今から始める「データセキュリティ」【第5回】
ファイル共有を情報漏えいの温床にしない「4つの手順」
情報漏えい対策を進める上で、データベースと同等か、それ以上に重要なのがファイルのセキュリティ対策だ。その具体的な手順を解説する。
前回「データベースより危険? 『ファイル共有』が内部犯行者の標的に」では、ファイルのセキュリティ対策にも注意が必要な理由と、ファイル操作を直接監視して制御する「ファイル基点」のセキュリティ対策が有効であることを示した。
第5回となる今回は、こうしたファイル基点のセキュリティ対策に必要となる機能を紹介。その上で、情報漏えいを防ぐ4つのポイントを例に挙げ、その実効的手段や方法について解説する。
連載:今から始める「データセキュリティ」
ファイル基点のセキュリティ対策に求められる機能
ファイル基点のセキュリティ対策を実現するために、セキュリティ製品にはどのような機能が必要となるのだろうか。
権限付与によるアクセス制御を中心とした従来のファイルセキュリティ対策は、ユーザーに対し、ファイルやフォルダへの操作権限を与える仕組みである。つまり、ユーザーが基点となる考え方である。
一方、ファイル基点のセキュリティ対策は、ユーザーではなく保護対象であるファイルを中心に据えるのが特徴だ。具体的にはファイルに対して、
- いつ(When)
- 誰が(Who)
- どこから(Where)
- どのような手段で(How)
- 何をする/何ができるのか(What)
を判断して、制御内容を変える。
ユーザー行動の把握は比較的容易だと考える企業は少なくないだろう。自社のファイル共有システムのユーザーであれば何となく把握できるし、システムでリスト化するのも簡単――。こうした考えを持つIT担当者は多い。一方で、自社がどのような情報をファイルで保有し、それが普段の業務でどのように活用されているかを正確に把握できている企業は少ないのではないだろうか。
こうした状況を踏まえると、ファイル基点のセキュリティ対策を実施するには、以下の機能が求められると考えられる。
- ファイル分類(Classification):ファイル/フォルダの重要性に基づきファイルを分類したり、分類行為を助けたりする機能
- ユーザー権限管理(User Rights Management):ファイルのアクセス権限を抽出する機能
- ファイルアクセス監査(Audit):重要ファイルへのアクセスを記録する機能
- ファイルアクセスモニタリング(Monitoring):未認可や異常なアクセスに対して警告する機能
- ファイルアクセス制御(Control):未認可や異常なアクセスを制御する機能
- リポート機能(Reporting/Visibility):グラフィカルリポートの発行、さまざまなログフィルタリング機能
連載第3回「ベネッセ事件でも標的に 『データベース』からの情報漏えい対策3カ条」では、データベースの情報漏えい対策は、保有する情報の棚卸しが出発点になると紹介した。ファイル共有システムの情報漏えい対策においても、その重要性は変わらない。
構造化データを保存するデータベースとは対照的に、非構造化データを保存するファイル共有システムは、文字通り混沌としていることが多い。ファイル基点のセキュリティ対策を実現するには、この情報の棚卸しを支援するファイル分類やユーザー権限管理機能が最も求められるはずだ。
ファイルセキュリティ「4つのフェーズ」
ここまで、ファイル基点のセキュリティ対策に必要な機能を整理してきた。実際にファイル基点のセキュリティ対策を進めるには、具体的に何をすればよいのだろうか。4つのフェーズに分けて紹介する(図1)。
フェーズ1:診断と分類
真っ先に実施することをお勧めするのは、ファイルの診断や分類の作業である。このフェーズでは、自社でファイルとして保存しているデータにはどのようなものがあり、そのデータはどのようなユーザーが必要としているかを棚卸しする。棚卸しに当たっては、上述したファイル分類やユーザー権限管理の機能を活用する。
ファイルの棚卸しでは、以下の点を参考にして整理するとよいだろう。
- フォルダ構成
- 各ファイルに含まれる情報
- 各ファイルの重要度(「機密レベル」「限定公開レベル」「一般公開レベル」など)
各ファイルの重要度については、連載第2回「ログ取得だけでは無意味 失敗しない『データアクセス監査』5カ条」で紹介したデータの重要度の考え方と同様だ。データの分類(レベル分け)については同記事の表2、保存場所の明確化(データの棚卸し)の例は表3を参照していただきたい。
コラム:実質的な作成者を特定する「ファイルオーナー」という発想
ファイルにはタイトルや件名などに加え、メタ情報として「作成者」の情報が含まれている場合がある。既存のファイルを基に資料を作成した場合、往々にして古いメタ情報が残存する。そのため、作成者情報が本来のファイル作成者とは異なってしまうことが多い。メタ情報を基にしたファイルの分類は、実態とのギャップが生じる危険性が伴うのだ。
こうした課題を解消すべく、新しい概念として登場し始めたのが、最も頻繁に利用しているユーザーをファイルやフォルダの「オーナー」だと見なす考え方である。ファイルを頻繁に開いたり、修正を加えたりといった利用実績があるユーザーを、そのファイルのオーナーだと考えるのである。
