ICTが変える在宅医療・介護の今後
【市場動向】2020年の在宅医療・介護関連システム市場は約260億円、多職種連携がけん引
政府が掲げる成長戦略の重点分野である「在宅医療・介護」。それを支えるICTの動向について、市場調査を実施した担当者に話を聞いた。
日本政府は、団塊世代の多くが後期高齢者となる2025年までに「地域包括ケアシステム」の構築を目指している。地域包括システムでは、在宅医療や訪問介護・看護、重度化予防、日常的な生活支援などに従事する複数の関連施設が連携し、1人の高齢者に対して包括的なケアサービスを提供する。また、2012年度の診療報酬改定では「医療と介護の役割分担と連携強化、在宅医療の充実」などが重点課題に掲げられている。在宅医療・介護関連サービスへの新規参入を目指す企業が増えるなど、その注目度は高まる一方だ。
ICTは在宅医療・介護にどう寄与するのか? 調査会社シード・プランニングは2012年10月、調査リポート『2012年版 ICTにより変化する在宅医療・介護の今後と方向性 ~在宅医療・介護連携、地域包括ケアを推進するシステムの将来展望~』を発表した。これは、同社が2012年5~8月に実施した、在宅医療・介護関連システムに関する市場調査の結果をまとめたものだ。本稿では、調査結果の概要と調査担当者2人の話を基に、同市場の動向を考察する。
2020年の市場規模予測は約260億円
シード・プランニングが実施した調査では、在宅医療・介護関連システムを以下の4つに分類。現在提供されている製品/サービスに関する参入企業の動向や戦略などを整理・分析し、2020年までの市場規模を予測した。
- ICTを活用した遠隔医療・介護サービスの提供
- ICTを活用した高齢者見守り
- 在宅医療・介護サービス提供における業務効率化支援
- 在宅医療・介護実施における多職種間の連携、情報共有支援
シード・プランニングのリサーチ&コンサルティグ部 ITヘルスケアチーム 研究員、新宅雅文氏は「在宅医療・介護関連システムの範囲は、医療行為から日常生活の支援まで幅広い。その中からICT関連の4分野に限定して調査した」と説明する。
シード・プランニングの調査によると、在宅医療・介護関連システムの2012年の市場規模は約118億円。「高齢者見守り」が最も多く、「遠隔医療・介護サービス」「多職種間の連携・情報共有支援」はほとんど導入されていないという。また、同調査では2020年の市場規模を2012年の約2.2倍となる約260億円と予測。今後は、特に多職種間の連携・情報共有支援が伸びると予測しており、2020年の市場規模は2013年の14.1倍になる。
市場規模の分析・予測では「関連政策の動向と診療・介護報酬の加算点数を考慮している」(新宅氏)。収益源となる報酬制度の改正によっては、システムの需要の伸びが期待できないからだ。ここからは分野別にその現状と展開予測を紹介する。
遠隔医療・介護サービス
遠隔医療・介護サービスは、在宅患者と遠隔地の病院や介護施設などをネットワークで結び、医療・健康情報の自動登録やテレビ電話システムの利用によって診療を支援するものだ。現在、専門医による「遠隔画像診断」は診療報酬の対象だが、疾病や傷病に対する治療行為である「遠隔診療」は対象外である。遠隔診療は政府の関連省庁が主導する実証実験事業が多いため、今回の調査では「未知数な部分があり、現段階での市場規模を低く見積もっている」(新宅氏)。しかし、今後は「政府の推進策や報酬改定の加算などがあれば、規模の伸展も考えられる」という。
また、遠隔医療・介護サービスはへき地や離島、医師不足に悩む地域で先行導入されているが、ヒアリング調査では「高齢の独居老人が多く住む都市部でも有効。地理的・地域的な特性はそれほど重要ではない」という意見もあったという。
同社のエレクトロニクス・ITチーム 主任研究員、米谷知子氏は「遠隔診療をどう定義するかで変わってくる。タブレット端末などの使い勝手のよいツールが登場したことで、その用途は増えている。例えば、訪問看護の一環として医師と看護師の情報共有にも活用されている。利用者は特に専用システムにこだわっておらず、業務効率化の一環として汎用的なツールを利用することもある」と語る。
高齢者見守り
