代表的なサービスも紹介
これだけで分かる:クラウド管理ツールでできること
Webサービスやゲームなど、クラウドを使った大規模なITインフラを中心に、クラウド管理ツールの利用が始まっている。クラウド管理ツールの主要な機能、代表的なサービス/ツールについてまとめた。
海外のネットビジネスで、世界中にある数万台のサーバを数人で管理しているような事例を見たことがないだろうか。これは「クラウド管理ツール」を活用する代表的なシーンだ。こうした極端なケースでなくても、クラウド管理ツールを検討・導入する話は、実際にサービスを開発している立場の私もよく耳にするようになった。
本稿では、クラウド管理ツールがどういったもので、ITに関わる人および業務、サービスにどのようなメリットをもたらすのかについて、現状の課題とともに説明する。
1.クラウド管理ツールとは
クラウド管理ツールは、主に「Amazon Web Services」(AWS)に代表されるような、IaaS(Infrastracture as a Service)を管理するためのツールやサービスを指す。AWSが提供開始された当初は、公式にサポートされたUI(User Interface)ツールがなく、ユーザーはコマンドラインなどを使って利用していた。そんな中、ユーザーの利便性を向上させるために、クラウドを操作するツールやサービスが出きてきたことがクラウド管理ツール始まりである。
現在は、管理する対象や内容が充実してきており、クラウド上でのサービスやシステムの立ち上げ、運用効率向上に大きく貢献している。人的リソースやスキルセットが十分ではないはずのIT系スタートアップが、Webサービスを急拡大できるのは、クラウドおよびクラウド管理ツールの活躍が小さくないだろう。
提供形態にはWebサービスやソフトウェアなどがあり、利用方法にはWebポータルのUI上でコントロールする他、スクリプトを多用するツールもある。
2.クラウド管理ツールでできること
クラウド管理ツールでできることは、ITインフラの設計、構築、運用のフェーズで必要な作業を簡易に自動化することである。そのため、二度以上行う作業の効率が上がるとともに、作業が標準化されるため、作業のミスや属人化も少なくなる。
クラウド管理ツール自体の多機能化が進んでいる反面、ツールへのロックインを心配するという考えもある。そんな中、構成管理は「Chef」などと連係できるものが増えるなど、ベンダーロックインされない作りを目指すツールの利用も進んでいる。
ユーザー管理
クラウド管理ツールのユーザー管理機能は、誰がどのような権限でクラウド上のシステムや情報にアクセスし、変更を加えられるかを管理する。運用担当者は状態の確認のみ、経理担当者は利用料金の確認のみというような権限設定の他、所属している部署やプロジェクトで管理できるシステムを分けることが可能だ。
また、各部署で個別に契約していたクラウドサービスを集約し、情報システム部で一括契約・管理をして、部署ごとに権限委譲をするようなケースも出てきている。外注先に環境を提供する場合などにも便利だ。
特別な契約をしなくても操作ログなどを提供しているサービスが多いため、サーバ作成などの操作ログが集中的に管理できる。
構成管理
構成管理機能では、構築されるサーバやネットワークなどの設計や設定、アクセスルールを管理する。
従来、構成情報は帳票などで管理するケースが多かったが、構成情報をコードやGUIで管理・共有することで、サーバやネットワークの構築や変更を自動化する事例が増えている。自動化することで、設定漏れや変更漏れなどでの事故などを減らせるため、信頼性の向上につながる。
こうした機能がクラウドサービス自体に付属している場合もあるが、ソフトウェア(Chef、「Puppet」など)やサービス(「RightScale」「Scalr」「CliQr」など)が出てきたことがこの流れを加速させている。
性能管理
構築したサービスのKPIやシステム、各サーバなどの性能や死活状況を監視・管理するのが性能管理機能だ。従来の性能管理と変わらないが、一般的にクラウドは共有環境で提供されるため、障害時には通常時の状態と比較しつつ、クラウドサービス側の問題か、自社システム側の問題かを判断する必要がある。
クラウドサービスとの連係を特徴にしている監視サービス(「New Relic」やはてなの「mackerel」など)もあり、さまざまな監視データの収集や監視項目の設定、結果の確認が簡便にできるなど、自身で監視サーバを立てて設定するのに比べて生産性が高くなる。構成管理と連携することで、増やしたサーバの監視を自動で始めるようなことも一般的に行われている。
また、クラウドサービスにはCPUのコア数やクロック性能の目安などは記載されているが、実性能には違いがある。第三者として性能の比較情報を提供しているサイト(「Cloud Harmony」など)を活用することはもちろんだが、利用後も他社サービスとの比較を取ることも重要である。
コスト管理
クラウドはサーバの作成が簡単にできるだけに、コストを管理することがより重要になる。単純に総額を管理するだけでなく、ユーザー管理で権限委譲した組織ごとに管理したり、ログや性能管理で取れた情報などで、無駄なサーバを指摘するような管理の仕方もある。
