米物流企業が直面した無線LAN障害の意外な原因
無線LAN障害の原因はチーズ? 解決策は「Wi-Fiビームフォーミング」
無線LANがつながらない。調査を進めると、原因は冷蔵倉庫内のチーズの塊だった――。担当者であれば笑えない、こうした課題に直面した米物流会社が選んだ解決策とは?
無線LANのパフォーマンスの優劣は、何よりも無線LANの設計に依存する。だが、環境の物理的性質が毎日大きく変化するようなケースでは、環境に完全に合致したネットワークを設計することは不可能だ。しかし「Wi-Fiビームフォーミング」のような高度な技術を利用すれば、こうした変化にも対応できる無線LANの設計が可能になるかもしれない。
米物流企業のWOW Logisticsでは、この問題に対処するために、Wi-Fiビームフォーミング機能を備えた米Ruckus Wirelessの無線LAN製品を導入した。
WOWはウィスコンシン州やイリノイ州、アイダホ州に十数棟の巨大な倉庫を保有し、これらの倉庫から毎日のように製品を搬入・搬出している。倉庫を利用する顧客も絶えず変化する。WOWのネットワーク管理者を務めるデイブ・クリスチャンソン氏は、2年前に同社に入社したとき、社内の無線LANのパフォーマンスはひどい状態だったという。
「エンドユーザーに話を聞くと、接続が切れたり反応が鈍いといった不満があることが分かった。そのため、全ての倉庫に出向いてサイトサーベイ(電波調査)を行い、ヒートマップ(電波対応範囲図)を作成した。すぐに明らかになったのは、調査結果が月ごとに大きく変化するということだった」とクリスチャンソン氏は話す。
「ある冷蔵倉庫は、製品を保管する奥行き4列、上下5段のドライブイン型ラックが配備されている。サイトサーベイを実施したとき、これらのラックには約300キロの金属ケース入りチーズが保管されていた。チーズは20~40%が水分だが、無線周波数(RF)信号は水を通り抜けることはできない」(同氏)
顧客がこうした巨大なチーズの塊を倉庫に持ち込むと、無線LANに障害が発生することがあるという。1週間後にチーズが搬出されると、ネットワークが回復した。WOWの在庫管理システムは無線LANに依存しているため、無線LANのパフォーマンス維持は必須条件だという。
WOWでは、無線LANで多数のサービスを配備することを計画していた。その1つが、米Motorola Solutionsの「TEAM Enterprise Wireless Badge」を用いたWi-Fiベースのプッシュ・ツー・トーク型通話システムによって、高コストのトランシーバーを置き換えるという計画だ。クリスチャンソン氏は、変化の激しい環境に対応できる無線LANデザインを考案する必要があると判断した。
無線LAN障害を防ぐ Wi-Fiビームフォーミング
WOWのIEEE 802.11a/b/gベースのネットワークがアップグレード時期を迎えたのに伴い、クリスチャンソン氏はMotorolaを含むベンダー各社に自社の無線LAN設計の問題に対する解決策を求めた。多くのベンダーは、RF信号が遮られない経路をWi-Fiクライアントまで確保できるようにアクセスポイントを設置する必要があると主張した。だが大量のチーズや衣料品のケースが毎日のように積み上げられたり搬出されたりするような環境では、こうしたアプローチは現実的ではなかった。
「電波の送受信経路を確保する必要性は理解している。とはいえ、当社には約4万5000平方メートルの倉庫が13棟ある。製品が動かされるたびに高さ12メートルに設置したアクセスポイントを移動するのは非現実的だ」と同氏は話す。
クリスチャンソン氏がインターネットで調査したところ、Wi-Fiビームフォーミング技術の存在を知った。Wi-Fiビームフォーミングは、Wi-Fiクライアントの信号強度のデータを分析した上で、802.11n無線アクセスポイントにおける複数のアンテナの出力を調整することにより、Wi-Fiクライアントへの最適な信号経路を形成する技術だ(ビームフォーミングについては「無線LANアンテナを理解する PART3」も参照)。
Wi-Fiビームフォーミングは「MIMO(Multiple Input Multiple Output)」とは異なる。MIMOは独立した複数の信号をWi-Fiクライアントに送信する技術で、Wi-Fiクライアントのデータは使用しない。Wi-Fiビームフォーミングは、絶えず変化するWOWの倉庫環境に柔軟に対応できる無線LANを構築するのに役立つ技術だと同氏は思ったという。
クリスチャンソン氏の調査では、米Ruckus Wirelessと米Cisco SystemsがWi-Fiビームフォーミング製品を提供していると分かった。だが同氏は、それ以外のMotorolaや米Aruba NetworksといったベンダーにもRFP(提案依頼書)を送付した。同氏によると、入札金額が最も低かったのはRuckusで、同社製品のパフォーマンスが最も高いように思えたという。
WOWのネットワークアップグレードの第1フェーズは、同社最大の倉庫を対象として2012年1月にスタートした。クリスチャンソン氏は、旧タイプのMotorola製アクセスポイントを1台ずつ入れ替える作業に着手。倉庫内には802.11nベースのWi-Fiクライアントは非常に少なかったが、ユーザーはすぐに性能向上を実感したという。
「アップグレード作業初日にMotorola製機器を入れ替えている途中で、何もかもが大幅に速くなったと皆が話していた」と同氏は振り返る。「MotorolaのMC9090(携帯型RFIDタグスキャナ)の診断機能で平均接続速度を知ることができる。802.11a/b/g製品を導入した当初、接続速度が11Mbpsを超えることはなかった。しかしRuckus製品を導入すると、測定値の98%が54Mbpsという結果になった。残りの2%は48Mbpsだった」
クリスチャンソン氏は2012年2月、さらに2棟の倉庫にRuckus製品を導入。2012年内は引き続き導入を進めるという。Wi-Fiビームフォーミングで無線LANの信頼性が高まったため、同氏はさらに多くの無線アプリケーションやサービスをネットワークに配備しようと考えている。
同氏は現在、WOWの冷蔵倉庫向けの新しい無線型温度・湿度センサーシステムをテスト中だ。倉庫内の温度と湿度を常に把握するためだという。
「現状では、倉庫管理者が定期的に巡回して温度と湿度の測定値を読み取っているが、これを自動化しようと思っている。全ての冷却装置にバッテリー駆動のWi-Fiセンサーを取り付け、管理者が画面のボタンをクリックするだけで測定値が表示され、Excelファイルで出力されるようにしたいと考えている」
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