内外システムの融合でセキュリティを強固に
【事例】レスポンス悪化やトラブルを解決――資生堂の仮想デスクトップ導入奮闘記
資生堂は販売子会社で仮想デスクトップを大規模に導入した。深刻なトラブルに見舞われながらも、3500台のPCを一括してDaaSに移行。本稿では、その奮闘記をプロジェクト成功のポイントとともにリポートする。
「なんでこんなもの入れたの」「なんでこんなに動かないの」――2011年11月初旬、資生堂 情報企画部の毛戸一彦氏は、都内のある事業所で40人ほどのユーザーに囲まれ、こう責め立てられた。
資生堂の国内販売子会社、資生堂販売においては当時、営業職や内勤社員が利用する3500台のPCを仮想デスクトップに移行させているさなかだった。だが、その事業所では新しく用意した仮想デスクトップ端末の3分の2が使われていなかった。古くて遅いクライアント端末と比べても使い物にならなかったのだ。
「謝るしかなかった」(毛戸氏)。
2011年末には完了させるはずだった仮想デスクトップ端末導入を即座に中断。それから2カ月は連日連夜、ベンダーと検証と会議を繰り返す“地獄の日々”だった。
内外システムの融合でセキュリティ強化
従業員1万6300人(8割は店頭の販売員)を擁する資生堂販売では、急速に進んだIT投資の結果、多分にもれずITインフラが複雑化していた。そのIT環境を開発・保守する親会社IT部門も人員が限られており、合理化は待った無しだったのだ。
2005年ごろからサーバ集約やネットワーク再構築が進められた。その情報インフラ見直しの総仕上げとして、仮想デスクトップ導入が決まったのだ。PCの運用負担、コストを減らすのが狙いなのはもちろんだが、最大の理由はセキュリティである。
当時、資生堂は2012年4月に向けて、新しいWebサイト「watashi+」のオープンを計画していた。Webカウンセリング、オンラインショップ、ポイントプログラム、店舗ナビなどのサービスを会員に提供し、Webを介して顧客や店舗と直接つながる。「外と内の仕組みがどんどん融合し、今後はFacebookやTwitterとも連携していくだろう。顧客の個人情報を扱うことになるwatashi+のオープンを念頭に、社内のPCセキュリティを一層強固にしなくてはいけない」(毛戸氏)
デスクトップ仮想化の導入状況に関する記事
最終候補3社の提案実現性を見極める
仮想デスクトップは新しい技術だけに、ベンダー選定には慎重を期した。2010年11月、「要求通り動きさえすれば、インフラ形態に拘らない」との方針の下、9社に提案依頼書を出し、そこからまず3社に絞り込み、2カ月間にわたり提案の実現性を見極める検証を重ねた。もちろん実機・実地での検証も行った。その結果、「問題解決の対応が早い」という理由で新日鉄ソリューションズ(NSSOL)を選ぶ。
NSSOLの提案は「Citrix XenDesktop」を利用した仮想デスクトップ。サーバで実行する仮想マシンの画面情報を送信する「仮想PC型」と、サーバ上のデスクトップイメージを遠隔起動してローカル処理する「ネットワークブート型」と2つ方法で、自社データセンターを介して仮想デスクトップを配信する。つまり、プライベートクラウド型のDaaS(Desktop as a Service)である。組み込みOS「Windows Embedded」を組み込んだ特注シンクライアント端末とヘルプデスクの供給も手掛ける。
NSSOL ITインフラソリューション事業本部の稲葉英治氏はこう話す。「資生堂販売は全国に拠点があり、通信帯域を確保しにくいところもあるため、(必要な通信帯域が小さいとされる)ICAプロトコルのCitrix XenDesktopを選んだ。既存デスクトップ環境の継続を第一に考え、サーバOSに依存するXenAppではなく、XenDesktopを採用した」
大震災の影響で見切り発車を迫られる
2011年3月に導入プロジェクトは始まった。慎重にベンダーを選び、提案の実現性は十分見極めたはずだったが……プロジェクトは予想外に難航した。
