域では、市立函館病院を中心とする地域医療連携への取り組み「道南Medlka」が進められている。Medlkaとは、Medicineと函館の特産物であるイカを組み合わせた言葉。道南Medlkaは、ID-LINKを利用した地域医療連携ネットワークシステムとその利用者のグループを指す。ID-LINKはインターネット上のVPN回線を活用して、各医療機関の電子カルテをはじめとする医療情報システムの内容を閲覧可能にするシステムだ。
市立函館病院の下山則彦氏は「急性期医療の専門医が多い市立函館病院では、急性期を過ぎた患者の受け入れ先となる医療機関との連携に課題を抱えており、地域の医療機関間の情報連携の必要性を感じていた」と、その設立の背景を語る。市立函館病院は、2006年夏にプロトタイプの開発に着手。同年秋に回復期病院を宣言していた高橋病院との電子カルテ情報の共有に向けた取り組みを開始した。その後、2007年4月から試行運用を開始して、2010年12月現在、69の医療機関が参加している。
道南MedIkaでは、各医療機関の電子カルテやオーダリングシステムの患者IDを連携サーバのIDに名寄せして情報を管理している。自院の患者IDを把握していれば、その患者に関する他の医療機関の情報を閲覧できる。これは患者の同意を得た医療機関のみで、全ての参加機関が閲覧できるわけではない。さらに、患者が同意した場合は、医療機関はその医療情報の開示を拒否できない点も特徴だ。
参加機関が閲覧可能な情報は、開始当初は転科・退院時要約、CTやMRIなどの画像情報、オーダリング(処方、注射、検査)情報が中心だったが、回復期病院や介護支援施設などの加入が増えたことで、画像読影所見や緩和ケア相談依頼、緩和ケアチーム報告書などが追加された。
患者情報の共有が効率化したことで、患者が急性期から回復期に移る際、回復期病院が自院への受け入れの判断を迅速に行うことができる。市立函館病院では、転院決定までの所要日数が20日から13.9日に短縮された。今後の展開について、下山氏は「道南地域の医療機関は300施設。参加機関が増えれば増えるほど、よりその連携効果が期待できる」としている。
慢性疾患管理機能を追加「わかしお医療ネットワーク」 千葉県山武地域
医療過疎の状況にある千葉県の山武地域では、限られた医療リソースを活用して地域の医療課題を解決するため、1998年から地域医療連携の強化に努めてきた。同地域における糖尿病の循環型地域医療連携パスは、千葉県が2008年に策定された保健医療計画の標準モデルにもなっている。
この連携パスでは、まず地域内で唯一の慢性腎臓病の専門医が所属する東金病院でコントロール不良例の治療や合併症患者の受け入れなど、さまざまな治療や指導を行う。その後、ある一定レベルまで症状が改善された場合、事前に研修などで技術移転したかかりつけの診療所の医師に引き継ぎ、そこで定期的に受診治療を行う。その1年後に東金病院でさまざまな精密な検査を実施して合併症の進行状況などを評価し、治療方針の見直した上で再度、診療所に引き継ぐという連携を取っている。また、合併症の進行抑止を目的として、地域内の非専門医である診療所の医師を対象に、血糖コントロールのインスリン投与を指導する研修会を定期的に開催している。
その地域医療連携の基盤となるのが、2001年から採用されてきた広域電子カルテシステム「わかしお医療ネットワーク」だ。わかしお医療ネットワークでは市町村の強い要望を受けて、2009年から電子化パスへの対応に取り組み、その連携パスに合わせた慢性疾患の疾患管理機能を追加した。
千葉県立東金病院 院長 平山愛山氏は「富津市では2008年、人口の0.3%が人工透析を受け、その医療費は保険料の10%にも達するなど、単一の市区町村で負担するには困難なレベルになった」とその理由を説明した。また「糖尿病や慢性腎臓病、顕性心血管疾患などの慢性疾患を地域全体で管理し、患者の重症化を予防することが重要だ」と述べた。
