【IFRS】プロジェクト成功の切り札「PMO」活用法【第1回】
実は知られていない「PMO」の基本的な役割
IFRS適用をはじめとして企業では多数のプロジェクトが走っている。だが業務の複雑化やグローバル化によってプロジェクトの難易度が上がっている。その中でプロジェクトをどう成功させるか。「PMO」活用法をお届けする。
企業におけるプロジェクトは運営の難易度がますます高くなる傾向にある。昨今のビジネス環境の変化を受け、プロジェクトのグローバル化やマルチベンダの参加、アウトソーシング活用によるメンバーの多様化といったプロジェクトを複雑化させる要因が増加しているのだ。
IFRS導入プロジェクトも、業務プロセスやITに広く影響を及ぼす複雑で長期間の取り組みとなり、本社機能だけでなく、グループ会社、国内外子会社など、多岐に渡るステークホルダーとの調整が必要となる組織横断のプロジェクトとなるだろう。このような高難易度のプロジェクトを成功に導くためにはプロジェクトマネジメントオフィス(以下PMO)の存在が不可欠だ。
PMOはプロジェクト全体の共通基盤を築き、プロジェクトリーダーやマネジメント層を支える形で統制・管理を行うと同時に、組織横断の調整を図る。
PMOは、企業のガバナンスのあり方やプロジェクトの特性によってさまざまな参画・関与の仕方がある。本稿では弊社がPMOとして現場で支援した例を踏まえ、PMOを類型化し、プロジェクト計画の策定と本格始動に向けたアドバイスとして、プロジェクトを円滑に立ち上げ運営していくための推進上のポイントを示したい。
PMOに求められる役割
PMOの主要な3つの機能
プロジェクトを円滑かつ着実に実行していくために必要なPMOの役割は非常に多岐に渡る。プロジェクト立ち上げ時の管理の枠組み策定と展開、運営段階における意思決定の支援などだ。特に大規模かつ複雑な形態のプロジェクトとなれば、複数プロジェクトを束ねる全体俯瞰的な管理の枠組みが必要となる。PMOに求められる機能は3つの領域に大別できる。
(1)戦略・統括機能:意思決定プロセスやガバナンス、レポーティングの仕組みを確立し、マネジメント層が投資・コストの最適配分や、サブプロジェクト間の優先順位に応じた意思決定を行うために必要な情報と仕組みを提供する役割を担う。経営者層の理解や関与が不十分である場合には、プロジェクトにおける意思決定や利害の調整が難しいものとなるだろう。PMOは調整役となり、経営・業務・IT部門が一体となったプロジェクト推進を目的に、ステアリングコミッティなどの体制確立をすることが求められる。
(2)実行・推進機能:プロジェクトの実行計画作成、設計開発標準策定、テスト・移行計画・推進など、コンテンツに踏み込んだ支援業務を担当する。プロジェクトの形態や状況によって、PMOとしての関与度合いが変動するが、実行計画策定やテスト・移行計画策定・推進など、システムとユーザーに跨る作業を取りまとめて推進する役割が求められる。また横断課題の解決や個別領域のテーマ検討など、リクエストベースで支援を行うこともある。
(3)管理・運営機能:進捗・課題管理などの管理標準を整え、会議体の運営の他、メンバーが円滑に作業するためのファシリテーションと情報連携を支援し、継続的なモニタリング・可視化を行う。現場への管理負荷や適用価値を図りながら、プロジェクトの状況や工程に合った形で展開する工夫がPMOの役割として期待される。特にIFRSのように、業務ユーザーがプロジェクト主管となることが多い取り組みの場合、ユーザー側のマイルストーンを明確にし、IT部門側のスケジュールとの整合性を意識して管理することが重要だ。
上記機能については、それぞれ、PMOに対して期待されるスキルや経験レベルも大きく異なってくる。戦略・統括機能には、リーダーシップを支える参謀的な能力と企画・調整力が必要とされるが、管理・運営機能は、プロジェクト状況の可視化とモニタリング、ファシリテーションスキルが必須だ。一方、実行・検討支援は、システム開発における高度な経験・知見が求められ、プロジェクト規模・形態やソリューションなどにより必要な支援工数も変動する。品質を保ちつつ効率よく運営していくために、役割と機能の明確化と、各役割にあったスキルを持つ要員を配置することが重要だ。
工程別にみるPMOの作業
これまで述べてきたような機能に対して必要な役割や適性を考慮して要員を配置していくこととなるが、プロジェクトにおける各工程で、PMOとしてどのような支援作業が発生するかを示す。
PMOは、プロジェクト計画段階から、どのタイミングでどのような作業が必要となるか、プロジェクトマネジメントにおける必要な作業をWBS(詳細作業計画)として定義し、常に先回りして全体を仕切るように動くことが重要だ。
ここで記載している内容は、PMOが主体となって実施するというより、業務ユーザーやIT部門が主体となって進める作業も多い。PMOの役割は、プロジェクトの潤滑油として、各工程における業務ユーザーやIT部門における主要な作業を識別の上、あらかじめ計画に盛り込み、プロジェクトメンバーが計画通りに作業が進められるよう推進していくこととなる。
PMOの類型化 〜プロジェクトタイプ別にみるPMO設置事例
プロジェクトの特色によってPMOに期待される役割もさまざまであるが、プロジェクトの特徴やミッションに応じて以下の5つのタイプに類型化し、それぞれの推進上のポイントを整理する。
