IFRSを会計×業務×ITで理解する【第9回】
財政状態計算書(3):クラウド利用料金はリース資産?
IFRSに対応したITシステムを適切に構築するための情報をお届けする。今回はIFRSの大きな改正の1つでもあり、今までの考え方から大きく転換が迫られる「リース」を解説する。
これからIFRSの適用を目指す日本企業に影響が大きいと考えられる会計基準のポイントと業務プロセスへの影響、ITシステムの対応方法を解説する連載の9回目。今回はIFRSの大きな改正の1つでもあり、今までの考え方から大きく転換が迫られる「リース」を取り上げる。なお、以下の文中における見解は特定の組織を代表するものではなく、筆者の私見である。
本連載は下記の構成にてお送りする。該当パートを適宜参照されたい。
IFRSのトピックス概要と日本基準との差異を解説する。
会計基準に対応するための業務サイドへの影響と対応方法を解説する。
- Part3:ITへのインパクトと対応(本稿)
会計基準によるITサイドへの影響と対応方法を解説する。
第9回は、
- リース(IAS第17号)
について取り上げる。
リースにおける対応事項(現行基準に基づく)
日本の会計基準のコンバージェンスの結果、リースの会計処理に関してIAS第17号と日本基準との重要な差異は解消された。残る差異としては
- 解約不能リース期間の制約(75%基準)
- リース料総額の制約(90%基準)
といった数値基準の存在がある。IAS第17号が実態に基づく判断を求めていることから、これらの数値基準によらず企業側で独自に判断し、リース資産を管理するシステムの管理テーブルに反映する/しないを決定する必要がある。
いずれにしても、システム化という観点では大きな影響はないものと考えてよいだろう。
リースにおける対応事項(リースEDに基づく)
リースについては、国際会計基準審議会(IASB)で検討が進んでいるリース公開草案(以下リースED)で処理の考え方が一変しているため、対応時期と方針については十分な配慮が必要だ。リースEDは順調に検討が進めば2013年1月からの適用を予定しているため、今から準備する企業にとっては
- IFRS任意適用対象会社→報告日のタイミングによっては反映する必要あり
- IFRS強制適用対象会社(2015年以降を想定)→反映する必要あり
という扱いとなり、いずれにしてもこれらの影響を回避することは難しい。
リースEDを前提とした主なシステム上の検討事項は以下の通りである。業務上の検討事項についてはPart2も併せて参照されたい。
| 業務上の検討事項 | 検討内容(※がシステム上の検討事項) |
|---|---|
| 1. リース資産の範囲 | ・既存のリース契約の見直し ・新たにリースと見なされる契約の精査 ・無形資産や賃貸用不動産の扱い ・物件コードの見直し※ ・有形固定資産以外の対応検討※ |
| 2. 借手の会計処理 | ・オンバランス化による財務構造の変化 ・使用権資産の管理方法 ・償却計算と税務上の調整※ |
| 3. 貸手の会計処理 | ・履行義務アプローチと認識中止アプローチの選択 ・各アプローチにおける財務構造の変化 ・履行義務アプローチによった場合の損益シミュレーション※ |
1. リース資産の範囲
リースEDは、「ファイナンス・リース」「オペレーティング・リース」の区分をなくし、使用する権利の貸与に当たるものを原則としてオンバランス(財政状態計算書に計上する)ことを求めているのが大きな特徴である。
物件コードの見直し
リースEDでは基本的に「既存のリース資産」を対象とした見直しをかけているが、「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の区別がなくなったことで、その管理分類方法も変化する。具体的には物件管理コードを「ファイナンス・リース」「オペレーティング・リース」の区別をせず、統一したコード体系にて管理していくことになる。具体的には、
- 従来のファイナンス・リース物件
- 従来のオペレーティング・リース物件
- 新規のリース物件(基準適用時以降に契約が発生する)
のそれぞれについて、3を反映するための新たな物件コード体系をリースの管理システムに定義し、1と2をそれに収束させていくことになる。
ただし、これらの分類統合を一気にやる必要はなく、既存のリース物件が終了するまでは従来の管理区分のまま、新規のリース物件(特に従来区分でオペレーティング・リースに該当するもの)について新たな管理区分に順次組み込んでいく方法を取るのがスムーズである。
有形固定資産以外の対応検討
リースEDでは「既存のリース資産」(建物や機械装置など)を対象とした見直しをかけている一方で、無形資産や天然資源、生物資産といった項目については範囲から除外することを提案している。これらについてはリースEDに基づく新たな基準の適用・定着を待って引き続き検討が進むものと予想される。
これによった場合、従来IFRIC第4号(「契約にリースが含まれているか否かの判断」)で提示されているような項目、すなわち
