スーパーWi-Fi実現の可能性【前編】
“どこでもつながる無料のWi-Fi”いよいよ実現か
「連邦政府は、無料で電話やインターネットが使えるスーパーWi-Fiネットワークの構築を予定している」といった米Washington Postの報道が物議をかもしている。スーパーWi-Fiとは?
米Washington Post紙が2013年2月、「ITと通信大手が火花――FCCによる大規模公衆Wi-Fiネットワークの提案で」という記事を掲載した。この記事で執筆者のセシリア・カン氏は、米国政府および米Google、米Microsoftのような大手IT企業と、米Verizonや米AT&Tのような大手通信企業がぶつかろうとしていると主張した。その争点とは「全米規模の“スーパーWi-Fi”ネットワークを構築しよう」という構想だ。
「連邦政府は、スーパーWi-Fiネットワークを全米に構築したいと考えている。非常に強力で利用可能エリアが広いこのネットワークにより、消費者は携帯電話料金を毎月支払わなくても、電話をかけたりインターネットを使ったりすることができるようになるかもしれない」と同記事は述べている。
「FCC(米連邦通信委員会)幹部が広く開放しようとしている電波は、家庭に普及している既存のWi-Fiネットワークのものよりもはるかに強力だろう」と同記事は説明する。「厚いコンクリートの壁も通過し、丘や森を越えて伝わる見通しだ。全てが計画通りに進めば、ほとんどの大都市圏と多くの地方で、無料でWebにアクセスできるようになるだろう」
当然のことながら、こうした素晴らしい公衆サービスが登場するという見通しは、多くの人を興奮させた。だがその一方で、この記事で述べられた壮大な内容に多くの疑問の声が上がった。Washington Post紙はこれに対処するため、記事掲載の数日後に補足説明まで掲載しなければならなかった。
「全ての人のためのスーパーWi-Fi」は本当か
その根本的な疑問は依然として残っている。「政府が本当にそんな大掛かりな事業に乗り出すのか」「より強力で、より高速で、より広いエリアで使えるWi-Fiネットワークは、大手通信企業の終焉を告げるのか」「人々はこのネットワークを実際にただで使えるようになるのか」「この構想は本当なのか」――。
これらの疑問の答えはイエスとノーの両方で、ほとんどはノーだ。しかし、このトピック全体がどのような意味を持つのかを掘り下げて検討する前に、「“スーパーWi-Fi”とは実際のところ何なのか」を知らなければならない。残念ながら、それはWashington Postの最初の記事で述べられていたような明確なものでは決してない。
スーパーWi-Fiについて最初に理解すべきことは、今はまだ実在していないことだ。スーパーWi-Fiはアイデア、願望、夢の域をほとんど出ていないのである。今後10年以内に見事に実現されるかもしれないが、全国レベルではまだ何も展開されていない。本稿執筆時点で、一般の人がこの期待先行の高速かつ強力な無料の無線インターネットにアクセスする方法はない。そして、こうしたインターネットの大規模な利用は、1つのネットワーク上で実現されることはないだろうし、無料にもならないだろう。
スーパーWi-Fiについて2番目に理解すべきことは、難しい要素が絡んでいることだ。実は今回の議論のポイントは、「ホワイトスペース」と呼ばれるものだ。ホワイトスペースは、“スーパーWi-Fi”や“Wi-Fiオンステロイド(強化版Wi-Fi)”を可能にするものとして説明されることがあり、10年近くにわたる論争の焦点となっている。この論争が近いうちに収まることはなさそうだ。長年、免許・無免許の周波数帯の指定と割り当てをめぐって、FCCおよびその方針を支持する企業と、これに反発する企業とが衝突している。
周波数帯とは
ここで少し回り道をして、まず周波数帯について見ておこう。平易な言葉で言えば、周波数帯とは、人々がTV、ラジオ、GPS、携帯電話、汎用無線端末で使用するデータの多くを無線で伝送するのに役立つ、目に見えない信号の範囲を指す。周波数帯は多種多様な技術で使われていて、複数の周波数のセットであり、ユーザーが携帯電話からツイートを発信したり、ガレージのドアを無線で開けたりすることを可能にしている。
