“オレオレクラウド”にはこりごり、クラウドの本質を知るクラウドガバナンス現在進行形【第1回】

ベンダー独自の“オレオレクラウド論”が横行している。企業利用者の多くはこれに懐疑的だ。本稿ではクラウドの本質を理解すべく、従来のホスティングサービスとの違い、NISTによるクラウドの定義を解説する。

2011年09月22日 09時00分 公開
[川田大輔]

ベンダー独自の“オレオレクラウド論”に懐疑的な企業利用者

 経済産業省企業IT動向調査によると、企業利用者の実に87%が「ベンダーはクラウドコンピューティング(以下、クラウド)の定義・本質をもっと明確に提示するべき」と考えている(「企業のIT投資動向に関する調査報告書」P.34)。

 国内のクラウド事業者の一部は、いまだにクラウドの定義を確定していない。従って、自社独自のクラウドの定義に基づいて、「これがクラウドだ」と主張すればクラウドといえる“オレオレクラウド論”が見受けられる。しかし冒頭で紹介した経済産業省の調査結果を見る限り、国内企業利用者はそんな一部の事業者による定義歪曲を鋭く見抜き、正しい情報を求めているといえるだろう。

 世界を見回してみれば、近年設立されたさまざまなクラウド標準化団体(OGF、DMTF、SNIA、CSA、OMGなど)や、これまでさまざまな標準化活動に従事してきた団体(ITU-T、ISO、IEC、ETSIなど)が、それぞれの活動領域で仕様策定の基礎となるクラウドの定義を、米国立標準技術研究所(NIST)による「Definition of Cloud Computing」に求めている。このことから、NISTによるクラウドの定義が実質的に標準として流通していることが分かる。筆者は、近年まれにみる迅速さでデジュール/デファクト双方の標準化活動が連携しだしている点も注目に値すると考える。もはや、NISTによるクラウドの定義を無視してクラウドに関する議論を行うことは不可能だ。なお、NISTによる同定義はNIST Special Publication 800-145(Draft)として標準化作業中だ(参考:The NIST Definition of Cloud Computing(Draft))。

NISTによるクラウドの定義

 そもそもクラウドの定義の実質的標準を策定しているNISTとはどのような組織なのだろうか? NIST(National Institute of Standards and Technology:米国立標準技術研究所)は、米国の計測や測定、標準化、産業技術振興を行っている米商務省配下の機関であり、ICT関係でもAES暗号の選定などが同研究所によってなされていることが知られている。筆者が考えるに、NISTが産業としてのクラウドの定義に取り組む理由は、「定義し、標準化することが米国の産業技術振興に役立つから」だろう。とはいえ筆者は、NISTによるクラウドの定義が世界の誰にでも公開されており、内容が妥当で、既に広く流通しているのならば、わが国がその定義を拒否する理由は何もないと考える。日本の総人口が縮小している中、国内で閉じた市場を形成するより、拡大する国際市場に参入する機会を確保した方が便益は大きいと考えるからだ。

 では、実質的標準として世界で広く参照されているNISTによるクラウドの定義とは具体的にどのようなものなのだろうか? NISTはクラウドを5つの本質的特徴と3つのサービスモデル(IaaS、PaaS、SaaS)、4つのデプロイメントモデル(Private、Community、Public、Hybrid)として定義している。本稿ではこの中で最も重要な5つの本質的特徴(Essential Characteristics)について集中して解説する。

 従来のICTサービスとクラウドの本質的な違いとして、NISTは以下の5点(定義要約は筆者)をクラウドの本質的特徴として挙げている。

  • On-demand self-service……オンデマンドセルフサービス
  • Broad network access……ネットワークからの標準アクセスとアクセス機器の選択の自由
  • Resource pooling……マルチテナントに対して動的に割り当てられるプールされた資源
  • Rapid elasticity……従量制で購入可能な資源の迅速で柔軟なプロビジョニング
  • Measured Service……高度な資源消費測定による資源消費の最適化

 NISTによると、この5つの特徴を備えていればそれはクラウドだといえるという。これは、具体的にどのようなサービスの姿を想定しているのだろうか?

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