「Open Cloud Summit Japan」リポート
サイバーエージェント、ヤフー、楽天が語るOpenStackとの理想的な関係
パブリッククラウドやプライベートクラウドの利用が増え、ベンダーロックインを気にするユーザーが増えてきた。OpenStackを利用(検討)し自社でプライベートクラウド開発・運用する先進企業3社にその取り組みを聞いた。
クラウド事業者やデータセンター事業者に限らず、大規模なシステムを抱えるエンタープライズ分野でも利用が進む「OpneStack」。数千、数万台の仮想サーバを含むシステムインフラを支える技術がオープンソースで使えるとあって、プライベートクラウドを検討する企業には有力な選択肢として注目されている。
2014年4月16日に開催された日本アイ・ビー・エム(IBM)のイベント「Open Cloud Summit Japan」では、日本のWebサービスをリードする企業3社(サイバーエージェント、ヤフー、楽天)が、事業会社にとってのオープンクラウド活用についてディスカッションした。システムインフラにおける課題、OpenStackを利用検討に至るまでのプロセスや、導入効果などをリポートする。
パネリスト
奈良真治氏(サイバーエージェント アメーバ事業本部Ameba Infra. Unit マネージャー)
松谷憲文氏(ヤフー システム統括本部 サイトオペレーション本部 本部長)
岩崎 磨氏(楽天 サーバープラットフォームグループ サブマネージャー)
小池裕幸氏(日本アイ・ビー・エム 執行役員 GTS事業本部 クラウド事業統括担当)
モデレーター
吉田雄哉(吉田 パクえ)氏(Co-meeting 取締役 パブリッククラウドエバンジェリスト)
3社がOpenStackの利用検討に至るまで
吉田氏 各社の仮想化、クラウドにおける取り組みについてご紹介ください。
奈良氏 サイバーエージェントでは、2010年ごろから仮想化、クラウドに取り組みはじめ、Amazon Web Services(AWS)、OpenStack、VMware、Xenなどを開発環境や一部本番環境へ導入してきました。事業規模が大きくなり、オンプレミス環境でサーバ台数が約1万台になったことで、開発のスピードや運用業務が事業スピードについていかなくなったことがきっかけです。
その課題を解決するために、2012年にプライベートクラウド「AmebaCloud」を作りました。コンセプトは、「全ての開発者がサービスのみに注力できるクラウド」とし、サービス開発の効率・スピードが最優先事項でした。クラウドコントローラーを5000行程度のPythonで自社開発(KVMべース)しました。
AmebaCloudのコンポーネントは、物理/仮想マシンの統合管理ツール、オブジェクトストレージ(OpenStack Swiftを導入)、リソース監視、アラート通知メール、DNS、資産管理システムとその連係です。NOC(Network Operations Center)体制も設立しました。
図1のクラウドコアシステム(水色)、サービス開発支援システム(青色)、運用支援システム(黄緑)は自社開発した部分です。注目は運用部隊のNOCです。クラウドのコアシステムに合わせて従来とは運用フローを変えました。資産管理(黄緑色)は、1万台のサーバを表計算ソフトで管理するのは難しいためコンポーネントを組みました。
図2はAmebaCloudの使用状況です。2010年から2012年はオンプレミス環境が大半を占めていましたが、2014年4月時点ではオンプレミスとAmebaCloudが半々くらいの割合になりました。
AmebaCloudを開発したことで、サーバの利用効率は4倍、データセンター/ネットワークの利用効率は2倍、運用効率も2倍ほど上がり、トータルで約50億円のコスト削減効果になりました。想定外の効果としては、ネットワークの稼働率が99.999%以上に改善されたことです。これは単純に、事業拡大に伴う継ぎはぎのネットワーク構築から脱却したからです。
誤解しないでいただきたいのは、サイバーエージェントは“アンチオープンクラウド”ではないことです。むしろオープンにしていきたいと考えています。自社開発でも成果は出ましたが、世の中の流れはオープンクラウドだと思っています。1社では開発力が限られるので、オープンクラウドも取り入れていきたいと思っているここ最近です。
松谷氏 ヤフーは2010年に自社でプライベートクラウドを開発しました。当時の目的はリソースオンデマンドです。サーバ、ストレージ、ネットワークなどのハードウェアリソースをAPIを通じてオンデマンドに利用可能とすることが2010年のゴールでした。エンジニアは好きなときに仮想サーバをインストールし、アクセスリストのコントロールやロードバランサー、GSLB(Global Server Load Balancing)、DNS、ストレージをオンデマンドで利用することが可能になりました。