2011年8月には、進捗の遅れから体制見直しを迫られる。資生堂販売では、営業支援、企画・施策などで120種もの業務アプリケーション(サーバホスティングは資生堂データセンター)を利用し、これに一般的なクライアントソフトが加わるデスクトップ環境は非常に複雑だった。「いろんな問題が発生していたが、さまざまな要素が絡んで原因特定が難しかった」(毛戸氏)
2011年3月に起こった東日本大震災も災いした。ネットワーク構築が遅れ、2011年10月からの運用開始を前にして、総合検証に2週間しかかけれなかったのだ。そもそもクライアントPCのリース切れに合わせたスケジュール。何千万円もの損害が発生する計画延期は「あり得なかった」のだが、この“見切り発車”のツケは重かった。
PCの代わりに仮想デスクトップ端末を配り始めて1カ月、5段階で3500台を配る計画の3段階を終えたあたりでせきを切ったように問題が起こり出した。「導入の展開が速すぎて、本番で発生した課題をつぶし切れなかった」(NSSOLの稲葉氏)。2011年11月の1カ月でヘルプデスクへの問い合わせ件数は1200件に達し、その3分の1がレスポンスに関するものだった。エンドユーザーの不満は限界を超えていた。それが冒頭の場面である。
2カ月間の奮闘で4つの問題に集中対処
結局、2011年12月末に全面運用に入る計画は延期し、仮想デスクトップ端末の配備をいったん中断して問題解決に集中することになる。主な問題点は、ログオン集中によるレスポンス悪化、一部のアプリケーションとプリンタ、USBデバイスの動作不具合の4つだった。
出勤時のログオン集中による負荷増大は予想されていたが、想定よりも集中した上、ストレージ性能が計算したほど出なかった。ログオンを分散させるため、夜間に自動ログオンするプログラムを開発し、NSSOLはデータセンター資源の増強も行った。
アプリケーションの動作不具合は、「Adobe Flash」を使用したものに出た。シトリックス・システムズ・ジャパン、日本マイクロソフトを交えて調査したものの原因が分からず、マスターイメージを作り直して何とか不具合を封じ込めた。プリンタの特定機種で両面印刷などの設定が反映されない問題は、ドライバの不具合が原因だった。プリンタベンダーにドライバソフトの改修依頼をし、時間はかかったが対応した。
USBデバイスについては、USBメモリやバーコードリーダーなど多種の製品が使われており、仮想デスクトップ環境では動かないものが幾つも出てきた。ただ、それを逆手に取り、「セキュリティを強化するなら、外部記憶デバイスの使用は制限すべき」と、業務でどうしても必要なものだけを許可し、“原則禁止”でユーザー側と調整していった。
導入プロジェクトから得た教訓
4つの問題は年をまたいだ2カ月間でほぼ解決した。2012年1月中旬から仮想デスクトップ端末配備を再開し、2012年2月から3500台の全面稼働に入った。プロジェクトは大幅な遅れにならずに済んだ。その背後では、資生堂IT部門とNSSOLの奮闘があったのは言うまでもない。
システムは全面稼働後、安定している。その証拠にヘルプデスクへの問い合わせ件数は月を追うごとに減り、2012年6月には400件ほど、レスポンスに関するものは数十件にまで落ち着いた。思い切って導入を中断、問題に集中対処したのは正解だった。
毛戸氏は今回のプロジェクトで得た教訓をこう語る。「仮想デスクトップはさまざまな技術要素が絡み、リスクは高い。開発ベンダーだけでなく製品ベンダーとも日頃から関係を築いておくべきで、制約がある中でも事前検証はとことんやる、やり過ぎることはない。そして(導入中も後も)ユーザーの声をダイレクトに聞き、即座に対応する体制が必要」
苦労しながらも、PC 3500台をDaaSで仮想化したチャレンジは意義深い。他のグループ企業が仮想デスクトップを導入する際のモデルケースとなるからだ。資生堂は社内外のシステムが融合する時代に向けて大きな技術資産を手に入れたといえるだろう。
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