災害・救急医療分野のIT化最新動向(後)
救急医療を効率化するIT活用プロジェクト「GEMITS」
災害・救急医療の現場でITはどう活用されているか? ドクターヘリと救急車を統合した効率的な救急医療体制の構築を目指す取り組みを紹介する。
前回の「物言えぬ患者の代理人となる医療情報カード『MEDICA』」に続き、ITを利用して世界トップクラスの災害・救急医療体制の開発を行っている岐阜大学 高次救命治療センターの救急医療体制支援システム構築プロジェクト「GEMITS」(Gifu Emergency Medical supporting Intelligent Transport System)を紹介する。
GEMITSでは現在、5つのプロジェクトが進行している。その全体の基盤となるのが、救急医療情報カード「MEDICA」だ。残り4つのプロジェクト「病院前連携」「病院間連携」「階層別トリアージ」「緊急介護連携」は、MEDICAを情報連携の基盤として利用している。岐阜大学 高次救命治療センター長である小倉真治氏(岐阜大学大学病院 救急・災害医学分野 教授)にそれらのプロジェクトの概要と災害・救急医療のIT化における今後の展開を伺った。
現場と病院を結ぶ“病院前連携”
経済産業省の委託研究開発「車載ITを活用した緊急医療体制の構築」事業でもある病院前医療連携プロジェクトは、救急の現場と救急病院との情報連携を支援する。その中継基地の役割を担うのが、車両通信システムを搭載した救急車だ。救急車が現場から情報を配信し、常時接続している通信センターが現場情報と救急病院の医療資源情報をマッチングして患者の最適な搬送先の判断や指示を実施する。搬送先の医療機関では、現場からの患者情報を事前に提供してもらうことで、受け入れ準備を整えることも可能だ。
このプロジェクトでは現在、位置検知システムを利用して医師やスタッフの位置情報から各病院の繁忙度を推定するシステムを開発している。医師やスタッフの状態を「手術中」「待機中」などの通信センターでリアルタイムに表示し、各病院の状況を統合エージェントシステムで一括管理・制御する。
GEMITSは現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で救急車や救急医療用ヘリコプター(以下、ドクターヘリ)における衛星通信による連携システムを開発しており、JAXAの災害救援航空機上方共有ネットワーク「D-NET」との連携を進めている。
D-NETは大規模災害が発生した場合、被災地周辺に集結した航空機と災害対策本部などとのデータ通信による情報共有や最適な運航管理を支援するシステムだ。ドクターヘリに生体情報モニターや衛星通信装置などを搭載し、ドクターヘリと救急車を統合した効率的な救急医療システムの構築を目指している。
2011年3月の東日本大震災では、地上の携帯電話通信局が機能せずドクターヘリと地上の救助隊との通信が困難になっていた。しかし、岐阜大学のドクターヘリではイリジウム携帯電話を搭載していたため、正確な情報通信を行っていた。小倉氏は「正式運用前であったが、効果的に機能していた」と説明する。
最適な搬送先を探す“病院間連携”
病院間連携プロジェクトでは、岐阜県内6市の二次・三次医療機関8拠点を「GEMITSネットワーク」で連携して患者情報を共有し、搬送先や応急処置などの緊急判断の迅速化・適正化を図っている。
また、最初に搬送された病院での検査によって、別の搬送先を探すこともある。その場合でも、CTやMRIなどの検査結果を病院間で連携可能だ。さらに、複数の医師やスタッフ間で過去の診療情報などを含めた患者情報の共有を迅速に実施できる点も病院間連携のメリットの1つだといえる。
階層別トリアージ
MEDICAを基盤とするID連携は、階層別トリアージの運営にも利用されている。家庭内の患者自身による「一次判定」、連絡を受けたコールセンターが行う「二次判定」、救急隊員の「三次判定」、病院による「四次判定」のそれぞれの救急情報をIDで連携してデータセンター側で統合的に収集する。救急情報の集積化によって、医療現場での対応時間の大幅な短縮を実現するという取り組みだ。既に北海道札幌市の周産期医療支援にも利用されている(関連記事:地域医療の問題解決を支援する情報ネットワーク)。
また、このトリアージシステムを大規模な災害時に利用すると、被災患者の一次・二次トリアージ結果や搬送先病院、病院ごとの受け入れ総数、担当医師やスタッフなどの詳細な情報を収集したり、その状況をリアルタイムに表示できる。
介護サポートサービスを実現する“緊急介護連携”
緊急介護は、医療機関と介護施設間で要介護者の情報を共有することで、緊急入所や緊急搬送の迅速化や適正化を図るプロジェクトだ。MEDICAと要介護者の患者情報や介護情報、介護施設情報を保有する「介護支援情報ネットワーク」とがID連携する緊急介護支援情報システムを構築。退院後に介護サービスを受ける場合、これまでの既往歴などの医療情報をスムーズに共有する介護サポートサービスを提供可能だ。
患者情報は誰のもの?
また小倉氏は、診療情報の保存が医療機関に限定されてきた各種ガイドラインの影響もあり、「患者情報は医療機関のもの」という認識が持たれていたと指摘する。しかし、自身が主査を務める「医療情報化に関するタスクフォース」では「そもそも医療の情報は誰のもの?」という問いに対して「患者のもの」と宣言している(関連記事:災害時に患者の診療情報はどうあるべきか?)。
小倉氏は「患者情報は患者のものである」という前提を踏まえて「物言えぬ患者の代理人として機能するMEDICAや医療情報システムを開発している」と説明する。さらに「患者に最適な医療を提供するために必要な情報や医療リソースを、どれだけ的確かつ迅速にマッチングさせるかが大事」であるとし、今後もそうした医療提供体制の構築を支援する活動に取り組むとしている。
ロールモデルの全国展開を目指し、コンソーシアムを設立
2011年7月、GEMITSの思想や構築したロールモデルの全国展開を目指すコンソーシアム「GEMITSアライアンスパートナーズ」(GEMAP)が設立された。GEMAPにはNTTデータや沖電気工業、デンソー、東レメディカル、トヨタ自動車、日本光電工業などの企業や東京電機大学や岐阜大学などが参加。小倉氏が会長を務める。小倉氏は「各地域の医療情報システムとのオープンな連携を目指すとともに、利活用できるアプリケーションの整備・推進を図る」と意気込みを語った。
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