高齢者見守りサービスは、既に多くのサービスが市場に存在する。今回の調査では「競合企業が増えて価格が抑えられ、高齢者住宅などに包括されることが予想されるため、市場の大きな伸びはない」と見ている。
また、サービスの差別化として「医療必要度が高い患者への支援が鍵になる」と分析している。生命にかかわる緊急時は、いかに迅速に適切な医療機関につなげられるかが重要になる。異常を感知すると、自宅に駆け付けて救急車両の要請などを行うサービスは多い。しかし、患者の状態が重症であり緊急度が高いにもかかわらず、現場で得られる情報が限られている場合、適切ではない応急処置や病院に搬送されることも起こり得る。そこで、「コールセンターに緊急連絡が入った段階で医療行為が必要かを判断し、すぐに在宅医療の担当医および近隣支援者へ連絡できる支援サービスが求められる」(新宅氏)という。
また、米谷氏によると「見守りや配食など医療・介護保険領域サービスとして新規に参入するベンダーも多い」という。
業務の効率化支援
在宅医療・介護の現場では、スケジュール管理や業務指示に必要な書類作成などの作業に多くの時間や手間が掛かる。現在、医師や看護師、介護スタッフの作業をICTを活用して効率化するサービスが提供されている。例えば、電子カルテ情報を院外で参照・入力したり、地図と連動して患者宅の移動を効率化するルート検索や訪問スケジュール管理などの機能が利用されている。
在宅医療・介護サービスの業務効率化のためには、在宅医療特有のノウハウが反映された機能が重要だ。しかし、現状は在宅医療専用の電子カルテが市場にあるわけではない。多くが電子カルテの追加オプションとして提供されている。また、介護関連でもケア記録支援ツールの利用がまだ一般的ではない状況だ。
多職種連携
多職種、多事業所の連携が必要になる在宅医療では、スタッフ間での情報共有は難しい。また、商用化されているシステムが少ないのが現状だ。多職種連携システムの事例として知られているのが「EIR」。エイルが提供するEIRは、スマートフォンやタブレット端末で情報を入力したり、看護師が実施した処置や画像記録を張り付けるなど、患者情報や訪問メモ、スケジュールなどの情報を関係者間で共有できるツールだ。従来のFAXや電話での情報伝達よりも、効率的な情報共有が可能になる。
多職種連携は実証トライアルの段階にあり、「医療・介護情報の連携では、共有すべき情報が何かがまだ整理されていない」。また、医師や看護師、薬剤師、介護士、保険師など多職種間で連携することからシステム利用者が多くなり、セキュリティやリスク対策が必要となる。利用者認証や参照権限の設定、システム管理やトラブル時の責任の所在など、運用面での課題も指摘されている。
しかし、シード・プランニングは、地域包括ケアシステムの構築には多職種連携が必須条件となるため、この分野でのICTの活用メリットは大きく、市場の伸びを見込んでいる。新宅氏は、多職種間の連携・情報共有支援が伸びる要因として「政府の推進施策と医療現場のニーズが合致している」点を挙げている。
普及に向けた課題とは?
シード・プランニングでは、スマートフォンやタブレット端末の登場やクラウドサービスなどの浸透によって、在宅医療・介護関連におけるICTを活用した情報連携は今後大きく広がると予想している。しかし、普及するためには幾つか課題があるという。
新宅氏は「どの情報を共有化するのかというルールが徹底されていない。そのため、明確な定義や仕組みなどが構築できていない」と指摘。また、介護事業所や診療所ではシステムの運用コストがネックとなっているという。「多くの人が利用するため、なるべくシンプルなシステムであれば活用が広がるのでは」と考えている。
米谷氏は「現在の病院完結型から在宅医療・介護に移行する流れは必至。それをいかにICTで支えるかという点では、より多くのベンダーが参入することでより良いサービスが出てくることに期待したい」と語る。
今回紹介した調査結果の詳細は、シード・プランニングが発行している『2012年版 ICTにより変化する在宅医療・介護の今後と方向性 ~在宅医療・介護連携、地域包括ケアを推進するシステムの将来展望~』に記載されている。
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