企業向けシステムを構築するパブリッククラウド【第14回】
オープン性と品質が強み、国産クラウド老舗のIDCフロンティア
国内では歴史が古いIDCフロンティアのクラウドサービスの中から、パブリッククラウドを紹介する。CloudStackを採用したオープン性とエンタープライズ品質が売りだ。
本連載「企業向けシステムを構築するパブリッククラウド」では、さまざまなパブリッククラウドをエンタープライズの業務システムで利用する観点から解説している。今回は「IDCフロンティア クラウドサービス」(以下、IDCFクラウド)を取り上げる。同サービスはヤフーにOEM供給され「Yahoo!クラウド」としても提供されている。
IDCフロンティアの原点は1986年にさかのぼる。その前年に始まった電気通信制度改革を受けて設立された国際デジタル通信企画(伊藤忠商事、トヨタ自動車、ケーブル・アンド・ワイヤレス(C&W)が出資)である。このときの英語名称(International Digital Communication:IDC)が今に引き継がれているようだ。その後、C&Wが出資比率を上げC&W IDCとなるも、最終的にC&Wは日本市場から撤退。同事業は2005年よりソフトバンクグループに買収され、社名もソフトバンクIDCになる。2009年からヤフーグループ傘下となり、社名も現在のIDCフロンティアとなった。今回紹介するクラウドサービスは同年に開始されたものである。意外や国内では「老舗」と言えよう。
お詫びと訂正(2013年2月5日)
国際デジタル通信企画の英語名称に誤りがありました。おわびして訂正いたします。
【修正前】
Internet Digital Communication
【修正後】
International Digital Communication
原点にあるC&Wは英国の歴史ある大手通信事業者であり、1800年代後半から欧州を中心に国際通信と法人向けデータ通信を事業としている。日本においてもデータセンターやネットワークを整備し法人向けサービスに注力していたが、このときのDNAがIDCフロンティアに引き継がれている。2009年に開始されたIDCFクラウドは、当初からエンタープライズの業務向けサービスとしてリリースされたとのことだ。
IDCFクラウドの概要
現在、IDCFクラウドのWebサイトをみると、次の3つのサービスが記載されている。
- パブリッククラウド(セルフタイプ、マネージドタイプ)
- プライベートクラウド
- クラウドストレージ
本稿では連載の趣旨に照らし、主に1.パブリッククラウド(セルフタイプ、マネージドタイプ)を中心に紹介していく。
パブリッククラウド(セルフタイプ)
「セルフタイプ」はWebポータル経由のセルフサービス型で、オンデマンドで仮想サーバ(インスタンス)が使えるサービスである。本連載で過去に紹介したAmazon Web Services(AWS)などのIaaS型パブリッククラウドと基本的にはほぼ同じサービスだ。基盤ソフトウェアにはCloudStackを使っており、以前紹介したCloudnと同様だが(関連記事:NTT Comが満を持して世界に放つ超低価格クラウド「Cloudn」の正体)、同ソフトウェアを使った商用サービスとしてはIDCFクラウドの方が先輩ということになるようだ。インスタンスは仮想サーバ11種類と、物理専用サーバが利用可能である(図1参照)。
また、料金体系は表1のようになっている。
なお、現在は「キャンペーン期間中」であり、停止中のインスタンスは課金されない。また、月額料金が用意されているが事前申し込み型であり、Cloudnのように自動的に月額料金に移行するわけではない。
上記はCPU+メモリの課金であり、ディスクは別に追加する必要がある。0.084円/Gバイト/時で、ミニマム15Gバイト(Windowsなら40Gバイト)が必要(単純計算で月額約900~2500円)。
現時点の用途としては、公開型のWebアプリケーションやオンラインゲームなどでの利用が多く、LAMPやLVS、HAProxyなどさまざまなテンプレートも用意されているとのことだ。エンタープライズでの本格的な利用は今後の成長を期待しているということであった。Webポータル(図2)は、使いやすさを徹底的に追求しており、「ITに詳しくない人でも使える」「予算の管理もしやすい」のが売りである。
特徴
同社に本サービスの「こだわり」を取材すると次のような説明があった。1つは「標準(オープン)」、もう1つは「品質」である。まずは前者を考えてみよう(品質については本稿の最後にまとめて述べる)。
オープン戦略
前段でも触れたが、CloudStackを採用している点が挙げられる。国際的に採用が進み、デファクトスタンダードを形成しつつあるOSSである。また、オンプレミスでプライベートクラウドを構築する際にも使える。ユーザーが多い基盤を採用し、標準的APIも公開したという意味では、ユーザーがロックインされにくい 基盤ともいえるので、この点でユーザーには魅力があるように見える。また、複数のクラウドにまたがるクラウド間連携も実現しやすそうだ。
利用経験が長いのでCloudStackの不具合や癖について同社は熟知しており、この点は独自のノウハウがありそうだが、サービス自体には「IDCFクラウド独自の仕様を盛り込むことは意図的に行っていない」とのことである。付加価値(「味付け」と表現していた)は、後述する「品質」で勝負するそうだ。
標準のもう1つの側面として、各種の運用ツールとの連携が挙げられる。具体的には米RightScaleのRightScale(関連記事:RightScaleが実現するクラウドマネジメントの世界 ~Amazon Web Servicesとの違いは?)、OSSのSCALR、SCSKのPrimeCloudControllerである。これらはクラウド管理ツールあるいは連携ツールとして著名なものであり、ここでは詳解は避けるが、オンプレミスのプライベートクラウド含め、複数のクラウド環境を統合的に管理・運用できるものである。AWSやWindows Azureなど、海外の著名なクラウドはこれらのツールで効率的に運用できることが知られている。利用インスタンス数が著しく多い場合や、複数のクラウドを使って冗長構成やバックアップを組みたい場合など、大規模かつ本格的なエンタープライズ利用にはこれらのツールは不可欠ともいえる。IDCFクラウド(セルフタイプ)はこれら全てに対応している唯一の国産クラウドサービスとなっている。