FCCは、米国でどの周波数帯をどの組織が使うかを管理する米国政府機関だ。このため、無線信号が同じ周波数帯で送信されることによって相互に干渉するのを防ぐ任務を担っている。2つの信号が干渉し合うと、どちらも役に立たない。
周波数帯は無限にあるわけではない。現代ならではの問題である周波数帯不足は、ますます深刻化している。すなわち、(特に携帯端末において)より多くの人がつながるとともに、人々の無線ニーズの拡大に対応するため、より多くの周波数帯が必要になっている。
ここでホワイトスペースと、免許周波数帯および無免許周波数帯をめぐる議論に話を戻そう。端的に言えば、免許周波数帯は、特定の企業専用の周波数帯だ。TV放送局や、Verizon、米Sprintのような通信キャリアを考えてみていただきたい。これらの企業は基本的に、独自の周波数帯を持ち、任意の用途で使用する。
ご推察のように、無免許周波数帯はその逆である。主にBluetoothデバイスや、前述したガレージドアオープナー、そしてもちろん、Wi-Fiなどのオープンな無料ユーティリティで使われる。
連邦政府はここ数年、特定の周波数帯の免許保有者からの周波数帯の開放を急ピッチで推進している。特に、TV局からの周波数帯の回収を図っている。TV局に対するこれまでの周波数帯割り当ての偏重が顕著になっているからだ。人々が必要なものを何でもCATV、衛星通信、モバイル端末、インターネットなどから手に入れるようになっていることがこの背景にある。
スーパーWi-Fi実現に向けて動き出した米連邦通信委員会
FCCは2008年に、ホワイトスペースの周波数帯を使ったネットワーク群に対応する無線端末の開発を承認した。では、そもそもホワイトスペースとは何か。
ホワイトスペースは一般的には、「使われていない無線周波数」を指す。しかし、スーパーWi-Fiに関する議論では、ホワイトスペースは「使われているTV周波数間のUHF周波数帯の非効率なスペース」を意味する。こうしたホワイトスペースは多くの場合、TV局が“保護周波数帯域”として運用している。保護周波数帯域は、アクティブなチャンネルへの干渉をブロックする役割を果たす。
しかし、こうした保護周波数帯域は、もはや絶対に必要というわけではない。TV技術の進歩(特に、TV信号のアナログからデジタルへの移行)と、他分野における周波数ニーズの増大を背景に、FCCは“インセンティブ競売”プロセスを開始した。
FCCはこのプロセスを通じて、こうした空きTVチャンネルの周波数を調達し、他の目的のために再割り当てする施策を実施し始めている。いや、周波数の拠出を強く説得し、これに応じたTV局の周波数の調達を推し進めているのである。
FCCは、そうしたホワイトスペースの免許をまだ保有しているTV局から、それらの拠出を取り付けるには何が必要かを検討している。拠出を得れば、FCCは、前述した自由意志による市場ベースのインセンティブ競売を実施し、将来をにらんでそうした非効率なホワイトスペース周波数帯の有効活用に取り組む構えなのだ。一方、周波数を拠出した放送局は、その貢献に対してある程度の見返りを得る。
転用される周波数帯の一部は、無免許で利用できる優れた“次世代の”Wi-Fiネットワークの構築や、ブロードバンドインターネットアクセスサービスの拡大に使われることになるだろう。この計画におけるホワイトスペースの周波数帯は、現在のWi-Fiで一般的な2.4GHzよりも低い600MHzであり、そのために到達距離が長く、壁などの物体を通過するからだ。“スーパーWi-Fi”という名前の“スーパー”の部分は、この特徴に由来する。
次回は、スーパーWi-Fiネットワークの構想の課題を具体的に掘り下げる。
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