ファイルオーナーは利用実績から導き出した情報なので、実態とのギャップが小さい。ただし、ファイルオーナーの確定には、利用実態をモニタリングし続ける手間が掛かるのも事実だ。とはいえ、ファイルオーナーの考え方は、セキュリティ対策のためにファイルを整理、管理する上で、有用な手段となることは間違いない。
フェーズ2:記録と監査
利用実態や守るべき対象を明確にしたら、次に取り組むべきなのが記録や監査である。ここでキーとなるのは、「モニタリングは全体に、監査は必要十分に」という考え方だ。
「ログは取れるだけ取りたい」という声をよく耳にする。だが筆者の経験上、こうした考え方はあまりお勧めできない。ログを取得する目的が曖昧になるからだ。
ログは何らかの目的を持って取得するべきである。例えば、監査やフォレンジック用途であれば、その目的に見合う範囲に限定して取得する。そうしないと、ログから特定のアクティビティを調査する際、関係のない“ノイズログ”が邪魔をして検索性が落ち、目的のログにたどり着くのに時間がかかる。
ログの最適な保存期間は目的によって異なることも、頭に置いておかなければならない。ログを取得すること自体、当然ながらコストが掛かる。「ログを取れるだけ取る」といった考えでシステム設計を進めると、ログを蓄積するストレージコストが膨大になる。
必要十分な監査を実現するために、何を基に監査範囲を決定すればよいのか。これはフェーズ1で整理した各ファイルの重要度を基に決定すればよい。連載第2回「ログ取得だけでは無意味 失敗しない『データアクセス監査』5カ条」で解説したように、監査対象は機密レベル、限定公開レベルに指定したファイルに絞り込む(図2)。
フェーズ3:コントロール
フェーズ2まで進めると、各ファイルに対して閲覧や編集といった機能制限を掛けるコントロールが可能になる。ただし、むやみなコントロールは禁物だ。ユーザーが業務で必要とするファイルは、確実に使用できるようにしなければならない。ファイルに含まれる情報の重要度と、その情報を利用する業務内容に見合った制限を掛けるという運用が重要である。
検知した不審な行為にすぐ対処したい場合は、即座にコントロール可能な運用体制やシステムが必要になる。
フェーズ4:分析と報告
フェーズ4では、ログの分析や報告を通じてフェーズ3までの流れを定期的に振り返り、気付きの場を設ける。これまでに取得した監査やモニタリングのログを振り返り、それぞれの修正すべき点を洗い出し、フィードバックする。例えば、ログやアラートの結果から新たな制限を追加するなどが考えられる。
この振り返りのフェーズで非常に重要になる機能は、検索機能や視覚的なリポート機能である。テキストベースの無機質なログをただ眺めているだけでは見えてこなかった事象の発見に非常に役立つ。定期的な振り返りは、セキュリティ観点での発見やフィードバックを得るだけでなく、システム環境の合理化に役立つ新たな発見につながるケースも少なくない。
今回は、ファイル基点のセキュリティ対策に求められる機能と、その実装の流れを中心に紹介した。データ構造が整理されているデータベースと違い、ファイル共有システムでハードルが高いのは、その棚卸しの煩雑さではないだろうか。
いつでも利用できるインフラの構築や維持が至上命題である情報システム担当者にとって、今回紹介したような棚卸しを全て担うのは、その業務範囲から言っても非現実的である。特に1つひとつのファイルの重要性は、それを業務で利用している従業員にしか分からないことも多い。かといって、各業務部門に棚卸しを依頼したところで、おのおの本業のタスクが別にあることを考えると、恐らく期待通りには機能しないだろう。
こうした状況を踏まえた上で、ファイルセキュリティ対策を効果的かつ効率的に進めるにはどうすればよいか。現実解となるのは、従業員の本業に影響を与えないよう配慮しつつ、部門ごとにファイル管理が徹底できる環境を構築することではないだろうか。ファイル共有システムは他の社内システムに比べ、従業員に近い。だからこそ、セキュリティ対策にもユーザーフレンドリーなシステムを構築することが重要だと考える。
“守るべき情報”はどこにあるか
企業が保有する情報の利用方法は多様化が進む。データの格納先もしかりだ。数年前までであれば、企業が保有するデータの格納先といえば、データベースかファイルサーバと相場が決まっていた。現在はクラウドストレージに加え、「Apache Hadoop」に代表される大規模データ分散処理を活用したデータ保存環境も、企業のデータ格納先として選択されるようになってきた(図3)。
このように企業の情報の所在が分散し始めていることを考慮すると、自社が保有する情報はどのようなものか、どこに保管しているのかなどを再度整理することが重要だ。その上で、適切なファイルセキュリティ対策を進めることが求められるだろう。次回は、これらの新しい情報格納先にあたるビッグデータやクラウド環境での情報漏えい対策をテーマにお伝えする。
執筆者紹介
岩下洋司(いわした ひろし) 株式会社Imperva Japan
外資系侵入検知システム(IDS)/侵入防御システム(IPS)ベンダーや国内セキュリティ専業企業を経て、現在はImperva Japanにシニア・セキュリティ・エンジニアとして従事。ネットワーク分野などこれまで培ってきたセキュリティ知識に加え、コンサルタントやトレーナーとしての経験を生かし、ユーザー企業におけるデータセキュリティの普及に取り組んでいる。
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