リソースオンデマンドによってハッピーにはなりましたが課題も残りました。データセンターの利用効率の低下です。ヤフーには「Yahoo!ショッピング」や「Yahoo!オークション」など多数のサービスがあります。初期導入時には、1台のラックに複数のサービスのサーバが入っています。売れているサービスはサーバ増強に伴い新しいラックに移動していきますが、そうではないサービスはラックの中に残り続け、スペースを無駄にしてしまいます。
これを最適化するために、データセンターごと新しい環境にマイグレーションすることにしました。最新のハードウェアやデータセンターでサービスを稼働させることは、利用効率、消費電力、パフォーマンス向上において重要です。マイグレーションの方法はハードウェアの抽象化です。そのための技術として使用したのがOpenStackです。ハードウェアの抽象化に必要なプラグインが多数提供されていることが選定の決め手でした。また、トータルコストを試算したところ60%も削減できると分かりました。
2013年からのクラウドの目的はリソースの抽象化です。クラウドを自社開発していたときは、使いたいハードウェアに合わせてプラグインを書かなければなりませんでした。異なるハードウェアを導入するたびにプラグインを書いていては運用コストが割に合いません。OpenStackは、いろいろなハードウェアベンダーのプラグインを提供しているという点が非常に大きなメリットです。
ただし、OpenStackで作ったクラウドは、自社開発のクラウドと比べて機能が足りないので、現在はデグレードしている状況です。しかし、OpenStackは半年に1回のリリースサイクルを取るほど機能向上が活発なので、すぐ追い付くと踏んでいます。
2014年になってOpenStackでの稼働が非常に多くなりました。仮想マシンの数は約5万台になると予想しています。
サーバ、ストレージに関してはOpenStackで抽象化しましたが、ファイアウォール、ルータなどロードバランサー以外のネットワーク部分はまだ抽象化されていません。現在、ブロケード コミュニケーションズ システムズと手を組んで、SVI(Switch Virtual Interface)やVLAN、ファイアウォールの共同プラグイン開発に取り組んでいます。もちろん他のメーカーのプラグインも検討し、抽象化を進めていきたいと考えています。
岩崎氏 楽天は2011年にプライベートクラウドの自社開発に取り掛かり、2012年の途中からプライベートクラウドの運用を始めました。
まずは仮想化から取り組みました。当初は8000台くらいの物理サーバを運用していましたが、運用台数が多く、サービスの増強や縮退を繰り返す中でデータセンターの運用効率が低下し、リソースの最適化が図れずコスト増を招いていました。
そこで、ハードウェアに対して論理的にリソースを割り振ることによって、1台のハードウェアリソースを最大限に使うことを目的に仮想化に取り組みました。コストの最適化を主軸に据えたのです。今ではサーバの約6~7割が仮想環境で動いています。
また、スケールという点ではネットワークが問題になっていました。サービスに応じたネットワークセグメントを切っていたところ、サーバ約8000台に対してスイッチが数千台にまで膨れ上がり、ポートの利用率は10%に満たないようなスイッチが山のように発生していました。そのため、FCoEによってストレージネットワークとIPネットワークを統合しました。また、サーバ、ストレージ、データセンターの配線、スイッチ、ラックに関しても徹底的に統合しコスト削減に注力しました。コスト削減におけるハードウェア戦略はまとめるということです。
2011年に「RlaaS」というクラウドプラットフォームを開発しました。コントローラーには、OpneStack、「CloudStack」などで悩みました。当時、安定的かつ確実にコストを下げるためにベストだと選んだのはVMwareの製品です。RIaaSによってコスト削減に成功したというのが現在のフェーズです。
ただし、ベンダーロックインやこの先のコストを考えたときに、VMwareにずっとライセンス料金を払い続けることはできないと考えました。
今後のフェーズ3では、OpenStackを利用した「Rakuten Super Cloud」(内部呼称)というプライベートクラウドに取り組みます。自動化やセルフポータル化によって、インフラエンジニアだけでなくアプリケーションエンジニアがインフラを意識せずに利用できる仕組みを2014年度中にリリースする予定です。OpenStackは半年に1回新しいバージョンがリリースされるなどコミュニティーが非常に盛んで、情報を集めやすい。そういうところに魅力を感じています。
クラウド導入はボトムアップ? ボトムダウン?