クラウドの利点であるデマンドベースでのインフラ利用を進めるためには、定期的にコストを管理することが重要である。利用金額に対してアラートを出す機能を提供しているサービスを活用するのも良いだろう。本格的に管理する場合は、「Cloudability」や「CloudVertical」のようなサービス、構成管理で紹介したRightScaleなどの機能を利用することも考えられる。
複数クラウドの管理
複数のパブリッククラウドやプライベートクラウドをまたいで、ユーザー管理、コスト管理、構成管理などを行うことが可能なツールもある。同じように見えるクラウドサービスだが、実際には仕様の違いがある。クラウド管理ツールではこうした差異をユーザーが意識しなくても済む工夫がなされている。
ただし、事前の設計などが伴うため、試用を通じて目的に応じたツールやサービスを選ぶべきである。
また、最近では各クラウドのネットワークを透過的につなげるSDNのような試みも、広義では複数クラウドの管理として考えられている。
将来、企業は用途に合わせて、さまざまなクラウドサービスを使い分けるようになるだろう。その際、機能、性能、可用性、セキュリティ、ロケーション、そして価格がクラウド選びの要件となる。なお、直近では、自社のプライベートクラウドとパブリッククラウドを併用するケースが注目されている。複数のクラウドや自社インフラを一括して管理できれば、クラウド事業者向けの購買力やビジネス継続の観点で有利だ。
※ 上記は一般例である。ツールやサービスによって対応範囲は異なる。
クラウド管理ツールが提供している機能は、ITインフラの運用管理で以前から求められている機能である。しかしながら、クラウドサービスと連係させることで、今までは人手を掛けて膨大な時間を費やしていた対応が、かなりのスピードでできるようになる。
3.代表的なクラウド管理ツール
最近はツールが増え、クラウドマネジメントの範囲も広くなっているため、全てを紹介することは困難である。そのため、機能のカバレッジが広いツールを中心にピックアップした。
RightScale
米RightScaleが提供し、クラウド管理ツールとしてパイオニア的な存在。提供形態はSaaS。導入支援のためのプロフェッショナルサービス体制が充実している。
Scalr
米国サンフランシスコの企業Scalrが開発しているサービス。日本ではクリエーションラインが販売契約を結び、ディストリビューション版とともにオープンソース版を配布している。主にLinux関係のサーバ管理に強い。DNS(Domain Name System)設定などが充実している。UIに優れ、インフラ知識が少ない人でも利用できるよう工夫されている。サポートが必要な場合はSaaS版に加入するか、個別構築することでサポートが受けられる。
Dell Cloud Manager(旧Enstratius)
米国ミネアポリスの企業 Enstratiusが開発したツール。セキュリティ管理の機能が充実していることが特徴で、クラウド上のデータの暗号化や独自の認証方法の導入によって、クラウドサービス事業者からのデータアクセスなどができないように対応している。コスト管理機能も充実している。2013年に米Dellに買収された。
ScaleXtreme
米国サンフランシスコ、ベイエリアの企業ScaleXtremeが提供するツール。各種ミドルウェアの監視やパッチマネジメントなどの機能が充実している。無期限かつ無償のBASICというメニューもある。2014年5月、米Citrix Systemsに買収されると発表した。
AWS OpsWorks
AWSを管理するためのサービス。現在はβ版。「AWS CloudFormation」や「Amazon Elastic BeanStalk」など目的に合わせてさまざまな自動化サービスを取りそろえている。
CliQr
CliQrは、クラウドを変えて同様に動く部分に力を入れて開発しているサービスだ。ベンチマーク機能があり、Jmeterのスクリプトが書ければ各クラウドへ複雑な負荷テストも可能。各社のクラウドの性能とコストを基に、コストパフォーマンスを算出することができる。国内ではNTTコミュニケーションズのパブリッククラウド「Cloudn」が対応をしている。米CliQrはGoogleに出資を受けており、「Google Compute Engine」がリリースしてすぐに対応を表明したことでも有名。
Prime Cloud Controller
「Prime Cloud Controller」はSCSKが開発した国産クラウド管理ツール。2014年にオープンソース版の提供を開始した。パブリッククラウドはAWSだけでなく、多くの国産クラウドサービス(「SCSK Usize」「ニフティクラウド」、Cloudn、「IDCフロンティア クラウド セルフタイプ」)に対応している。
ChefやPuppetとの関わり
多くのクラウド管理ツールは、大規模な構成管理、構築自動化においてChefやPuppetと連携できる機能を用意している。Chefは米Facebookで採用された実績があるなど、大規模な構成管理に有望視されている。
