運用実績7年の自治体モデルケース、コストも解明!
TCO削減で9億4000万の投資を回収した 和歌山県のシンクライアント導入事例
和歌山県は、2004年より約4000台の行政事務PCをシンクライアント化。2世代目となる現行システムには従来比5割増となる約9億4000万円のコストを掛けたが、それに見合う成果が得られそうだ。
都道府県の自治体で最大級のシンクライアント環境
和歌山県が情報セキュリティ強化を狙って行政事務PCのシンクライアント化に踏み切ったのは、今から7年前の2004年10月だ。会計などの基幹業務向け専用PCと違い、行政事務PCは職員1人に1台に行き渡り、150以上の出先機関を含む全庁で約4000台に達する。自治体でこの規模のシンクライアント運用は今でも最大級だ。
シンクライアントの仕組みは、クライアントソフトをWindows Server上で実行し、画面情報のみを端末に転送するサーバ集中型コンピューティングだが、端末に汎用PCを活用しているのが特徴といえる。
県のIT部門である企画部企画政策局情報政策課の谷口素紀氏はこう話す。「2004年当時、シンクライアント専用端末はまだ高価だった。リース期間が残る既存PCを流用してコストを抑えることを選んだ。また、通常のWindowsマシンとしての余地を残すことで、情報セキュリティと使い勝手をバランスさせられるという面もあった」
サーバ上で実行するクライアントソフトは、全職員が利用するMicrosoft Word、Microsoft Excel、一太郎といったOfficeソフトなどだ。一方でローカルのWindows環境では、特定の事務と結び付いた、サーバ集中型のメリットが小さいソフトウェアを実行する。
2つの環境を2種類のICカードで切り分けて使う。前者には全職員が携帯する職員証カード、後者には部署単位で管理する専用カードを用いる。職員が勝手にローカル環境を利用できるわけではなく、ソフトウェアのインストールもIT部門で統制しているので、情報セキュリティは担保されている。
PC1台当たり16万円のTCO削減効果も
和歌山県はシンクライアント基盤のハードウェア/ソフトウェアを5年リースで調達しており、2009年10月にシステムを更新しているが、その前に、システムの有効性をゼロベースで見直すため、外部業者に委託して効果検証や他方式との比較検討を行っている。その結果は公開されていないが、「シンクライアントは十分な費用対効果があると判断した」(同課の品田秀樹氏)。
第1期(2004年10月~2009年9月)のシンクライアント基盤費用は、システム構築とハードウェア/ソフトウェア賃貸で総額6億3000万円だった。単純に計算すると、5年間のライフサイクルで端末1台当たり16万円ほどのTCO削減があれば元は取れたことになるが、次のような効果があったとする。
- 調達するビジネスPCが標準品からローエンド品になった
- 従来はPC管理だけで6人の担当がいたが、3人でシステム全体を運用できるようになった
- PCの障害件数が減り、保守料金の料率が下がった
- 情報セキュリティの強化
- ユーザー負担が減った
定量的にコスト換算できない部分もあるが、毎年職員の3分の1が異動するという環境を考えれば、シンクライアント化による集中管理の効果は大きいだろう。
ただ、第1期には大きな課題もあった。同課の大美厚之氏がこう振り返る。「サーバのメモリ不足からスワップが頻繁に起こり、性能問題を引き起こしていた。接続が集中する出勤時は、ログオンに10分以上かかる場合もあった(参考:仮想デスクトップ一斉起動時の速度低下を解消するSSD)。また、個人のデータはNASに格納していたが、割り当てた容量を使い切るユーザーが現れ、端末にHDDを外付けして対処していた。当時としては、それなりのリソースを用意したつもりだったが、旺盛なIT活用に追い付かなかった」
ハードウェア拡張で性能問題をクリア
第2期(2009年10月~2014年9月)のシンクライアント基盤では、基本的な構成は第1期を踏襲しつつ、サーバ、ストレージ資源の拡張に主眼を置いた。なお第1期、第2期とも基本仕様は県で固め、一般競争入札でベンダーを選んだ。いずれも元請けはNTT西日本グループ、その一次請けで富士通などが参加している。第2期のシステム構成は以下の通りである。
中核となるサーバ環境は、OSのWindows Serverを 2003 Standardから2008 Standard Editionへ切り替えただけでなく、メモリを潤沢に実装するため64ビット版を新たに採用した。アプリケーション配信ソフトウェアもシトリックス製品を受け継ぎ、「MetaFrame XP Presentation Server for Windows FR3」から当時最新の「XenApp 5.0 for 2008 Platinum Edition」へ更新した。谷口氏は「MetaFrame以外の選択肢がなかった第1期と違い、第2期では他の選択もあり得たが、MetaFrameの実績を買い、後継のXenAppを選んだ」と話す。