(1)システム開発プロジェクトPMO:一般的なシステム開発プロジェクトに設置されるPMOである。大規模プロジェクトは、管理しやすい単位にサブプロジェクト化されることが多い。PMOが中心となり、サブプロジェクト間の整合性を確保し、スケジュールや担当スコープの明確化と全体計画策定を行う。昨今はグローバル規模でのプロジェクトや、マルチベンダやオフショアを含めた複数サイトでの開発が主流となっている。PMOはメンバーの多様化を踏まえて、文化や手法の違いによる行き違いを防ぐ各種標準策定と、統合的なプロジェクト管理の仕組みを早期に立ち上げることも重要なミッションとなる。
(2)統合PMO:複数プロジェクトを束ねて推進するプログラム管理的な特色が強いPMOである。合併・統合などの企業再編によるシステム統廃合や、業務プロセス再構築といった全社レベルの取り組みを行う際に配置される。合併・統合においては、トップ間で大方針レベルの合意が形成されていても、各論ベースでの方針・戦略まで調整されていないことが多く、経営・ユーザー・IT部門間の決定・調整スキームを整備することが重要である。また、実務者レベルでは現業の利害を優先しがちなために調整が難航することも多く、組織に縛られずに部門を跨る調整機能としてPMOの活躍が期待される。現場レベルできめ細やかにフォローするためにも、システム開発プロジェクトPMOや、テーマ別検討支援PMOを傘下に配置し、「複合型PMO」として、全体最適を意識した推進体制を構築することがプロジェクトの成否に大きく影響するだろう。
(3)テーマ別検討支援PMO:領域横断の共通テーマ検討や、部門横断で調整が必要なテーマを持ったタスクフォースとして結成されるPMO。問題発生領域に対する火消し部隊的な捉え方をされがちだが、個別テーマに特化した集中検討が必要な難易度が高い領域でも活躍する。テーマ別検討支援PMOは、横断検討領域をプロジェクト計画段階から議論し、あらかじめリスクを見込んだ必要な体制として設置タイミングと必要コストを見極めることが、予算管理上の観点からも重要である。
(4)コーポレートPMO:プロジェクトマネジメント力の向上を目的として、IT企画部門など企業全体における管理インフラを維持するミッションを持った部署に設置されるPMO。会社・組織全体のプロジェクト選定や優先順位付けなどのプロジェクトポートフォリオの管理や、投資・予算計画・管理支援機能を持つ。プロジェクト管理標準やアセット整備、教育展開を担い、標準類をただの“教科書”で終わらせないよう、現場からフィードバックを受けて改善するプロセスを定着化させることが重要な役割である。また、コーポレートPMOは単体プロジェクトではなく組織内に配置され、継続的なプロジェクト管理高度化に貢献する役割を持つ。
(5)第三者評価型PMO:プロジェクトの品質保証活動を行うことをミッションとするPMOである。客観的評価ができるようプロジェクト推進側のPMOから分離した体制とするのが一般的だ。例えば、金融業では金融庁によるシステムリスク管理態勢の確認検査における基準への対応が求められることが多い。この場合、形式要件を満たすだけではなく、これらの基準が意図する本質的な内容を見据え、プロジェクト品質・リスクに対するアクションを明確化する役割が第三者評価型PMOには求められる。また、工程完了タイミングにおける品質保証活動のみならず、各工程内での品質を保つための定期点検(月次レビュー)を組み合わせ、工程完了時点で手遅れにならないよう、問題の早期検知を行うことも要求される。
ここまで述べてきた類型は典型的な例を示しているが、PMOはプロジェクト内容に応じてさまざまな形態を取り得る。プロジェクトの目的に合わせ、最適な配置を議論し、その企業・組織に適したPMOの姿を計画段階に定義することが重要である。
プロジェクトの早期始動や効率的な立ち上げを考えた場合、PMOは企業風土やメンバーの状況を理解しながら、プロジェクトという目的達成に向けた中立的な判断を行うことができる。また、経験豊富なコンサルティングなど専門家の活用も有効な手段となるだろう。
IFRS導入プロジェクトは、ステークホルダーの多い全社的な取り組みであることから、上記で述べたような類型のいくつかの要素を合わせ持つ複合型のPMOの形でプロジェクト推進体制を構築することになるだろう。今回は一般的なPMOの役割や類型について考察してきたが、次回以降、上記PMO類型に基づく具体的な事例や、経営や業務ユーザー視点を踏まえたプロジェクト推進上のポイントについて考えてみたい。
岡本美保(おかもと みほ)
アクセンチュア株式会社 テクノロジー コンサルティング本部 金融サービスSIグループ プロジェクト管理・プロセス改善プロフェッショナル シニア・プリンシパル
日本総合研究所を経て、1999年アクセンチュア入社。金融機関におけるシステム開発およびプロジェクト管理のプロジェクトに参画経験多数。プロジェクト管理・開発プロセス改善コンサルティングやCMMIコンサルティング、PMO支援の他、社内外における品質改善活動推進に従事。プロジェクト管理スキーム立ち上げ、システム開発プロセス改善を強みとしている。 著書に『CMMI 基本と実践』(アクセンチュア共著)。
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