わかしお医療ネットワークにおける慢性疾患の疾病管理では「ミニマムデータセット」と呼ばれる糖尿病や慢性腎臓病などの重症度を評価する指標を設定。その項目から判断した重症度に応じて層別化を行い、特に重症化のリスクが高い患者に医療費を集中させることで、その重症化を防ぐ。平山氏によると、この手法は、現在日本政府主導で進めている日本版EHR(Electronic Health Record:生涯健康医療電子記録)の取り組みの1つに位置付けられているという。
具体的には、広域電子カルテのサーバ上に疾病患者のデータベース(DB)を構築。専用回線を介して、地域の医療機関でその情報を共有化する。2011年1月現在、診療所や病院から収集した約4800人のデータが管理されている。このデータを用いて異常値を示した患者の一覧表示などが可能になり、血糖コントロール不良者および慢性疾患患者の層別化、合併症の早期診断や早期治療を支援できる。
平山氏は「最小限のデータを収集・仕分けすることで、ハイリスク患者の発見や重症化の予防という高い効果が期待できる」としている。また、今後はIT化が遅れている診療所のデータ入力を補助するため、外注の検査センターが直接データを送信できる仕組みを検討中だという。さらに「地域の医療支援では各医療機関が役割を分担し、自院の患者ではなく地域全体の患者をどう減らしていくかを考える必要がある。その実現は、ITを活用する情報連携の基盤なければできないこと。今後は、地域総動員型の疾病管理システムが極めて重要になる」と説明した。
患者参加型の「山梨マイ健康バンク」
人口90万人の約24%を高齢者が占め、慢性疾患の患者が増加傾向にある山梨県。患者の待ち時間の解消、診療時間の短縮化などを目的としたのが、NPO法人 慢性疾患診療支援システム研究会の地域医療連携ネットワーク「山梨マイ健康バンク」だ。このネットワークでは、糖尿病や慢性腎障害、緑内障、慢性肝炎、小児発達障害などの慢性疾患に関する患者の診療情報を、インターネットを介して複数の医療機関で共有して診療の効率化を支援する。
山梨マイ健康バンクは、医療機関向けの「診療支援システム」と患者向けの自己健康管理システム「電子管理手帳」で構成される。
診療支援システムでは、支援センターの慢性疾患データベース内に蓄積された患者の基本診療情報を患者や大学病院、中核病院、診療所、薬局・福祉施設などがインターネットを介して共有する。この情報を活用して病院と診療所間の連携、患者の紹介(逆紹介)、主要診療データの保管などによる効率的な診療を支援する。また、患者情報の参照権限はIDカードによる管理や認証方式を採用。患者が参加医療機関にIDカードを提示すると、医療機関は支援センターに登録されている患者情報を閲覧できる。さらに診療後は、当日の診療や検査データの結果、食事指示、投薬情報、診察メモなどを患者自身が閲覧できる。
電子管理手帳は、患者の視点で継続的な健康管理や疾病管理、治療などの取り組みを支援するシステム。患者自身が入力する服薬情報や日常生活での健康状態などを自己管理DBで管理。医師は自己管理DBと診療情報DBの両方を参照しながら、より詳細な説明や治療に役立てる。
山梨大学の塚原重雄氏によると「山梨マイ健康バンクは2種類の医療情報を一括して管理する点が特徴。患者自身が情報を参照することで、医療参加の意欲を高める効果もある」という。さらに「診療概要の自己管理や家族と連携した治療管理なども可能で、生涯健康管理ツールとして活用できる」と説明する。2011年1月現在、山梨マイ健康バンクには7県の31施設、1624人の患者が参加している。
今後は、セミナーなどの普及活動を通して、参加医療機関および利用者の拡大を目指すとしている。また、このデータを自治体の医療行政や在宅、救急、遠隔医療などに活用することを視野に入れているという。
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