サーバ機は、富士通のブレード型「PRIMERGY BX920 S1」。各ブレードはXeon 5500番台を2基(8コア)、16Gバイトのメモリを搭載する。これが専用10Uシャーシー6筐体に96台格納されている。一方、第1期システムはPentium III×2、2Gバイトのメモリのブレードが75台だった。大幅なスケールアップ、スケールアウトといえる。
ストレージには、富士通のミッドレンジNAS製品「ETERNUS NR1000 F3170」を使う。ディスクコントローラーを二重化したクラスタ構成で、ユーザー領域としては20Tバイトを用意。各部署には稼働PCの台数に応じて最低でも従比3~5倍の容量を、各ユーザーには倍となる1Gバイトの容量を割り当てた。
このシンクライアント基盤に約4000台のPCが連なる(XenAppライセンス上、最大同時接続は3000に限定)。XenAppのサーバファーム(XenAppサーバの集合体)を2つに分け、ユーザーの接続先を職員番号の偶数/奇数で振り分けて負荷を均等に分散している。
シンクライアント基盤の周辺にはライセンス管理やサーバマスターイメージ配信、Windows Server Update Services、ウイルス対策などのシステムを配置し、サーバ機の総数は135台に達する。周辺システムには富士通のラックマウント型サーバ「PRIMERGY RX100/200/300 S5」を使う。クライアント側のICカードおよびリーダーは第1期のものを流用した。
コストを5割増すも見合う効果
県報によれば、第2期のシンクライアント基盤の総コストは9億3555万円である。大美氏は「総コストの内訳は、構築費用が1億5750円、リース費用が7億7805円。リース費用のうちハードウェア/ソフトウェアの割合はほぼ1対1で、若干ハードウェアが高い」と話す。ハードウェアは4億円前後、ソフトウェアは3億8000万円前後といったところだろう。
ハードウェア費用の大部分は、前述した135台のサーバ機と20TバイトのNAS装置である。ソフトウェア費用の場合、XenAppが3000台分の同時接続ライセンス、Windows Serveが132台分のサーバライセンスと約4000台分のCAL/TS CAL。その他にイメージ配信ソフトウェア、ウイルス対策ソフトウェアなどのライセンスだ。もちろん、ハードウェア/ソフトウェアとも保守費用も組み込まれている。
一般にIT製品の単価は2004年当時より大幅に下がっているが、第2期はハード資源を厚くした分、6億3000万円だった第1期より5割も高く付いている。それでもコスト増に見合う“追加”の効果は期待できそうだ。
まず、ハードウェア拡張で性能問題、ディスク容量不足は解消された。「性能に余裕が出てきたため、第1期では対応していなかったFlash動画が見られるようにしたり、要望のあったJw_cad(フリーウェアのCADソフト)を試験的に取り入れたりしている」(品田氏)。さらに、アクセスが集中する出勤時のログオンに時間がかかる問題については別途、移動ユーザープロファイル専門の管理サーバを設置し、処理を高速化した。職員1人当たりはわずかな生産性向上でも、組織としては大きな成果になる。
シンクライアント基盤の運用管理面では、マスターイメージを96台あるXenAppサーバへ自動的に展開する新システムが貢献している。富士通のイメージ配信ソフト「Systemcastwizard Professional」で実現した。従来は手作業で行っていたため煩雑だったXenAppサーバのメンテナンスが効率化されたわけだ。また、「XenAppがユニバーサルプリンタドライバに対応したので、新規のプリンタを設置する際、従来のように全てのXenAppサーバにドライバを組み込む必要がなく、運用管理が楽になった」(大美氏)と、XenAppの機能拡張も見逃せない。
注目される第3期のシステム構成
和歌山県の第2期シンクライアント基盤は、2011年10月で3年目を迎える。谷口氏は「これまで目立った障害や問題もなく安定稼働を見せている。行政事務PCの在り方としてシンクライアント方式は自然になってきた。既に第3期のことを考え始めている」と話す。
現状、第3期のシステム計画は白紙だが、関連する新技術をいろいろと検討しているようだ。例えば、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)方式。品田氏はこう話す。「行政事務PCは標準化されているので、個別のPC環境を生かすVDIを全面的に取り入れることはないが、サーバ集中型との組み合わせは考えられる」
ともあれ、4000台という規模でシンクライアント基盤を運用している自治体はない。和歌山県の基盤は世代を経るごとにどのように発展していくか、注目され続けるだろう。
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