- データ処理機能の外部委託契約
- 通信契約でネットワーク供給者が購入者に対して利用する権利を提供する契約
といった契約の扱いについては不明確な状態となる。さらに発展して、例えば「ASPサービスやクラウドコンピューティングにおける利用料金相当分をリース資産として計上するべきか?」という議論が出てくる。これらについては貸し手(ASPサービス企業など)が所有している資産の使用権を貸与し、課金を支払うという形態であることからリース資産の枠組みに含めて考えることも可能である。
これに対しては、リースEDが当面は(リース資産として利用する)有形固定資産を対象としていること、それ以外の勘定科目については当面保留としていることから基準が適用される2013年ごろにおいてはまだ考慮する必要はないと考えてよいだろう。
2. 借り手の会計処理
リース資産について、借り手側に生まれる影響は以下の通りである。
償却計算と税務上の調整
リースEDでは償却期間は原資産の耐用年数とリース期間のいずれか短い方に基づいて規則的に償却することを求めている。経済的便益の消費パターンが信頼性をもって決定できる場合は定率法の採用が可能であるが、そうでない場合は定額法を採用することとされる。
この考え方は会計処理の面で日本基準と食い違いがないため影響が少ないが、税務処理(法人税の取扱上)の面では依然として所有権移転/移転外リース取引の区別が残っていること、いずれかの形態によって償却方法が規定されていること(例えば所有権移転外リース取引はリース期間定額法による)などの差異が依然として存在し続けることになる。会計上定率法を採用したりリース期間より短い期間で償却を行ったりしている場合には、会計上の償却金額と税務上の償却金額が異なる結果になる。
このような局面において税務側がIFRSを意識して今後、税制を改訂することはあまり期待できないため、(リースEDに基づく)償却金額と税務上の償却金額の乖離については調整計算が必要となる。これを
- 申告書上での調整
- 償却計算テーブルの二重化
のいずれかで対応するかによって、システム化への影響が変わってくる。仮に後者の「償却計算テーブルの二重化」によって対応する場合には、「償却期間」「償却方法」「残存価額」といったデータについて「会計処理向け」「税務処理向け」の2つを保持し、償却計算も別途行う仕様になる。
3. 貸し手の会計処理
リース資産について、貸し手側に生まれる影響は以下の通りである。
履行義務アプローチによった場合の損益シミュレーション
貸し手の会計処理では「履行義務アプローチ」「認識中止アプローチ」の2つの考え方が採用されている。特に収益認識(リース会社の収益源)において、下記の違いがある。
履行義務アプローチ:
- リース収益をリース期間にわたって規則的に認識する
- 原資産は貸手が保持するためリース費用を売上原価として認識しない
- 原資産の帳簿価額に対応した減価償却費を規則的に認識する
認識中止アプローチ:
- リース収益をリース契約時に全額認識する
- 認識中止に伴うリース費用を売上原価として認識する
- 原資産は認識中止されることから減価償却費を認識しない
これにより、いずれの方法を取るかによって収支バランスが大きく変化することになり、ITシステムも影響を受ける。履行義務アプローチを採用した場合には「収益が遅めに計上される」「総額としての利益は大きくなる」となり、認識中止アプローチを採用した場合には「収益が早めに計上される」「総額としての利益は小さくなる」という傾向になる。
どちらの方法を採用するかについては、原資産に伴うリスクと便益を貸手が留保しているかどうかで決まるため(留保している場合は履行義務アプローチを採用する)、現状およびこれから契約するリース物件がどちらに該当するか、その場合の収支がどう変化するかのシミュレーションを早めに行っておきたい。
以上、リースの会計処理におけるシステムの対応方針について解説した。適用時期に向けた動きに注視しつつ、自社の適用タイミングを慎重に見極めていきたい。
原 幹 (はら かん)
株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役
公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)
井上斉藤英和監査法人(現あずさ監査法人)にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社を経て、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識および会計/IT領域の豊富な経験を生かし、多くの業務改善プロジェクトに従事する。共著「会計士さんの書いた情シスのためのIFRS」をはじめ、翻訳書やメディア連載実績多数。
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