パブリッククラウド(マネージドタイプ)
前述のセルフタイプはIDCFクラウドの中では後発サービスである。当初はこれから述べるマネージドタイプしか存在しなかった。このタイプはいわばIDCFクラウドの原点といえるサービスである。
マネージドタイプは仮想マシンを月額固定料金で貸し出すサービスである。オンデマンド性は低く、申し込みをしてから、IDCフロンティア側担当者からのコンタクト、導入SEとの打ち合わせなどを経て、数日後に「開通」するものである。プロビジョニング作業は全てIDCフロンティアの担当SEが行う。従来的な意味での「レンタルサーバ」に近い。設備面でもセルフタイプとは別物のようである。
インスタンスは図3に示す16種類が用意されている。
また、料金体系は表2のようになっている。いずれも月単位の固定費用である。初期費用は必要ない。
インスタンスの追加変更には依頼に基づく人間系の作業が必要であり、本サービスを(NISTの定義にあるような、厳密な意味での)クラウドと呼ぶべきかは議論がありそうだ。ただ、現実のエンタープライズ業務用途においてはサーバ構成が頻繁に変化することは考えにくく、そのような用途を想定していたようだ。
上記以外にWindows系のメニューが充実しており、しかもハイパーバイザーが選べる点が特徴的だ。こちらも月額固定で表3のようになっている。
この辺りのメニューの充実さも、エンタープライズの業務用途を想定していたことが伺える。
実際にはマネージドタイプのリリース時点(2009年)では、業務システムを完全に外出ししようとする企業ユーザーは多くなかったようだ。この意味ではIDCFクラウドは「先進的すぎた」という見方もできるだろう。Yahoo!関連会社というブランドイメージもあり、結果的には、本サービスはオンラインゲームやWebサービスのユーザーが主流となっていったようだ。これらのユーザーのニーズに合わせてネットワークの帯域保証や、L7のロードバランシングなどの機能が充実していったことが伺える。また、オンラインゲームやソーシャルアプリ向けのサーバ構成などをセットにした「パッケージプラン」などが充実している。うっかりこれらのサービスメニュを見ると、「このクラウドはエンタープライズ用途では使えないのではないか」と思うかもしれないが(実際、筆者もWebサイトを見たときそう思ってしまった)、歴史的に見れば順序が逆のようだ。
2012年後半から、筆者の周辺でもエンタープライズシステムでパブリッククラウドを積極的に使っていきたいという動きが顕著になっている。著名な業界紙も同様の特集を組んでいる。IDCFクラウドとしても、むしろこれからエンタープライズユーザーを取り込んでいきたいということであった。例えば、IDCフロンティアが社内システムで蓄積したP2V移行ノウハウを顧客やパートナーに提供し、既存システムのクラウド移行を支援するなどの活動を積極的に行っているようだ。
セルフタイプとマネージドタイプの組み合わせ
現時点で両サービスは「全くの別物」であり、管理画面も異なっている。アカウントも別々に持つ必要がある。この点は課題といえる。しかし、自分のアカウントであれば、両環境をデータセンター内でネットワーク的に直結することが可能だそうだ。これは他のクラウドベンダーにはまねのできない構成といえるだろう。本番系をマネージドタイプに起き、開発環境やテスト環境をセルフタイプに置くなど、両者のいいとこ取りをすることができそうだ。さらにデータセンターのコロケーションサービスやホステッド型のプライベートクラウドなどのサービスとの組み合わせも問題ない。いずれもL2レベルで閉域網接続が可能だ。組み合わせの妙によって、エンタープライズの高い要求に幅広く柔軟に対応できる。面白い使い道を考えたい。
品質
IDCフロンティアは、C&W時代からデータセンターおよびネットワーク回線を自営している(借り物ではなく自前だそうである)。法人向けデータセンタサービスも長年運用しており、エンタープライズシステムのサポートや運用を熟知しているスタッフも充実している。品質を担保しやすいのは事実のようだ。
データセンターは東日本、西日本、首都圏にあり、広域負荷分散が可能である。クラウドサービスは現在でも複数の拠点から提供されているが、近いうちに全ての拠点で提供されるようになると推察される。データセンター自体がSPF(Single Point of Failure)にならないのも品質の1つの側面といえるだろう。
SLAは、インスタンスとネットワーク接続、それぞれに別々に定めている。どちらも99.995%であり(2013年4月から99.999%となることが予定されている)、他の類似サービスより一段高い値が設定されている。インスタンスのログによる稼働確認や、1分ごとの疎通確認に基づいており、非常に分かりやすいのも特徴的といえる。
課題
クラウドストレージ
同社のサービスとして本稿の冒頭でリストしたクラウドストレージだが、エンタープライズ用途では「分散ストレージ」という名前のサービスを使うことになるようだ。現在はβ版のようだが、正式リリースが2013年4月に予定されており、Amazon S3互換のAPIが提供される。ただし、これも前述のパブリッククラウド(セルフタイプ、マネージドタイプ)とは別建てのサービスとなっており、どこまで一体的に使えるのか未知数である。予定通りのリリースと、IaaSからシームレスに使える仕様であることを期待したい。
事例
事例は多く掲載されているが(事例:http://www.idcf.jp/cloud/case/)、企業の業務用途での「事例」が少ない。課題というほどのことでもないが、業務利用のしやすさをアピールする工夫は必要だろう。IDCFフロンティアは、SIerなどとのパートナー戦略を強化するようである。今後事例が増えていくことを期待したい。
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