吉田氏 ここまでのお話を聞くと、企業ごとにクラウド化する目的がすごくハッキリしている印象を持ちました。コストの最適化なのか事業スピードなのか――。クラウド化は、経営陣と現場のどちらから話が持ち上がったのでしょうか。
奈良氏 われわれは経営層からです。
吉田氏 明確にテーマを与えられ、それに見合うものを作るように言われたのですか。
奈良氏 そうです。最優先にすべきは開発スピードなので、そのためにコストが掛かってもいいというメッセージで、経営層から話がありました。
松谷氏 恐らくエンジニアから声が上がりました。ただ、クラウドオーケストレーションのシステムの前に「仮想化くらいやらないの?」という声がありました。仮想化を導入した結果、仮想サーバが増え、管理しきれなくなってきたので、自前でAWSのようなクラウドのシステムを作ろうという流れになりました。
岩崎氏 われわれは両方です。経営層からも「クラウドをやらないの?」と言われましたし、現場(社内のエンジニア)からも、プロビジョニングに時間がかかることに対し仮想化やクラウドで解決できるのではないかという声がボトムアップでありました。
吉田氏 ユーザー企業がクラウド化を進めるに当たり、IBMとしてはどう考えますか。
小池氏 以前はコストを下げるためにクラウド化を検討するという経営的な視点が多かったのですが、2013年が潮目で、エンドユーザーの要望に応えるためにクラウド化しようというボトムアップの要求に応える動きが増えているように感じます。
オープンクラウドに求めること
吉田氏 パネリストの皆さんは、自前で作ったプライベートクラウドをOpenStack構成に作り変えていく方針を取っています。OpenStackによるクラウドに何を求めますか。また、クラウドのオープン性についてどのように捉えていますか。オープンであることが自社の方針にどういった影響を与えているかも踏まえ教えてください。
奈良氏 クラウドに求めることは、例えるならば“公共性”です。われわれコンテンツプロバイダーですので、アプリケーションをデプロイしたときにクラウド上で自動的に適切な配置で動けばそれでいいのです。例えば、OSについてもひと昔前と比べるとサービス品質に与える影響が小さくなっていますので、「CentOS」か「Ubuntu」かなどには、それほどこだわりはありません。オープンクラウドでも同様です。どんなソフトウェアやハードウェアでもきちんと管理できることを求めています。
当然、この方針は技術の採用に影響を与えています。2年前は今後も使い続けることを前提にクラウドを自社開発しましたが、現在はAmebaCloudにもOpenStackを使う方に向いています。
松谷氏 クラウドには抽象化を求めています。例えばクラウドごとに異なるAPIを抽象化することによってクラウド間連係が活発になり、それによって開発スピードの向上などを期待しています。
岩崎氏 クラウドに求めることは、サービスを提供する立場として、安定かつ確実であることです。また、突発的なトラフィック増にも即時性を持って対応できるパブリッククラウドもうまく取り込める、柔軟性を持ったクラウド基盤を作ることが求められています。
クラウドによってコストやスピードの感覚が変わりました。最近では、ミッションが出てからサービスインするまでの期間が数週間というレベルまできています。
吉田氏 これからOpenStackを使ってプライベートクラウド構築する企業にアドバイスをお願いします。
奈良氏 チャレンジすることが大事です。技術がこの先どう変化するかは読めないので、手詰まりにならないように、ちょっとトライしてダメなら次に行けるフットワークの軽さは大事だと思います。
岩崎氏 チャレンジという意味で、われわれがクラウドを自社開発してすごく苦労したのは、動作実績がない中、既存ユーザーにどうしたら使ってもらえるかを考えることでした。やってみてよかったアプローチは、まずはパイロットユーザーを獲得し、彼らの要望を徹底的に聞き入れたサービスを開発することです。そして、そのユーザーの心をつかんだ物が出来上がれば、良いものは口コミで社内に広がりますので、自然と利用が進みます。このような流れを作ることが、チャレンジという意味では非常に大事だと思います。
小池氏 今日のお三方は先進的なユーザーです。これからOpenStackを使ってみようと思う企業も多いと思います。コミュニティーは、(他の参加者よりも)遅れているからといって入りづらいことは一切ありません。われわれとしても支援をしていきたいと思います。
吉田氏 事業会社にとってのオープンクラウドの価値というテーマでお届けしました。数年前、ハイブリッドクラウドを知ったときは「本当に実現できるのか?」と疑問でした。しかし、今日お話を聞き、既にプライベートクラウドはしっかりと運営され、ビジネスメリットが出ていることが分かりました。パブリッククラウドについても導入事例が増えています。両方のクラウドを上手に活用する企業もどんどん増えていくのではないかという印象を持ちました。
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