B2C向けのWebサービスなどを中心に、サービスのPDCAを高速に回すために、1日にプログラムを複数回も改善・改修するような企業が出てきている。こうした要求を支えるために、テスト環境の自動作成や本番環境をより安全に切り替える方法について、数々の取り組みが行われている。
インフラをコードレベルで扱い、ソフトウェア的にコントロールすることで、サービスの競争力を強化する時代が近付いてきている。
4.活用ケース
前述の通り、クラウド管理ツールの活用は、設計、構築、運用の各フェーズにおける効率を高める。実際によくある活用例をまとめた。
4-1.短期間でのインフラ構築、テストの生産性向上
一度定義したシステムは、簡単に再作成できるようになる。併せてモニタリングやDNS、負荷分散など付帯的な仕組みも含めて自動化することで、インフラを構築する人の工数や拘束時間を劇的に減らすことができる。監視漏れや設定漏れも置きにくいため、品質面でも評価できる。
また、本番のシステムに問題が発生して再現調査をしたり、バージョンアップのための検証が必要になった場合、検証環境をすぐに構築できる。検証環境はクラウド上で作成するので、テストが終わり次第消去すれば、検証コストを低く抑えることができる。
4-2.クラウド利用コストの最適化
クラウドを使った場合でも、ソーシャルゲームやプロモーションサイト、バッチ処理などのピーク時の負荷に合わせ、必要なときに必要なだけインフラを拡張するためには、それなりの仕組みが必要だ。
多くのクラウド管理ツールでは、どのようなときにサーバを追加するのかを詳細に定義できるため、不要なサーバを消去したり停止することで、クラウド利用コストを最適化できる。
バッチであれば時間に合わせて解析サーバを増やし、プロモーションサイトであればアプリケーションサーバのCPUロードアベレージが一定期間基準値を超えた際に追加することができる。サーバが増えたときにロードバランサの設定が併せて変更されるなど、機能は充実してきている。
4-3.情報共有の促進
重要なシステムほど複雑で、情報の共有や引き継ぎが大変だ。担当者は、たくさんの仕様書や設計書、手順書を作成することになる。
クラウド管理ツールでは、各種設計や手順がUIを通じてスクリプトや設定値で管理される。設定を変えるたびに履歴が残るため、設定書のアップデートも不要だ。
また、作業環境が標準化され、情報が集約されるため、新人担当者でも経験者のナレッジを利用しやすくなる。
5.課題と将来の展望
クラウド管理ツールは、今後のクラウド利用にとって重要なツールだが、利用に当たっては考慮すべき課題もある。道具としてうまく使うためにも、考慮に入れた方がよい点を挙げる。
5-1.事前の設計
クラウド管理ツールでは、管理や運用を効率化するために、サーバを動作させる上で必要なデータを複数の分野に分けて管理・格納している(図2)。サーバとサーバ上の設定を分離することで、サーバ上の設定の変更などが効率的になる。また、多くのサーバが必要になっても、組み合わせて効率良く管理できる。
一方、オンプレミスのサーバ設計や管理方法と異なる点もあるため、クラウドに合わせた知識を要求されることになる。
初めて利用する場合には、いきなり全社導入や全機能の活用をするのでなく、プロジェクト単位で活用しながら設計のイメージをつかむことをお勧めする。効率化への要求や優先順位は、企業やプロジェクトによって差があるため、ツール導入の目的を整理する上でも有効だ。お急ぎの場合は、経験のあるシステムインテグレーター(SIer)やクラウド事業者に相談するのも良いだろう。
5-2.既存環境からの移行
前述の通り、インフラの管理方法が変わるため、既存のシステムを載せ替えるには時間がかかる。移行した事例を聞く限り、新しいシステムから順次活用し、利用のノウハウができた後に、巻き取りの計画を立てるような利用方法が多いようだ。
クラウド管理ツールに期待するポイントは企業によって異なるため、どのような課題を解決したいかを整理した上で、導入計画を検討すると良いだろう。
5-3.クラウドの選考
クラウド管理ツールは原則、クラウドサービスのAPIとサーバ上にインストールしたエージェントによって、サーバをはじめとしたITリソースを管理する。このため、メジャーなクラウドサービスやクラウドの標準的な概念に沿って設計されているサービスを活用する方が望ましい。
一方、APIとしては対応していても、パブリッククラウドごとの特質(サーバなどの価格情報、障害時の切り替わり方法、ゾーンの有無など)までは、クラウドマネジメントツール側で検証できていないケースがある。クラウド管理ツールの利用を検討する際は、APIの仕様やツールへの対応状況を問い合わせや検証で確認することをお勧めする。
クラウドの利用が進むにつれ、クラウド管理ツールに期待される内容は広がっている。各ツールが周辺のツールと連係することによって、今後は以下のような機能が拡張されるだろう。
- コストの管理(利用量、課金額の管理)
- 使われていないサーバの探索
- より高度な監視サービス
- クラウドサービスの性能比較
- ビッグデータなど新しいクラウド利用法に対応した構成のリリース
- PaaSに近いサービス提供
- クラウド間のネットワークの相互接続
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